参議院行財政改革・税務等に関する特別委員会
7月5日中央公聴会<午前・地方分権>

(国公労連「行革闘争ニュース」1999年7月5 第140号) 

 7月5日(月)午前、参議院、行財政改革・税制等に関する特別委員会は、中央公聴会を開催しました。午前中は、地方分権一括法案に対する4名の公述人による意見陳述に続き、公述人に対する委員の質疑が行われました。公述人の意見陳述と公述人に対する委員の質疑の概要は以下のとおりです。

(成田頼明公述人の発言終了後に傍聴)
<中央大学法学部教授 辻山幸宣公述人(民主・社民推薦)の意見陳述>
 機関委任事務の在り方は、戦後の特殊な状況下のものだった。地方分権を進めようとすれば、優秀な人材を必要とする。大都市ならともかく一般市では人材が得られないので分権は無理ということで、当時は中央省庁が機関委任事務をやっていくことに落ち着いた。戦後の荒廃の中で、国民に自治の責任を負わせるのは困難な状態だった。そういう事情の中で機関委任事務の制度が保たれたのは時代の状況から無理のないこと。
 今日、自治体をどうするか積極的な意見が出されている。地域にも人が育ってきている。基本は権限を使い、自治体の責任を全うさせること。
 地方分権法への私の不満は、分権推進委員会の勧告では、地方行政システムの改革がほとんど触れられなかったため、取り上げられていないこと。勧告にはないが、改革の精神は大幅に取り入れる必要があった。
 是正要求について、地方自治方245条5項は、なくても何ら問題はない。解釈で改善義務は既にある。したがって5項は削除すべき。また、自治体はこれからたくさんの準備がある。仮に通っても、1年くらいは施行時期を延ばしてもいい。

<マッキンゼーアンドカンパニーパートナー 上山信一公述人(公明推薦)の意見陳述>
 民間企業の視点から。また、以前に運輸省と外務省に勤務したこともある。感想としては、
  1. やっと戦後終わったんだなと。
  2. 足りないものだらけである。複雑になった地方行政に対して、今ある法案に手を付けただけ。また、6年もかかっている。施行にさらに1年もかかるという。遅すぎる。
1つには、民間・地方に任せる橋本内閣のコンセンサスが生かされていない。かなりの業務が国に残されているし、振り分けも国が決めた。根本的にプロセスに瑕疵がある。2つには、マーケットテスティングなど、サッチャーが行った手法などで、もっと民間に任せないといけない。民間ができることは全て民間がやる原則を守らないと、実質変わらない。また、サービスの在り方は、数値で測定して決めるべきだ。事実と数字に基づいた分析をすべきだ。経営改善の視点がない。3つには、企業の場合でも対等合併では、両方ともイニシアチブを取ろうとして、身動きが取れなくなる。地方政府の合併もそうだ。今の霞が関が良い例だ。一方が吸収する形でないとダメだ。4つには、エイジェンシー化するよりは、民営化すべきだ。金が国から来るのでは自立できない。しかもつぶせなくなる。
 最後に今後の課題として、この法案だけでは足りないので、附帯決議で縛りをかける必要がある。
  1. 地方行政にも行政評価制度を導入すべきだ。
  2. 現場の改善活動である、TQCやTQMの民間手法を導入すべきだ。
  3. 今後の行革議論には、行政のプロと民間のプロを入れてほしい。
<武蔵大学名誉教授 小沢辰男公述人(共産推薦)の意見陳述>
 我々はヨーロッパ地方自治憲章を叩きに、97年に8章に渡る地方自治憲章を発表した。憲法92条の地方自治の精神を踏まえ、国と地方の民主的な協力を歌った。
 国の直接執行とされるものの内、米軍用地特別措置法に関して、土地収用委員会に代わって執行することは、自治体の力を弱める。機関委任事務が廃止されても、国の関与は色濃く残っている。自治事務にも是正要求がある。これまでにないものだ。例えば、国の支配が強化される周辺事態法にも、国は自治体に協力を要請できるとある。今回の法案には、周辺事態法を補強する統制強化だ。法案は前法律の3分の1に当たる475本に及ぶものであり、慎重に審議すべきだ。
 必置規制について、職員や資格要件の廃止緩和は、ナショナルミニマムの水準保障を丁寧に見るべきだ。例えば、図書館の設置や司書の配置などもそうだ。地方議会の議員定数の上限を定めている。また、市町村合併の特例法については、合併に際しての住民投票制度まで決めるとすっきりする。
 税財源の移譲の問題については、何もふれられていない。

<自民党・亀井郁夫委員の質疑>
亀井委員 教育は国が責任を持つべきと考えるが、受け皿をきちんとしないで地方分権は問題。教育問題についての分権のあり方についてどう考えるか。
成田公述人 終戦直後教育委員会と警察制度を完全に地方に移した。その後の問題をみて昭和31年ごろの改正で現在の姿になった。憲法の範囲内で国が教育に責任を持つことは必要。しかし全国的に全く同じものを教えるというのはどうか。国と地方の役割分担を考える必要がある。
辻山公述人 制度だけでなく、親がどういう子供に育てたいかという思いがあり、その声を教育委員会などで受け止めることが必要。もう一度教育委員公選制を取り上げてはどうか。地方に人材は育っている。
亀井委員 外国の教育制度はどうなっているか。
成田公述人 アメリカは州によって違う。各州委せ。ヨーロッパは国が中心に義務教育から積み上げている。
亀井委員 地方の人材育成も必要。県と市町村の間の人事交流も必要ではないか。
成田公述人 三ゲンの分権が必要。自主的に考え、実行するような人材の確保はまだ不十分。民間から公務への人事交流も必要。採用試験の方法も変えることを検討すべき。
亀井委員 行政評価の問題に取り組むべきだが、地方公共団体でどういう形でやるべきか。
上山公述人 中央省庁改革では入っているが、地方でも同じようなものが必要。海外では国より自治体が進んでいる。我が国でも、サイズの小さい札幌、福岡などの政令指定都市で実験的な試みがされるといい。福祉施設で入居者の満足度を測定するとか、他の施設との比較をする。図書館や地下鉄など身近なところで評価をしてみるのがいい。
亀井委員 税、財源の問題をどう考えればいいか。
成田公述人 国と自治体のアンバランスの是正が必要。景気の動向を受けないような安定した財源が必要。
辻山公述人 分権に伴って税制改革は必然ではない。従来やっているものをはっきりさせるので、それほど事務量が増えるわけではない。従来のものは負担金と補助金に分ける。近いうちに抜本的検討を。

<民主党・山下八州夫委員の質疑>
山下委員 地方自治法245条の5項では、各大臣が是正要求できるようになっている。中央からのコントロール強化ではないか。
成田公述人 形の上では強化だが、内閣総理大臣の是正要求も余り発動されていない。しかし、行政指導が雨のようにやられ不透明だった。今度の改正では、自治事務については一切なくなる。現状よりよくなる。法定受託事務について義務、努力、協力、措置を講じなければならないものについて、是正要求する。不満があれば、国・地方係争処理委員会で決着を付けるので、下手をすれば国が恥をかくし、裁判にもなる。
辻山公述人 決定的な観点が抜けている。分権推進委員会では自治事務の定義をしなかった。戦後の時期と今日では違い、地方住民の自己決定に委ねるべきものが増えた。自治事務に国の関与はあり得ないと思う。地域にまかせれば国と地方の争いは起こり得ない。
山下委員 法定受託事務が45%、自治事務が55%くらいと、少しはよくなったと思う。しかし、税財源の以上はない。地方分権推進のためには必要ではないか。
上山公述人 財政的に自立できる地方公共団体には、起債や事業の民営化、地方課税なども速やかにまかせていい。自己経営能力のない自治体は自治省が責任をとるべきだ。中央の関与を深めていい。
辻山公述人 税、財源の問題は、分権以上の課題。せめて、何年以内にはやるという姿勢を示してほしい。

<公明党・弘友和夫委員の質疑>
弘友委員 行政評価法について詳しく。
上山公述人 行政評価の眼目は評価したものを公開すること、予算にリンクさせること。この二つがないと画期的なものにならない。もうやっているよという意見は、財政当局者に多い。しかし、財政当局者に査定権を渡した覚えはない。どう使ったかの説明はない。PPBSはかつて失敗したという者もいる。行政当局の中の評価を予算に生かす。しかし、行政当局者という専門家にまかせず、国民の目で評価すべき。
 行政評価は、一律の仕組みでは行かない。日米安保政策、初等教育へのパソコン導入、陸橋の付け替え、それぞれ違う。
成田公述人 何を評価するか、基準はどうするか、評価したものをどうするかなど。実験をして、その結果をみて、制度化を図る。費用対効果があるが、住民投票条例などは費用はかかるが、効果は目に見えにくい。

<共産党・富樫練三委員の質疑>
富樫委員 是正要求について、削除した方が良いと辻山先生が言われたが、法案では、是正要求ができるのは、違法状態で、適正を欠く場合とあるが、各大臣が違法状態かどうか断定することになるが。内閣・行政機関に自治事務に対し判断する権限があるのか。
辻山公述人 従来は地方自治体の事務にまで内閣の行政権が及ぶと解されていたが。今回、自治事務と法定受託事務に分け、及ぶ範囲を決めた。是正する仕組みそのものに問題がある。
富樫委員 地方自治法第2条の地方自治行政の基本原則の例示がなくなるがどう思うか。
小沢公述人 2条では例示的に範囲を広く決めているが、今回削除している。私もやや広く決めていた方が良いと思う。
富樫委員 地方憲章運動とはどんな運動か。
小沢公述人 住民が地域の政治に積極的に参加して、個々人が政治的力量を高める運動である。
富樫委員 日本の行政は一定レベルに来ているので、必置規制を解除しても大丈夫という意見あるがどうか。
小沢公述人 図書館法について話したが、図書館長は司書の資格を持っていないといけないとなっているが、奨励的に補助金を出してきているが、また4分の1しかいない。ナショナルミニマムとは何なのかである。

<社民党・日下部禧代子委員の質疑>
日下部委員 国会審議で、どの点について気を付けておくべきか。
辻山公述人 法定受託事務のコースと自治事務のコースがある。しかし、国会での審議は一緒になっている。自治事務はコースを外れかけたら、仲間が修正してくれる。法定受託事務はコースから外れると、国が笛を鳴らす。
日下部委員 住民参加と自治体の自己責任、政策責任についてお聞かせ願いたい。
辻山公述人 昨今、住民参加と言われるがどれだけ根付いているか疑問だ。参加しても時間切れで原案どおり通ってしまう。本来時間切れは引き分けだが、行政施策では時間切れ行政側必勝である。これをどうやって止めるかだ。政策提案は複数の案を提案する。複数出せば自ずと判断しなければならない。その際それぞれの案のアセスなども一緒に付ける。また、各省が始めている、パブリックコメントなども取り入れるべきだ。結果に対する評価をしないと自己責任は高まらない。
日下部委員 地方分権推進委員会では、住民参加はどのような議論がなされたのか。
成田公述人 地方分権推進基本法で、権限の移譲が決められており、そこを重点に議論した。住民参加については、下手に制度化して押さえ込むとかえって不自由になる。もう少し十分な議論をしていかないといけない。推進委員会では余り議論していない。
日下部委員 民間の経営手法を取り入れるべきと言われたが、どのような自覚が必要か。
上山公述人 都道府県と市町村で、また都市部と農村部では条件が違いすぎるので、一律にはいかない。特に、政令指定都市では、民間手法が馴染むのではないか。TQCのノウハウを持った民間失業者はいっつぱいいると思うので使うべきだ。税財源は、国からもらうのでは努力を放棄してしまう。本来、その地域の中での税財源でどう自治体を経営するかだ。そう考えると、都道府県はいらない。道州性も時代遅れ。合併も弱いところどうしが合併したのでは意味がない。
日下部委員 広域行政についてお聞かせください。
上山公述人 合併か広域的対応かの二項対立になっているが、広域連携で行くべきだと思っている。合併すると一つの意志になってしまう。広域連携と広域連合の使い分けが下手なのだ。

<自由党・入澤 肇委員の質疑>
入澤委員 地方分権推進委員会で、地方交付税の役割について審議したのか。山林を持ってるたくさんの自治体が、配分が不公平だと言っている。
成田公述人 突っ込んでは議論していないが、交付税についても審議してきた。税財源を配布しても、税財源にはアンバラがあるから、交付税はいるだろう。
入澤委員 地方分権に際して、地方自治体を強くしないといけない。@中央からの出向は、自主性を弱める。A首長の多選については、人事が硬直する。業者とのゆ着が生まれる。惰性になる。など批判があるがどう思うか。
上山公述人 出向は、補助金のパイプ役だが、議会と旨くいかないと返される、これが一般的な姿だ。補助金のパイプ役は禁止すべきだ。業績評価で出向を評価すれば、出向も自ずとなくなると思う。多選になればなるほど、行政評価がやりやすい。多選を是正する仕掛けとしても、行政評価を入れるべきだ。

<さきがけ・奥村展三委員の質疑>
奥村委員 12月の議会で条例化しないといけないと、地方自治体は心配している。今回の分権も、国からの押しつけと受け止めている。
成田公述人 今回の地方分権は、国が旗振りをしてきたのではない。平成に入ってから、民間政治臨調ができ、国会決議がされ、したから盛り上がってきた。その流れの最後がこの法案だ。
奥村委員 住民投票制度が取りざたされているが、まるで地方議会はいらないのという雰囲気がある。地方議会とは何なのか。
辻山公述人 住民投票は、一般的に代議員制の限界を補完すると言われているが、議会の危機が叫ばれている今日、議会が自ら積極的に、住民投票を取り入れるべきだ。
奥村委員 民間の感覚で自治体を経営しないといけないと言われたが、バランスシートを作る方向に行かないといけない。
上山公述人 税収にたよる財政に自主性がない自治体がバランスシート作ってもどこまで役立つのか。それよりも、行動活動評価をすべきだ。それぞれの職員が、どれだけの時間でどれだけの仕事をしたか評価して、民間と比べて高いか安いか評価すべきだ。幾つかの自治体で行われているバランスシート作成は、ほとんど民間丸投げで、単に作っているだけだ。国全体を連結決算で作るべきだ。また、外郭団体とも連結しないとダメだ。

<自由連合・石井一二委員の質疑>
石井委員 成田公述人に、審議会が形骸化しており、御用学者しか選ばれない。原案も役人が作っている。地方分権推進委員会の勧告も意味がないのではないか。
 辻山公述人に、245条の係争処理委員会のメンバーはどのように選ばれるのか。
 上山公述人に、政策評価についてもう少し聞かせてほしい。
 小沢公述人に、92条の直接執行について、沖縄の一坪地主など、あんな抵抗やっても良いのか。
成田公述人 審議会も色々あるが、全部そのようになっているわけではない。地方分権推進委員会は、事務局にあまり関与させなかった。原案も委員で作った。
辻山公述人 係争処理委員会は、国の行政機関である。人事は国会承認になっている。そのため、国会の権威を期待したい。
上山公述人 行政評価は、自己評価である。予算の審議のプロセスに埋め込んで、ある仕事の効果が上がらなかったのは、予算が足りないのか、やり方がまずいのかを評価すればよい。万能ではないし、議会の役割も多い。
小沢公述人 米軍特措法については、法定受託事務にした方がよいのではないか。
(以 上)

トップページへ   前のページへ