■産業技術総合研究所(産総研)■
はじめに 産総研の概要
産総研は、「鉱工業の科学技術に関する研究及び開発等の業務を総合的に行うことにより、産業技術の向上及びその成果の普及を図り、もって経済及び産業の発展並びに鉱物資源及びエネルギーの安定的かつ効率的な供給の確保に資することを目的とする」(独立行政法人産業技術総合研究所法第3条)法人です。
産総研は、環境・エネルギー、ライフサイエンス、情報通信・エレクトロニクス、ナノテクノロジー・材料・製造、計測・計量標準、地質という6分野の研究を行っており、我が国最大級の公的研究機関となっています。
東京とつくばに本部を置くほか、つくばセンターを除く全国8カ所(北海道、東北、臨海副都心、中部、関西、中国、四国、九州)に地域センターをおいています。また、2013年10月1日に、「東日本大震災からの復興の基本方針」及び「福島復興再生基本方針」を踏まえ、福島再生可能エネルギー研究所が新設されます。2013年4月1日現在、研究職員2,281名(うち外国籍80名)、そのうち任期の定めのない職員は 2,010名、任期付職員は271名、事務職員657名(うち外国籍1名)で、職員合計2,938 名(81名)です。そのほか、非常勤職員(契約職員)として、招聘研究員156名、ポスドク259名、テクニカルスタッフ1,602名や事務補助の契約職員が在籍し、産学官連携制度等による研究員等として、企業から約1,700名、大学から約2,000名、独法・公設試等から約800名(うち外国籍約400名)を受け入れています。
産総研は、特に貢献するべき重要分野として、世界最高水準にある我が国の環境・エネルギー技術をさらに発展させる「グリーン・イノベーションの推進」、質の高い医療サービスへのニーズに応え、少子高齢化社会・介護などの課題に対応する「ライフ・イノベーションの推進」、国の安全・安心を支える「知的基盤の整備・推進」、科学技術立国を掲げる我が国の産業競争力の強化、明るい未来社会を切り拓く「先端的技術開発の推進」をあげています。それにとどまらず、6分野で基礎的・基盤的研究から、産業化をめざした研究まで、幅広い研究を行い、日本と世界の将来、安心・安全等に大きく貢献しています。
1.「中間とりまとめ」も問題点あり
(1) 独立行政法人改革有識者懇談会の「中間とりまとめ」では、独立行政法人制度は、行政における企画立案部門と実施部門を分離し、企画立案部門の能力を向上させる一方で、実施部門に法人格を与えることにより業務の効率性と質の向上を図ることを目的としているとし、①独立行政法人制度の本来の趣旨は、行政本体が企画立案部門、独立行政法人が実施門をそれぞれ担うことである。この趣旨を踏まえ、行政本体においては企画立案業務に注力するとともに、実施部門である法人においては主務大臣が与えた目標のもと効率的かつ質の高い業務運営を貫徹させる、②各法人の長の差配のもと、自主性を発揮しながら、各法人の特性に応じて真に機動的、弾力的かつ効率的な業務運営を行えるようにする。このため、制度創設時に想定されたPDCAサイクルの導入、説明責任の明確化、インセンティブの付与等の企業経営的手法が最大限機能するようにする、③適正な評価がなされずPDCAサイクルが必ずしも確立されていない実態を踏まえ、定量的な目標設定と簡素でより実効性の高い目標・評価制度を確立する。また、国民監視のもと適切な業務運営を行うため、より一層の情報公開を進めるものとするなどを独立行政法人制度改革の基本的な方向性としています。
しかし、企画と実施が分離されることにより主務省(主務大臣)は現場と切り離されれば、研究機関で言えば、大きなプロジェクト等、主務省で示せる目標以外は、具体的な目標を示すことが困難です。実際には、事実上、研究現場から持ち上げで目標を定めざるを得ない部分があります。機械的な分離を改め、独法化以前と同様、主務省と一体で目標を定めるべきです。
また、主務大臣に評価を一元化するが、業績評価のうち中期目標期間に係る業績評価結果を第三者機関が点検する仕組みをつくるとしていますが、この第三者機関は総務省に設置されることから、従来と同様、法人の公共性を高める評価ではなく、もっぱら効率化、減量化に焦点を当てた評価が行われる危険性があります。
(2) 「中間とりまとめ」では、研究開発型独立行政法人について、見直しの方向性として、①主務大臣による中期目標設定、中期目標期間に係る業績評価、中期目標期間終了時の検討に際し、科学的知見や国際的水準に即して適切な助言を行う仕組みの整備、②主務大臣は司令塔たる総合科学技術会議が定めた国際水準を踏まえた評価指針に基づく評価を行うとともに、総合科学技術会議は法人の中期目標期間に係る業績評価等に関与、③長期かつ重要度の高い研究開発課題等について、研究開発の成果等を継続的にフォローアップし、その評価結果を反映させる仕組みの整備、④研究開発プロジェクトの特性を踏まえた中期目標期間の設定、 ⑤国際的人材獲得競争へ対応した研究者等の給与水準や、自己収入の取扱い、調達、中期目標期間を超える繰越等の見直し、などをあげています。
③、④、⑤については、おおむね評価できる方向です。ただ、元々研究現場を十分知らない主務省(主務大臣)が、研究現場に十分即した中期目標を提示し、評価を行えるかははなはだ疑問です。「科学的知見や国際的水準に即して適切な助言を行う仕組み」にしても、「総合科学技術会議が評価指針を定め、評価を行う」にしても、すべての研究分野を網羅し、適切に評価を行うことは容易ではありません。高い評価が得られやすいかもしれない時流の研究への安易な流れを作ることなく、公的研究機関として担うべき基礎的・基盤的研究、将来のシーズを生み出す基になる研究や、着実に進めるべき研究がおろそかにならないような配慮が必要です。
2.独立行政法人産総研で行うべき改革
(1) 研究関連の調達方法の見直し
行政改革推進会議の独立行政法人改革有識者懇談会の「中間とりまとめ」(6月5日)では、調達が検討課題とされていますが、必ず改善を実現し、研究の実態に合わせた調達制度にする必要があります。
特に、1社しか実験機器を作っていないにもかかわらず、他社からも合い見積もりをとり、入札を行うという1社入札は不合理な制度であり、直ちに廃止し、随意契約の要件を緩和すべきです。
(2) 中期目標期間を超える繰り越しの実現
同様に、「中間とりまとめ」では、中期目標期間を超える繰り越しも、検討課題とされています。硬直的な単年度主義、目標期間での完結にとらわれず、実際の研究開発に合った柔軟な会計制度への見直し、運用の改善が望まれます。
(3) 運営費交付金の一律削減の見直し
運営費交付金は毎年1%以上機械的に削減されますが、当所の業務である研究開発は定型的、現業的業務ではないため予算の効率化を行う余地はほとんどありません。運営費交付金の削減は研究業務、研究者の雇用等の減少となり研究所としての基盤が低下します。研究基盤維持に必要な額を交付すべきです。
(4) 人件費の削減の見直し
平成18年度から5年間には5%以上の人件費の削減を行うなど、人件費の削減が続いています。特に事務系の人員削減が著しい一方、調達業務、安全管理業務、コンプライアンス対応など事務系の業務量は増大しているため残業が恒常化し、過労による労災も発生しています。業務量に応じた人件費を確保すべきです。
(5) 中期目標の主務省・法人一体での作成
前述したように、主務省で示せる目標以外は、研究現場から持ち上げで目標を定めざるを得ない部分があります。機械的な分離は二度手間を生む原因です。中期目標は、主務省と法人が一体で作成すべきです。
(6) 研究活動の特性に対応した評価制度の実現
国全体の科学技術政策や経済産業省の産業競争力強化への貢献で重点と位置づけられる研究だけでなく、①将来のシーズを生み出すため、着実に進めるべき基礎的・基盤的研究、②長期間の研究活動を要する研究、③研究活動の成否に不確実性が大きい研究など、研究活動の特性に対応した評価制度を実現すべきです。また、目標が未達の場合も、そのことだけをもって評価を下すのではなく、背後にあるかもしれない構造的要因を見過ごすことのないよう、要因分析・検証を行うべきです。
(全経済 産業技術総合研究所労働組合)