ポスドク若手研究者の雇用不安・パワハラ・長時間労働
――「うつ病のような状態でいい研究できない」
(国公一般すくらむブログ2011-10-03)

【とりくみ:官製 ワーキングプア】2011-10-03
 今朝7時のNHKニュースのトップは、「北極圏のオゾン層大規模破壊」。有害な紫外線を遮るオゾン層の破壊が北極圏の上空で進み、南極のオゾンホールに匹敵する規模になっていることが、国立環境研究所など国際的な研究グループの調査で初めて確認され、北極圏周辺の北欧やロシアなどで、環境への影響が懸念されるとのこと。
↓NHKニュース
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20111003/t10015991221000.html 
 
 テレビに登場してこの問題を解説していた国立環境研究所の中島さんは、昨年、国立環境研究所労働組合の委員長をされていた研究者です。昨年8月、文科省・中川正春副大臣(当時。現在は文科大臣)に対して、若手研究者(ポスドク等)問題の解決に向けて申し入れを行ったときに、つくばの研究所労組を代表して、中島さんが次のように発言してくれました。(北極圏のオゾンホールも大変な問題ですが、ポスドク・若手研究者に対する雇用不安の大きな穴も深刻な問題です。そして、政府の行政刷新会議(議長・野田佳彦首相)は、またしても「独立行政法人改革」と称して、年末をめどに独立行政法人の廃止や統合、民営化などの見直し案をまとめ、来年の通常国会に必要な法律案を提出するとしています。「北極圏のオゾン層大規模破壊」を調査研究している国立環境研究所も「独立行政法人」です。104ある独立行政法人のうち38は国立試験研究機関なのです)
 
 将来が見えない若手研究者
 日本の科学技術の未来は暗い
 
 「環境研は正規雇用の研究者200人に対して、ポスドクが100人という、つくばの中でポスドクの割合が一番多い研究機関となっている。ポスドクの雇用は最大5年で、毎年の正規採用枠は10人程度しかなく、ほとんどのポスドクは正規の研究者になれず将来が見えない。そのため、優秀な人材が来なくなりはじめている。これでは日本の科学技術の未来は暗いのではないか。一昨年、研究開発力強化法ができ、任期付職員は人件費削減枠から除外するとされたのに環境研ではそうなっていないので改善願いたい。いま予算を10%削減するという方向性が出ているが、これが研究機関に及ぶとなると大変なことになる。文科省を中心に検討されている『国立研究開発機関構想』などにおいても、研究機関の自主性を尊重し人件費の縛りなどをなくしてもらいたい」
↓詳細はこちら
http://www.kokko-net.org/kokkororen/10_torikumi/t100825.html 
 
 雇用不安、パワハラ、長時間労働…
 「うつ病の一歩手前のような精神状態でいい研究はできない」
 
 また、2008年に開催したシンポジウム「科学・技術の危機とポスドク問題~高学歴ワーキングプアの解消をめざして」のなかで、国立環境研究所労働組合からは以下の報告がありました。
 
 国立環境研究所労働組合は「ポスドクアンケート」を取り組みました。このアンケートには、ポスドクが抱える様々な不安の声が寄せられました。一番切実な声は、今現在の職を失うのではないかという不安です。この問題は、雇用の財源自体が不安定で財源自体がいつ途絶えるかわからないという外部的な要因もあれば、もし今進めている研究に行き詰まり、この1年で論文が出なかったら来年の契約があるのだろうか? たとえ口約束で3年任期と言われていても、1年目、2年目で論文が出なかった場合にはどうなってしまうのだろうか?という不安もあります。また、今現在の研究プロジェクトに関しては成果が出せているけれども、プロジェクト終了後に次のポストがあるのかないのかという不安も多くのポスドクが感じています。
 
 ポスドクにとって最も大きな関心事の一つは正規雇用ポストの獲得です。しかし、そうしたポストの枠は非常に少なく、正規雇用ポストへの昇任が可能な任期付き研究員の枠でさえ、年々増加するポスドクの数を遥かに下回る件数しか公募されていないのが現状です。たとえば、環境研ではポスドク研究員約110人に対して、任期付き研究員等のポストは、毎年10人程度の公募が行われるだけです。
 
 アンケート結果によれば、環境研を含めたどの研究機関においても、任期付き研究員などの採用に際してそこで働くポスドクを優先的に採用するという支援策は設けていません。ポスドクという存在が、それぞれの研究機関の人材育成対象から明らかに外されている実態が浮き彫りとなっています。このような、将来展望が開けないもとで、ポスドク当事者の多くに精神的なストレスがかかり、悪くすればメンタルヘルスに不調をきたすことも危惧され、アンケートには「うつ病の一歩手前のような精神状態でいい研究はできない」と声が寄せられています。また、現在、ポスドクは基本的に自己責任で任期終了後のポストを探すことになっています。アンケートによれば、多くの研究機関で任期終了後のポストを斡旋するような方策を組織的には行っておらず、今後そうした対策を望む声が寄せられています。
 
 また、雇用責任者との関係に関して、買い手市場になっているポスドクの立場の弱さが問題です。買い手市場にあるポスドクの立場の弱さが背景にあるために、パワハラが横行したり、研究者というのはとにかく研究に没頭するのが本分であって、時間外労働は当然だというような雰囲気があって、たとえば超過勤務手当を欲しいと言いづらいなど様々な要求を躊躇してしまうような雰囲気があるという声が寄せられています。一方、ポスドク急増の制度的な支えとなっているプロジェクト型研究の隆盛によって、自らも研究者であるポスドクの雇用責任者自体が、多くのプロジェクト研究に関する評価や立案などで忙殺され、本来なされるべきポスドクへのサポート(研究指導など)が行き届きにくくなっている現状も出されています。これはポスドク研究者の孤立であるとか、問題を1人で抱え込んでしまうようなことにもつながりかねない、大きな問題です。
 
 最後に、シンポジウム実行委員会が取り組んだ「ポスドク・若手研究者アンケート」に寄せられた声の一部を紹介しておきます。
 
 「月収20万、ボーナス無し、国保・年金は自分持ち。家族を養っており、経済的には限界に近い」(38歳)
 
 「夫婦でポスドク。低賃金で、生活が苦しく、子どもを育てる経済的余裕さえない。早急な現実的な未来を求めている」(34歳)
 
 「時給1200円程度、研究員というよりは雑用係。同じ部署には無給の研究員や、私と同様の身分の博士課程修了者が何人もいる」(34歳)
 
(byノックオン。ツイッターアカウントはanti_poverty)
 
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