霞が関のワーキングプア
(国公一般すくらむブログ2009-07-05)

【とりくみ:官製 ワーキングプア】2009-07-05
 雑誌『世界』7月号(岩波書店)に、私たち国公一般が取り上げられました。ジャーナリストの樫田秀樹さんが書かれたルポルタージュ「官製ワーキングプア - 生活保護を受けて教壇に立つ」の中の「霞が関のワーキングプア」と見出しが打たれたところに杉山書記長が登場。献本いただきましたので、以下紹介します。(byノックオン)
 
 ◆霞が関のワーキングプア
 
 中央省庁の集う霞が関にもワーキングプアはいる。霞が関には07年7月1日時点で正規職員4万165人と非正規職員1万3142人がいる(総務省調べ)。その多くが月収20万円未満である。
 
 06年末、こんなことがあったという。ある税務署で働く非常勤職員が「雇用保険に加入してください」と上司に申し出たところ、その2日後に雇い止めを通告されたというのだ(その後、関連組合の活動で通告は撤回)。
 
 この事件は2つの問題の存在を示している。1つは、省庁によって雇用保険に加入していない部署があるということだ。霞が関のどの省庁の正規職員も非正規職員も派遣職員も入れる労組「国家公務員一般労働組合」(国公一般)には、この件での相談電話が多いという。
 
 「入職時に雇用保険に加入すると言われたけど、給与明細などから『どうも違うようだ』と電話してくるんです」(杉山佳幸書記長)
 
 2つ目の問題は、国家公務員法に基づき、非正規職員の多くが「日々雇用」、つまり日雇い契約で働いていることだ。
 
 「いつクビになっても文句を言えない、極めて不安定な制度です。これを盾に『お前のクビなんていつでも切れる!』と脅す上司もいましたから」(杉山さん)
 
 そして、募集要項に記されていた補助業務だけではなく、正規職員とまったく同じ仕事をあてがう部署もある。ここに、某省庁の元・非正規職員、Aさん(30代男性・匿名)は憤る。
 
 「募集要項どおりの補助業務だけなら低賃金でも仕方ない。でも現実には、国家試験合格者だけが携わる『法案作成事務』や、正規の仕事である『秘書業務』や『調査票とりまとめ』なども私たちが担っています。今や非正規なしで国の公務は回りません。ところが、その私たちを、1年の任用を更新しながら最長3年で雇い止めにするんです。サービス残業はあれど、有給休暇も退職金もなく働いているのに。しかも、年度末ギリギリで雇い止めを通知されるので、就職活動もできない。そもそも、入職時に最長3年なんて説明はありません」
 
 雇い止めとなったとき、もし雇用保険に未加入ならば、失業給付を受けられないというさらなる悲劇が待っている。
 
 非正規職員の労働条件は省庁によって大きな幅がある。サービス残業や、有給休暇も雇用保険も与えない労働環境に対し、労働基準監督署は動かないのだろうか?
 
 「動きません」と杉山さんは答える。
 
 「なぜなら、国家公務員には労働基準法が適用されないからです。民間企業では、パート労働法の『パートも常勤職員と同等に扱え』との定めで簡単に解雇できませんが、非正規公務員はパート労働法も適用されないんです」
 
 08年10月、労組関係者17人がスイスのジュネーブに赴いた。ILO(国際労働機関)本部に、日本の非正規公務員がパート労働法の適用外で、劣悪な労働環境に置かれている実態を訴えるためである。(※国公一般の川村委員長も参加。参照過去エントリー→「ジュネーヴにあるILOに要請~国の行政機関で働く非常勤職員14万人の劣悪な労働条件を告発」 )
 
 対応に出たILOの職員は、「非正規職員への一時金や退職金の支給を法が禁止!? ありえない」と驚き、09年にその件で審議すると約束した。ILO勧告は日本政府も無視できないだけに、今後の動向も見守りたい。
 
 国公一般書記長の杉山さんの言いたいことは、「同一労働には同一賃金を。同一の待遇を」だ。
 
 ◆灯油も買えない
 
 今年2月14日、東京都心で、「使い捨てにされてたまるか! 2.14官製ワーキングプア告発集会」(全労連主催)と銘打った集会が開催された。北は北海道、南は九州から非正規の地方公務員、国家公務員など約300人が集い、劣悪な労働環境を非難する声が次々に上がった。
 
 全日本国立医療労働組合中国支部の組合員で、鳥取県の「独立行政法人国立病院機構・米子医療センター」で看護助手として働く伊藤紀子さんの話は、参加者の同情をさそった。
 
 01年から伊藤さんは、賃金職員(正規職員と同じ仕事をする非正規職員)としてセンターで働いていたが、05年5月、センターが国立病院から独立行政法人に移行するのに伴い、賃金職員という職制自体がなくなった。そして待っていたのは貧困だった。
 
 「私は、病院の仕事が好きです。だから、移行後も同じ病院で働けたのはいいにしても、今度は非常勤職員という肩書きで、月給から時給810円・週32時間の労働体系で働きました。月収はそれまでの半分、9万~10万円へと激減し、生活は一気に困窮しました。切り詰めて生活しても、昨年前半は原油高の影響でとうとうストーブ用の灯油も買えなくなりました。昨年、労働組合の交渉で時給が10円上がり、月に約1300円の賃上げとなりました。さっそく灯油を買って自宅でストーブに火を入れると、息子が『お母さん、ストーブはあったかいね』と喜びました。私は、涙が止まりませんでした…」
 
 繰り返すが、伊藤さんの仕事内容は正規職員と同じである。
 
 集会では、全国の労働基準監督署・ハローワーク・厚労省の職員で構成される全労働省労働組合の北海道支部の執行委員長が「北海道のハローワークに勤務する非正規職員は、安い人は月収10万円しかない」と発言した。安定した職業を提供する職場にワーキングプアがいるのは皮肉と言わねばならない。(ルポルタージュの引用はここまで)
 
 このルポルタージュでは、他にも、年収が80万円しかないため、生活保護を受けながら教壇に立たざるを得ない、埼玉県さいたま市の市立小中学校の臨時教員158人の実態などが告発されています。
 
 国家公務員の一般職は29万5,397人で、非正規職員は14万3,798人(07年7月1日、総務省調べ)。非正規職員率は32%となり、国の機関で働く職員の、ほぼ3人に1人が非正規職員になっています。
 
 また、地方自治体の非正規職員は、1983年に約9万人だったのが現在60万人以上と推測され、この二十数年間で7倍近くに増えています。60万人のうち、少なくとも67%が年収200万円以下の「官製ワーキングプア」と推測されているとのこと。正規の地方公務員は289万9,378人(08年4月1日総務省)で、非正規職員は60万人とすると、非正規職員率は17%で、地方自治体で働く職員のほぼ5人に1人が非正規職員ということになります。
 
 樫田さんはルポの中で、「公務員全体の2~3割が非正規職員と推測されるのだが、東京都下では、国分寺市、あきる野市、西東京市など、非正規職員率が5割を越える自治体も現れている」と指摘しています。
 
 国の行政機関の定員数のピークは、1972年度の90万9人で、現在2009年度で30万9,780人(総務省調べ。地方警務官を含み、自衛官を除く)。地方自治体の正規職員のピークは、1994年の328万2,492人で、08年4月1日には289万9,378人(総務省調べ)。国と地方あわせピーク時とくらべて100万人近くの正規公務員をドラスティックに削減してきたわけですが、その結果、多くが官製ワーキングプア状態にある、100万人とも推測される非正規の公務員を生み出してきたのです。(※非正規の公務員数100万人は、樫田さんがルポのリードで書かれている数字です)