社保庁の不当解雇撤回と年金改善のたたかいを一体で◆年金機構発足1年の検証集会と全厚生闘争団激励集会ひらく
(「国公労連速報」2011年4月1日付【社保庁職員不当解雇撤回闘争ニュースNo.26】)

【とりくみ:社保庁 分限免職】2011-04-01
 安心年金つくろう会は3月26日、東京の家電会館において「年金機構発足1年を検証する3.26年金集会」を開催しました。東日本大震災から2週間余で、各単産・団体も多忙をきわめるなか148人が参加。年金集会では、一橋大学の高山憲之特任教授・総務省年金業務監視委員会委員が特別講演を行い、現場からの報告などで、老後の支えである公的年金を受託した日本年金機構の実態や525人の分限解雇をはじめ経験者が多数排除された問題があらためて明らかになりました。
 年金集会にひきつづき、国公労連社保庁不当解雇撤回闘争本部と全厚生闘争団を支える会による全厚生闘争団激励集会が開かれました。また、年金集会の前段には「全厚生闘争団を支える会」の第2回総会が開かれました。
 
 公的年金は国の責任で、直接運営しなければならない
 
 「年金機構発足1年を検証する3.26年金集会」の開会あいさつで国公労連の宮垣忠委員長は、まず、大震災での犠牲者への哀悼と被災者に対するお見舞いをのべ、被災者救援と復興に全力をあげることを表明。そして、「年金機構が発足してから1年3カ月がたったが、消えた年金記録の回復は思うように進まず、いまだに業務の混乱が続いている」と年金機構の現状をのべました。その要因として、専門的な知識と経験を持った525人の職員を不当解雇し、民間から1,000人以上の新たな職員を採用したことや非正職員が全体の半数という異常な業務体制を指摘。「厚労省と年金機構が、国民に対するサービスを確保し、年金記録問題を解決して国民が安心できる年金制度を確立するためにも、旧社保庁職員の分限免職は取り消し、正規職員に採用してその経験と知識を活用すべきだ」とのべました。
 
 求められる組織とはほど遠い、高山教授が運用3号問題をきびしく批判
 
 高山教授は、厚生労働省とは別の中立的なものとして設置している年金業務監視委員会について、この間、目先の問題に振り回されてきたけれど、サラリーマンの妻である3号被保険者の運用問題では役割を果たしたと強調。「政治主導で決めると言うが、政治家が間違った場合には決定的な問題を起こす。それが運用3号問題だ」とし、大臣自らが法令違反をしたときびしく批判しました。
 525人を分限免職し、大量の民間委託を行い、経験者を多数排除した年金機構については、「業務は素人集団を抱えて著しく混乱している。今の組織のあり方が本当にいいのか」と指摘するとともに、一方で社保庁制裁論が日本を支配してしまったとのべました。そして、職員を大幅に削減し、非正規職員が半数を超えていることや職場で助け合うヨコの連携がとれなくなっていることにもふれました。また、「外国のいろんな組織を見てきたが日本ほど多くの業務を民間委託している国は他にはない」と日本の異常さにふれ、「世界で初めて実験をしている。これでは国民の信頼回復はおぼつかない」とのべました。
 タテの組織問題では、「物事を決めることと運営が分離され、年金機構と年金事務所は事務処理工場となって、何の権限も与えられていない。何をするにもすべて厚労省に指示を仰ぎ、やらなければならない」と指摘。そして、この一年を見る限り、社保庁改革で求められたタテの風通しをよくするものにはなっていないとし、求められていた組織とはほど遠いものになっていると批判しました。
 
 紙台帳とコンピュータ記録の突合による消えた年金記録の解消は錯覚
 
 紙コン業務については、紙台帳にはかなりの間違いが含まれており、最終的には本人に確認しなければいけないが、この業務はすでに年金特別便として実施していると指摘。そして、自らの年金記録を詳細に確認して75%の人が回答していることを紹介し、「紙コンでもう一度やることは、お金と労力のムダ使いだ」と批判しました。
 この点について高山教授は、「事実を冷静に見つめて、何ができて、何ができないか、物事の優先順位を決めることがなく、政治的に決められ、本来業務がおろそかになっている」とし、今回の大地震にもふれて、「事実を冷静に受けとめることができず、事実を隠してしまう」ことを批判しました。今回の大地震の前に、同じ場所で群発地震が発生しており、研究者はマグニチュード7規模の地震の発生を予見し、ネット上でも警告していた事実を紹介。いま、この記録はネットから消えているが、誰の指示で消したのかと告発し、仮に東京電力が対応していれば災害の状況は違っていたのではないかと話しました。
 
 信頼回復はコンプライアンスとモチベーション、アカウンタビリティで
 
 高山教授は、「年金機構でやる気を起こさせることができているか、心配している」とし、覆面調査によるスパイ活動に予算をつけていることを批判しました。また、民営化されたJRが予算も権限も現場におろしたことを紹介し、「厚労省の指示と決定をもとに年金機構の職員は仕事をしろと。JRとは正反対の仕組みを作った」と批判しました。職場の声が反映されるものになっていないが、精神革命には職員のモチベーションをどう上げるのかが最も大事なことだと指摘しました。
 コンプライアンスについては、主張した大臣本人がそれに反することをし、今は大臣でないと処分も受けていないと指摘しました。
 また、アカウンタビリティについては、「問題点は隠そうとしても隠せない。どんなことでも丁寧に説明をすることが大事。組織としての透明性を高める努力をしなければならない。それをしないと信頼される組織にならない」と話しました。
 
 年金記録は間違うことを前提にシステムをつくることが必要
 
 年金記録問題について高山教授は、「今でも間違った年金の事務処理はいろんなところで起こっている。将来も防げないというのが実態」とし、アメリカでは2億5千万件、イギリスでも1億2千万件の宙に浮いた年金問題があることを紹介しました。そして、間違いを前提にしたシステムが必要であり、間違いを早く発見して正しい記録に訂正するシステムが必要で、お金がかかるが冷静に議論して予算をつけてもらうことが大事だと話しました。
 最後に、大震災では被災した方々の深い悲しみが共有され、共感の輪が拡がっているが、社保庁は怒りと反発がスタートであったとし、怒りを解かないと信頼される組織にはならないと話しました。そして、国民の信頼を得るためには、関係者の悩みや要求に応える地道な努力の積み重ねが大事だ、と講演を結びました。
 
 公的年金は国の責任で直接実施を、年金機構職場の実態を報告
 
 日本年金機構の各職場の実態について全厚生本部の山本委員長と峰副委員長、全厚生南関東支部の仲間がそれぞれ報告。
 日本年金機構の問題点について峰副委員長は、運用3号問題で年金事務所に指示したが、夕方には止めろと指示したと、混乱ぶりを報告。いま、厚労省年金局の指令で法案作成にあたっての実際のデータのサンプル調査をしていると話しました。また、紙台帳とコンピュータの突き合わせで150万から200万件の再裁定が予想されるが、本人に通知を出して4ヶ月たっての返信が100件程度で遅々として進まないと現状を報告。多くのベテラン職員がいなくなり、厚労省の年金局も精通した職員が少なくなって、何かあれば年金機構に知恵を出せと言ってくると話しました。
 神奈川の事務センターで働いている仲間は、職員が行っていた業務のウインドマシンへの入力作業を民間委託している問題点を発言。受託会社は、紙台帳の記録をフロッピーディスクに入力して機械に読み込ませたら終了としているが、報酬月額などのFDへの入力ミスが日々起こっていると指摘。業者は単に入力するだけであり、このまま外注化すると将来に大きな問題を与えるとし、公的年金は国の責任で実施することが当たり前と発言しました。経験者が不当解雇や自主退職し職場が混乱していることにもふれ、正確な記録を管理するためにも、経験者を雇用することと、最後まで国の責任でやっていくことが必要だと訴えました。
 京都南年金事務所で働いている山本さんは、これから職場の柱になる職員が転職を考えていると、モチベーションがあがらない深刻な職場実態を報告。また、年金機構に権限が与えられていない問題について発言しました。保険料の過納分の還付は、年金事務所で受け付けて年金機構でチェックをし、年金局がとりまとめ、財務省の会計センターで一括振込になることを紹介。全国の還付件数は2~3万件になり、1件でも口座誤りなどがあるとすべての振込がストップする問題を指摘し、事務所で還付処理していたこととの違いを訴えました。
 
 経験者を年金職場にもどせ、フロアからも発言
 
 年金者組合の阿久津さんは、震災での年金業務の混乱や二ヶ月毎の年金支給を毎月とするためにも525人を職場に戻してと発言。婦団連の榎本さんは、震災のなかで必要とされているのはベテラン職員であり、もとに戻して力を発揮してもらおうと呼びかけました。
 須磨年金事務所で働いている仲間は、年金窓口業務の社労士会への委託で高い費用が支払われているが、賃金の安い特定契約職の方が確実な仕事をしていると職場の矛盾を告発しました。
 
 全厚生闘争団がんばれ!  空の安全と安心の年金を、日航原告団ともエール交換
 
 全厚生闘争団激励集会であいさつした国公労連闘争本部の宮垣本部長は、「雇用を守るべき厚労大臣が、分限免職を回避するための努力をまともに行わずに、年金業務を現場で支えてきた職員を使い捨てにしたもので、断じて許せない」と訴え、日本航空の不当解雇撤回のたたかいとともに、旧社保庁職員を職場に戻すために全力でたたかう決意を表明しました。
 激励にかけつけたJMIUの三木書記長は、未曾有の震災被害について、市町村合併や強制の縮小が被害を拡大していると指摘し、その中で、「公務員のみなさんが被災者や住民を激励しており、公務員労働者の重要性が浮かび上がっている」、「公務員労働者の解雇は許さない」と強調しました。同時に、民間での解雇をめぐるたたかいが重要局面にあるとして、日本航空の整理解雇やIBMでのボトム10での退職強要などを紹介し、「許すな!乱暴な解雇・退職強要、声を上げよう4.14集会」の成功を呼びかけました。
 社保庁不当解雇撤回全国弁護団の中川弁護士が人事院審理での争点などを報告した後、全厚生の山本委員長とともに闘争団当事者の20人が登壇。一人ひとりが決意を表明しました。
 年金集会から参加していたJAL不当解雇撤回裁判原告団の仲間を代表して山口団長が、日航の不当解雇も社保の分限免職も根っこは同じだとし、ともに撤回を勝ちとるまでたたかおうとエールを送りました。
 
 全厚生闘争団を支える会第2回総会開く
 
 全厚生闘争団を支える会の第2回総会では代表世話人の大黒全労連議長が、「全労連としても、このたたかいを前に進める」「未曾有の大震災のもと、国民に浸透するには時間がかかるが、いっそう奮闘しよう」とあいさつ。全厚生闘争団の飯塚副団長がとりくみの到達点と方針を報告しました。
討論では、日本医労連の原書記次長が「運動の状況が伝わらず、心配している。どう支援すればいいのか、情報提供をお願いする。医療の仲間は、働く権利と仕事の内容は一体だ。国民の年金権を守るたたかいと一体でたたかおう」と闘争団を激励しました。
 全厚生闘争団を代表して山本団長がお礼と引き続きの支援をお願いし、愛媛の児島さんが前日まで行われた人事院審理の状況も含めて発言しました。
総会では、昨年5月23日結成以降のとりくみと到達点を確認し、支える会会員の拡大と不当解雇撤回の重要性を広範に拡げる決意を固めあいました。
 
以上