賃金引き下げを「円滑」におこなうための「自律的労使関係制度」、人勧制度を蹂躙する「賃下げ法案」は認められない
◆全労連がILOに「追加情報」を提出
(「国公労連速報」2011年9月29日付)

【とりくみ:労働基本権 公務員制度】2011-09-29
 全労連は、およそ自律的労使関係確立とは言い難い「公務員制度改革関連法案」と、国公労連との合意もないまま6月3日に国会提出された「給与の臨時特例法案(賃金引き下げ法案)」にかかわって、下記の内容で9月21日にILO結社の自由委員会に追加情報を正式に提出しました。
 なお、政府と連合も追加情報を提出しています。
 
 日本政府の「公務員制度改革」に関する提訴
 (2183号案件)に係る「追加情報」
 
2011年9月21日
全国労働組合総連合

 全国労働組合総連合(ZENROREN)が申し立てた2183号案件について、2010年秋以降、日本政府の新たな動きがあるので、提訴組合としての情報を提供する。
 
 1.国家公務員法改正法案等の閣議決定と国会提出までの経緯について
 
 (1) 2009年12月15日、政府の国家公務員制度改革推進本部(以下、推進本部)のもとに設けられた労使関係制度検討委員会(以下、検討委員会)は、「自律的労使関係制度の措置に向けて」とする報告書を取りまとめた。検討委員会は、2009年10月に設置されて以降、国家公務員の労使関係における交渉制度をはじめ多岐にわたる論議を行ってきた。
 検討委員会は、関係者からのヒアリングを精力的に行ったが、各検討課題について「3つのモデルケース」を並立的に示す内容にとどまった。「3つのモデルケース」とは、民間労使関係制度に可能な限り近づけるものと、勤務条件法定主義を過度に強調して交渉範囲を制約するものとを両極におきつつ、その折衷案も提示するものであった。
 この経過からして、政府には検討委員会の報告をふまえた公務員制度改革の原案を取りまとめ、関係者との協議、特に使用者・政府と関係労働組合との協議を促進することが求められていた。しかし、推進本部は、検討委員会報告を受領後、約1年間にわたって協議の場を設けることはなかった。
 
 (2) 検討委員会では、国家公務員制度改革基本法(2008年法律第68号)第12条にもとづき、協約締結権回復を中心とする「自律的労使関係制度」の検討が中心とされ、争議権についてはほとんど論議されなかった。
 しかし、2010年11月26日、突如政府は、「国家公務員の労働基本権(争議権)に関する懇談会」(以下、懇談会)の設置、開催を決定した。懇談会は、<1>自律的労使関係を構築する上での争議権の意義、<2>争議権を付与する場合において、公務員の職務の公共性と争議権を調和させるための規制措置の2点を検討課題とし、国家公務員の争議権回復を前提としたものではなかった。
 懇談会は、2010年12月17日に報告書を取りまとめた。わずか1か月たらずの論議で、しかも、当事者である全労連などの意見反映の場もないままに取りまとめられた報告は、国家公務員の争議権についての過去の論点を取りまとめた程度の内容であり、なんらの積極的姿勢も示さず、ILO勧告に正面から応えたものでもなかった。
 
 (3) 政府が、先の検討委員会の報告書からほぼ1年が経過してから、争議権に関わる報告を取りまとめたのには、次のような事情があったことを指摘する。
 政府は、国家公務員賃金の基本給を0.19%引き下げるとした2010年人事院勧告の取り扱いで勧告を上回る賃金カットを画策したものの、労働組合の反対や憲法上の問題から断念せざるを得なかった。
 しかし、2010年11月1日に政府は、<1>2011年通常国会(1月召集)に自律的労使関係制度を措置するための法案を提出する、<2>(賃下げを含む)人件費削減に必要な法案を2011年通常国会から順次提出する旨を閣議決定した。この時点で、公務員賃金引き下げ(人件費削減)を労使交渉によって「円滑」に行うために「自律的労使関係制度」の整備を急ぐという逆立ちした方針が、政府の基本となった。こうしたことから政府は、労働基本権課題で残されていた国家公務員の争議権にかかわる検討を「アリバイづくり」的に行ったと全労連は考えている。
 
 (4) その後、政府は、「自律的労使関係制度に関する素案」を2010年12月22日に公表し、12月24日から翌年1月14日まで、「自律的労使関係制度の措置に向けての意見募集」(パブリックコメント)が実施された。
 日本では、年末年始の期間は官公庁を含む多くの企業、事業所が休暇に入るが、この期間をふくめたわずか3週間のパブリックコメントは、一般国民に意見を問う手続きとしては極めて不十分なものであった。こうした時期にパブリックコメントが実施された背景には、1月に召集の通常国会の早い時期に、国家公務員の自律的労使関係制度関連法案を国会に提出し、人事院勧告によらない公務員賃金カットを正当化しようとする政府の思惑があったものと、全労連は考える。
 
 (5) パブリックコメントを経て、政府は、自律的労使関係制度の創設を含む国家公務員制度改革関連法案の策定作業を本格化させた。
 事務的折衝は行われていたが、全労連と推進本部との正式の交渉・協議が行われたのは2011年3月3日であった。
 この交渉の際、政府からは、公務員制度改革の多岐にわたる制度改正を含めた「改革の全体像(案)」が提示された。全労連は、意見反映も不十分なまま、「素案」提示から2か月余りで拙速な取りまとめを行う政府に抗議した。同時に、政府が提案した「全体像(案)」に対し、<1>労働組合の認証、<2>管理運営事項の取り扱い、<3>団結権、団体協約締結権が否定される職員の存在にも目を向けた職員代表制度検討の必要性、<4>在籍専従期間の上限規制の撤廃、<5>協約締結事項にかかわる内閣の事前承認制度への反対、などの意見を述べ、合意をめざした誠意ある交渉・協議を尽くすよう強く求めた。
 
 (6) 推進本部は、法案決定の前提となる「国家公務員制度改革基本法案等に基づく改革の『全体像』について」(以下、「全体像」)を2011年4月5日に決定した。  この決定過程で、全労連との交渉・協議も行われたが、政府案の提示から1か月程度の期間しかなく、かつ、3月11日に発生した東日本大震災による混乱した状況のもとでの交渉・協議であったことから、必ずしも満足のいく交渉経過とはならなかった。推進本部の対応は、全労連の主張に応えるものではなく、提示した「全体像」の説明の域を出ず、全労連の主張を反映させようとするものではなかった。
 「全体像」決定直前の4月4日の交渉で、全労連は、こうした交渉・協議の不十分さ、不誠実さを指摘するとともに、次の点を主張した。
 
 <1> 協約が締結できる労働組合を、現状よりも要件を厳しくした中央労働委員会の認証を受けたものに限定することは、職員団体のあり方に変更をせまり団結権、団体交渉権双方を侵害する恐れがあり反対である。
 
 <2> 法律の改廃をともなう団体協約についての事前の内閣承認は、交渉当事者の自由な意見交換を阻害し、当初から誠実な団体交渉を困難にすることから反対である。
 
 <3> 国家公務員の職場でも、組合間差別は少なくなく、かつ30年以上にわたって是正されていない現状もふまえ、強制力のある不当労働行為制度の検討が必要である。
 
 <4> 各省大臣、会計検査院又は内閣総理大臣の申請によって仲裁が開始できるとしている強制仲裁の申し立てを規定していることについて、争議権を否認した制度のもとでは、労使交渉の障害となりかねず、見直しを強く求める。
 
 <5> 労使関係を除き、現在の人事院の機能を承継する「公正委員会」の機能と体制強化は、公務員の公正・中立性を維持する上で要の課題であり、再検討を求める。
 
 しかし、結果的には、政府が全労連のこれらの主張を受け入れることはないまま、公務員制度改革関連4法案が決定された。
 
 (7) 政府は、「全体像」をもとに、国家公務員制度改革関連4法案の策定作業をすすめた。
 4法案とは、<1>国家公務員労働者の労働条件について労使交渉をもとに法令化する「自律的労使関係制度」創設のための「国家公務員の労働関係に関する法律案」、<2>人事院勧告制度および人事院の廃止と公正委員会設置などのための「国家公務員法等の一部を改正する法律案」、<3>国家公務員の労使交渉における使用者機関を設ける「公務員庁設置法案」、<4>自律的労使関係制度の創設をふまえた国家公務員の賃金、労働時間を定める法律の「整備法案」であった。
 法案をめぐる交渉・協議では、全労連は、「全体像」に対する全労連の意見((5)の<1>~<5>)をふまえた法案策定を重ねて強く求めた。
 
 (8) 政府は、4法案を6月3日に閣議決定し、ただちに国会に提出した。6月2日の交渉では、全労連は交渉経過も含めて次の点を主張している。
 
 <1> 10年来の懸案であった公務員制度改革とかかわって、国家公務員の労働関係に関する法律案などの取りまとめを政府が行うことは、労働基本権回復に向けた節目と受けとめる。
 
 <2> 決定されようとする法案は、全労連が求める公務員労働者の基本的人権としての労働基本権回復という要求や、この間のILOからの数次の勧告に照らせば不十分であり、団結権保障の範囲、団体協約締結権のより完全な保障、争議権回復に向け、引き続きの検討と協議を要請する。
 
 <3> 労働組合の事前認証制や、管理運営事項を交渉対象事項からはずすこと、協約締結にあたっての内閣の事前承認など、「全体像」決定時に全労連が指摘した問題点が是正されなかったことは、不満である。
 
 <4> 法案策定段階で、同時並行的に進められた国家公務員の賃金引き下げをめぐる「交渉」を、今回決定される法案の先取りと位置付けることには反対である。
 
 なお、法案決定時に指摘したこれらの点は、今回政府が国会に提出した国家公務員の労使関係制度法案への全労連の評価でもある。
 
 (9) 地方公務員労働者の労働基本権回復に向けた論議は、「全体像」において「地方公務員の労働基本権の在り方については、地方公務員制度としての特性等をふまえた上で、関係者の意見を聴取しつつ、国家公務員の労使関係制度に係る措置との整合性をもって、速やかに検討」とされたことから、実際の検討が遅れてきた。
 「全体像」の決定を受け、地方公務員制度を担当する総務省は、4月下旬から5月中旬にかけて、関係者のヒアリングをおこなった。ヒアリングでは、自治労連(JICHIROREN)、全教(ZENKYO)(いずれも全労連加盟)から、<1>国家公務員の労使関係制度で問題として指摘した点の改善、<2>地方自治体における労使関係の現状をふまえた検討、<3>民間労働者に適用される法令についての国家公務員と地方公務員の違いなど、現行制度の違いをふまえて検討、<4>地方公務員には教育公務員も含まれることをふまえた一体的な制度検討、<5>憲法上の規定である「地方自治の原則」と整合する制度の確立、<6>労使の関係での協議の徹底などが主張された。
 
 (10) なお、全教は、2008年にCEARTからILO理事会とユネスコ執行委員会から日本政府に出された勧告で、 「国とすべての教育委員会に対して、国と地方の教員を代表するすべての教員団体との交渉と協議に関して、1966年勧告の規定がさらに全面的に適用されるよう、該当する法規と運用を見直し、必要に応じて改めるよう要請すること(43項の4)とされたことを受けとめ、文科省に対しても2011年1月に、「教職員に関わる労働基本権拡大の法制化に向けては、憲法と教員の地位に関する勧告に則り、教職員の所管官庁として総務省と十分な協議をおこなうこと」を申し入れている。しかし、今日に至るも具体的な進展はない。
 
 (11) 総務省は、国家公務員改革関連法案が閣議決定される直前の6月2日に「地方公務員の労使関係制度に係る基本的な考え方」を示し、6月15日から7月6日までの間にパブリックコメントが実施された。
 なお、「基本的な考え方」は、関係労働組合との協議もないままに取りまとめられたものであり、全労連の意見が反映されたものではなかった。全労連は繰り返し、労働基本権を具体化する労使関係制度の改革にあたっての労使交渉・協議を求めているが、地方公務員制度改革ではそのことについての総務省の対応は曖昧である。
 地方公務員労働者の労働条件などの基準を示す地方公務員法などの策定で、総務省は重要な役割を果たしている。法改正作業などを通じて、地方公務員の労働条件変更に直接的な役割を発揮しており、その範囲内で使用者の立場に立っている。にもかかわらず政府は、知事会や市長会ななどと同列の「関係団体」に一括りし、労働組合との交渉・協議を尽くそうとしていない。
 
 2.消防職員の団結権をめぐる日本政府の検討状況と全労連、自治労連の対応
 
 消防職員の団結権について政府は、2010年1月に「消防職員の団結権のあり方に関する検討会」(以下、検討会)を総務省に設置した。検討会は、12月3日に報告書を公表している。
 検討会では、自治労連などからも意見聴取はされてはいるが、「消防職員の団結権回復を推進する」(2009年10月、原口総務大臣(当時)の発言)との立場は確認されないまま、論議が進められた。
 その結果、最終報告書では、<1>団結権のみを認める、<2>団結権に加え労使協議を認める、<3>団結権と当局との交渉(労働協約締結権を含まない)を認めるなどの「5つのパターン」が例示されるとともに、「団結権回復に代えて消防職員委員会制度を改善するパターン」も併記されるという後退した内容となった。
 このように、日本政府は、消防職員の団結権保障に消極的な意見を説得しきれておらず、ILOが再三求める消防職員と警察職員の違いをふまえた労働基本権回復を進める立場には未だ立っていない。
 全労連は、このような政府の姿勢は、明確な約束違反だと考えている。
 
 3.公務員労使関係法整備以前の政府による賃下げ法案の提出
 
 (1) 政権党である民主党は、2009年8月の衆議院選挙、2010年7月の参議院選挙で「国家公務員の総人件費2割削減」をマニフェスト(選挙公約)に掲げた。
 2010年8月人事院勧告の取り扱いとかかわって、そのマニフェスト実施が政治課題となった。2010年の人事院勧告は、月例給、一時金ともに引き下げ、平均年収で9.4万円減となる勧告であったことから、これをさらに上回る賃金カットを政府が検討し、国会でも政治課題として取り上げられた。
 紆余曲折はあったが、現行の人事院勧告制度のもとでは、さらなる賃金引き下げを使用者・政府がおこなう余地がないことから、2010年人事院勧告通りの実施とされた。
 しかし、2011年11月1日の勧告取り扱い決定とあわせて政府は、先述しているように2011年通常国会への自律的労使関係制度関連法案の提出と人件費削減法案の提出を閣議決定した。
 
 (2) 国家公務員の人件費削減が賃金カットのみを意味するものではないが、人員削減や組織合理化などは、すでに限界を越えていると言えるほど政府によって強行されて続けてきた。「人件費2割削減」の目標の過大さもあり、政府みずからが「現在の人事院勧告制度の下で極めて異例の措置」とする給与削減法案の提出がねらわれた。
 2011年4月22日、全労連傘下の国公労連(KOKKOROREN)が、2011年2月に政府あてに提出した「2011年統一要求書」への回答で、「給与の引き下げについては具体案がまとまった段階でよく説明し、理解が得られるよう話し合いたい」と、一方的な通告をおこなった。
 この通告がこの時期に行われたのは、国家公務員の自律的労使関係制度の創設などを内容とする「全体像」の政府決定をふまえたものであったことは、経過からして明らかである。
 
 (3) 政府は、5月13日に、国公労連に対し、<1>俸給・ボーナスの1割カットを基本として、国家公務員一般職の給与を引き下げる、<2>給与の引き下げは2013年度末までの時限的な措置とする、ことを国公労連に提案してきた。
 提案で政府は、東日本大震災の復興財源確保も含めた「厳しい財政事情」から歳出削減が不可避とし、人件費も例外ではないことを強調した。
 この提案に対し、国公労連は、<1>政権党の公約である人件費2割削減方針の実行によって財政再建を図るとしているが、この間の公務員賃金削減のもとでも財政赤字は増大しており、提案には道理がないこと、<2>公務員労働者の賃金引き下げが多くの労働者の賃下げを誘引して、内需拡大による震災復興を妨げること、<3>現場第一線で国民のために働いている国家公務員労働者の士気を引き下げること、<4>自律的労使関係制度の「全体像」が示されたとはいえ、現状は人事院勧告制度があり、それに基づかない賃金引き下げは労働基本権侵害であること、の4点を主張し、撤回を求めた。
 
 (4) その後、政府と国公労連との交渉は、5月17日(総務省政務官)、20日(総務省政務官)、27日(総務省政務官)に行われた。
 この内、5月17日には、俸給についての引き下げ率を役職段階に応じて10%から5%までの格差をつけることが再提案された(一時金は一律10%のまま)が、先の交渉で指摘した国公労連の主張には何らの回答も行われなかった。
 賃金引き下げを前提にした緩和策は、国公労連が求めたものではなく、政府が一方的に示したものである。政府が、賃金引き下げについての合理的な根拠を持ち得ていなかったことを推測させる再提案だと考える。 当初提案で政府は、一律10%の賃金カットの根拠について「先行して賃下げを行った地方公共団体の例を参考にした」と述べていた。また、政府は、賃金引き下げの財政効果や他の歳出項目に先んじて賃金をカットする合理的理由についてさえ、一度として説明していない。
 
 (5) 5月27日の交渉では、自律的労使関係制度の「全体像」と国家公務員賃金引き下げ提案との関係が論議となった。政府は、<1>団結権がない職員まで人事院勧告に基づかない賃下げを行うことの「正当性」を「異例の措置であり、すべての職員を代表する職員団体と自律的労使関係制度を先取りして話し合っている」、「交渉が決裂しても救済措置はなく、理解を得るしかない」などと回答した。
 団結権や団体交渉権が保障されない職員に対する労働基本権制約の代償措置は、日本国憲法からしても、ILO条約からしても極めて重要な課題である。にもかかわらず、日本政府はそれらの点での真剣な検討を行った形跡すらない。
 交渉決裂時の救済措置を手当てしないままの交渉は、結局、政府提案の押し付けにしかならないことを承知の上で、日本政府は現行の人事院勧告制度を蹂躙する意思を持っていたことは、これらの回答から明らかである。
 なお、もう一方の交渉当事者であった連合・公務員連絡会は、5月23日に、「賃下げの法案と労働基本権付与法案の同時提出、同時成立」などについて政府の回答が得られたとして、5月17日時点の政府提案の受け入れで合意した。政府は、任命権者数では少数ながら組織人員では均衡している一方の労働組合との合意だけで、賃金引き下げという労働者への重大な権利侵害を正当化できるとの対応であったと考える。
 
 (6) 6月2日に総務大臣と国公労連との交渉が行われた。その場でも、国家公務員の賃下げについての合理的な説明はなく、法制度との矛盾についてもまともな回答は示されなかった。政府と国公労連との交渉は尽くされておらず、政府は国公労連の主張を受け入れようとする姿勢さえ示さなかった。
 政府の担当大臣である片山総務大臣は「合意は得られなくても、法案を提出し、最終的には国会で判断していただく」と一方的に宣言し、国公労連との交渉を打ち切った。そして、翌3日に政府は、先に述べたような内容での賃下げを2013年度末まで実施する法案を閣議決定し、国会提出を強行した。
 国公労連は、この閣議決定に厳しく抗議し、全労連およびその傘下の公務員組合とともに法案の撤回・廃案を求める運動をすすめ、国内での世論をひろげている。  なお、人事院は、賃下げ法案の閣議決定にあたって総裁談話を出している。そこでは、「人事院勧告によらない賃金引き下げ」と「反対を表明する職員団体があり、職員団体の属さない職員も多数いるもとでの賃金引き下げ」に「遺憾」を表明している。また、賃下げ期間とされる2013年度末まで、労働基本権制約の代償措置が機能しなくなることへの懸念も表明している。
 
 
 4.おわりに
 
 日本政府が、極めて不十分な内容とは言え、1948年の労働基本権はく奪から63年目に、国家公務員に限定したものではあるが協約締結権回復の制度を検討し、法案を策定して国会に提出したことは、一定の到達点であると全労連も受け止める。公務員労働者の労働基本権回復に対して頑なであった日本政府の姿勢が変化したのは、ILOからの繰り返しの働きかけがあったものと、全労連は受けとめている。
 しかし、同時に、そのような制度改革が成就する見通しが不明確な段階で、かつ、政府が決定した自律的労使関係制度の水準さえ下回る一部の職員団体(労働組合)との合意のみで、現行の人事院勧告制度を蹂躙する賃下げ法案を決定したことは、重大な違法行為だと言わざるを得ない。
 このことの違法性は、労働基本権制約の代償措置が機能しなかっただけではなく、一部労働組合との交渉結果を国公労連など全労連傘下の公務員労働組合に押し付けることとなり、日本国憲法が労働者に保障している交渉権や団結権を侵害するという点でも重大である。
 2011年5月から6月にかけて日本政府が行った国家公務員の賃下げ法案決定の経過は、ILO87号条約や98号条約が述べる結社の自由原則にも反するものだと考える。
 これらのことから、結社の自由委員会第328次報告以来、ILOが6度にわたって勧告してきた公務員制度改革の早期完全履行を、日本政府に強く迫るよう要請するものである。
 
以上