※「連合通信・隔日版」からの転載です。
「連合通信・隔日版」2012年4月5日付No.8582
過労死に追い込まれる警備員――霞が関委託業務の現状
背景に低入札と労働ダンピング
国の財政支出削減で、中央官庁の警備員が過労死に追い込まれている。
外務省本庁舎の警備業務に携わっていた当時58歳の男性が昨年、帰宅途中に胸部大動脈りゅう破裂を発症し、翌日亡くなった件について、渋谷労働基準監督署が労災認定していたことが4月2日、分かった。歯止めのない低入札競争が背景にある。
◆無理な人員配置
男性は、外務省本庁舎の警備保安業務を受注していた「ライジングサンセキュリティサービス」の社員。庁舎の出入口で、不審者の進入に目を光らせる立しょう業務や、訪問者の受付などを行っていた。
弁護団の調べによると、発症前2カ月の週40時間を超える法定外残業はともに月140時間超に及んだ。同省の朝礼に合わせて始業より1時間早い午前7時には出勤し、休憩も満足にとれないまま午後7~8時まで勤務していたという。渋谷労基署は、同2カ月間の残業が月平均80時間を超えていた事実を確認し、「業務上」と認定した。
こうした長時間過密労働の直接の要因が、高い離職率に伴う慢性的な人手不足にあった――と、遺族の弁護団は指摘する。23箇所ある「警備保安ポスト」に、同社はギリギリの27人程度しか配置していなかったというのである。
猛暑や厳寒期でも、神経を張りつめて外に立ち続けなければならない仕事。霞が関で働く警備員の待遇改善を訴え続けている中川善博・ライジングサンユニオン委員長は、「通常『警備保安ポスト』の約1.5倍の人員を配置しないと、トイレにも満足に行けなくなる。体力的には相当きつかったはず」と驚きを隠さない。
◆わずか41%の低落札率
見過ごせないのは、この不幸な出来事が「氷山の一角」と見られることだ。
支出削減を進める外務省が本庁舎の警備保安業務に一般競争入札を初めて導入したのが2009年度。ライジング社はその09年度に予定価格のわずか41%、10年度は同48%で落札した。
この半値にも及ばない低入札が、極度の人件費抑制と、最低賃金割れやサービス残業などの労働法違反で支えられていると、前述の中川委員長は警告する。
余裕をなくした職場で、男性は現場責任者から外見についての執ような暴言を受けていたとも弁護団は指摘している。
劣悪な労働条件は離職率を高め、そのことがさらに労働環境を悪化させる「悪循環」。同社では今年、既に4人が脳血管障害などで倒れたという。
◆弱い立場の人が犠牲に
根底には、「人への投資」を十分に行う企業は、事実上参入できないという入札制度の問題がある。
同省では一定額に満たない入札を無効とする「最低制限価格」や、労働条件確保と労働環境整備を入札の要件とする仕組みがない。結果、価格競争に偏重し、「セコムやアルソックなど、福利厚生にお金をかけている大手企業は参入しない」(中川委員長)という状況が生じている。
過労死問題に詳しい川人博弁護士は「行政側も(委託先)警備員の状況に目を配らないといけない。その意味では現代的な課題だ」と述べ、公契約ルールの策定が必要と指摘する。
省庁の支出削減が好意的にとらえられがちな今日、公共サービスの最末端で働く人を過労死や貧困に追い込んでいる事実はまだあまり知られていない。
男性の妻は語る。「環境の悪い体制で働かなければならない弱い立場の人たちが、犠牲になってしまっているのが事実ではないでしょうか」