安心年金つくろう会は5月29日、東京の社会文化会館において「国民の年金権を考える5.29年金集会」を開きました。集会には、年金者組合をはじめとする労働組合をはじめ、婦人民主クラブや婦団連、自由法曹団など幅広い団体から約100人が参加しました。
開会にあたって主催者あいさつした国公労連の宮垣忠委員長は、「消えた年金を解決してほしい、安心して老後を暮らせる年金制度を作ってほしいとの国民の願いが高まっている」もとで、日本年金機構の労働者の半分以上が有期雇用であることなどを指摘し、「年金制度は度重なる改正で複雑。業務をこなすには10年の経験が必要であり、知識と経験のある525人の解雇は撤回し、年金の仕事に戻して安心できる年金をつくろう」と訴えました。
■年金機構の混乱は知的熟練が必要な公務を粗末にした結果
続いて、神戸大学の二宮厚美教授が「社会保障構造改革と日本年金機構」と題して基調講演。二宮教授は、民主党が検討している新年金制度について、すべての国民に最低保障年金7万円を保障することは従来の自公政権よりは一歩前進としつつ、「その財源を消費税でまかなうことは、財界・大企業の保険料負担を理論上はゼロにすることであり、企業は責任を持たなくていいとするもの」と批判しました。また、新自由主義による「地域主権改革」について、「地域主権国家構想の名前でもって、分権的に社会保障制度を解体するもの。国の責任は自治体に転嫁して、国は医療についても保育、介護、障害者福祉も責任をほおかむりするもの」とのべました。民主党の社会保障改革には、新自由主義改革路線としての、消費税の福祉目的型増税路線と福祉国家の分権的解体路線という二つがあるとし、「新自由主義的な社会保障構造改革というのは、年金の仕組みを基本的に、市場化・民営化路線に切り替えるもの。年金を担ってきた行政機構を新自由主義的に改変するもの」と指摘しました。
そして、新自由主義による行政の効率化は、民営化や民間委託で公務員を民間の安い労働者に置き換えるものと強調し、「安上がりと効率化によって、年金機構も正規雇用を非正規に置き換えて安上がりになるとしても、再び記録問題が再現されるか、国民の信頼が崩れる」と述べました。
同時に、「専門家の首を切るということは、強権的な人減らしが年金機構の狙いであり、その体質を先取りして示したもの」、「公務には知的熟練が求められる。住民とのコミュニケーション的知的熟練が必要な仕事である。国民との対応のなかで発揮される知的熟練を粗末にすると、いまの年金機構のような混乱を引き起こす」、「数年しか生きてられない年金機構をつくって、混乱を招きながらやっているのはナンセンスだ。年金制度と年金機構の問題を国民に明らかにして、将来の年金制度のあり方、年金行政のあり方の対案を出していくことが必要」と強調しました。
■求められる最低保障年金や年金機構の問題点を検証
続いて特別報告として、年金者組合の久昌中央執行委員が、民主党政権が検討している新年金制度に触れつつ、「消費税によらない最低保障年金を、現在存在する無年金、低年金者も対象とするものとしてつくらなければならない」と強調しました。
また、全厚生の元副委員長の広部氏は、「年金の仕事は10年やっても無理。40年近く業務に携わる人がいるが、難しい質問には答えられない。年金事務所長にも権限なく、窓口で込み入った人が来たとき、支給するかどうか決定できない」と指摘。また、「年金機構は法令解釈はしてはいけない。間違いがあれば、解雇されてしまう。年金局の職員も現場の経験はなく、しばらく待ってくれというが、待っても返事が来ない状況」など、年金機構の業務の問題点を述べました。
現場からの報告では、年金機構本部支部の峰支部長が、記録問題の処理に関わって「再裁定処理は245万件の実績だが、今年度も80万件くらいあり、紙台帳とコンピューターの突合なども含め、当面3年くらいは続く」との見通しを述べました。また、「人材育成は始まったばかり。障害年金の支給決定も一生懸命に研修してやっているが、覚えるのがたいへん」と経験者の必要性を訴えました。
全厚生神奈川の鈴木さんは事務センターでの外部委託の問題点を報告。年金機構が推進する業務の民間委託は来所者が求めるもの迅速な事務処理と矛盾していることや、委託業者は契約で決められたことしかできず、職員であれば修正しうることが結局入力誤りとなっていること、年金業務は2、3年では対応できず、業務に精通した職員で運営しており組織力は低下していることなどを報告し、「第2の年金記録問題の危険性も感じる」と発言しました。
集会には社保庁を解雇された仲間も参加し、全厚生闘争団の愛媛の小島さんが代表して発言。「みなさんの大きな支援に励まされている。解雇を撤回させ、職場に戻るまでたたかう」と決意を述べ、さらなる支援を訴えました。
最後に自由法曹団の近藤弁護士が「はじめて聞く話もあり、非常に勉強になった。安心できる年金をつくるために、請願署名のとりくみも進めましょう」とまとめと閉会のあいさつを行いました。
以上