運営費交付金拡充で安全・安心、国民生活向上に資する研究の充実を~第35回国立試験研究機関全国交流集会開催~

【とりくみ:各種とりくみ(中央行動など)】2017-06-27
6月22日、つくば市の研究交流センターにおいて、国公労連と学研労協(筑波研究学園都市研究機関労働組合協議会)でつくる実行委員会主催による第35回国立試験研究機関全国交流集会(国研集会)が開催されました。集会テーマを「科学技術の危機と国立研究機関の行方」とし、105人が参加しました。
 
主催者挨拶 国研集会 瀬尾実行委員長
~研究機関の問題点を認識し、今後のとりくみを論議しよう~
 冒頭、国研集会 瀬尾実行委員長(学研労協議長)は、「研究機関の共通する問題として運営費交付金の削減によって、論文数が減り、中長期的な研究や若手研究者が採用できないなど、科学技術が危機的状況にあります。本集会をつうじて、現状認識とこの問題にどうとりくむべきか一緒に議論していきましょう。」と主催者を代表してあいさつしました。
 
記念講演 国立天文台 海部宣男名誉教授
 ~研究者の社会的自覚と社会への働きかけが必要~
 その後、国立天文台 海部宣男名誉教授より「科学技術の危機と研究者の社会的責任」と題した記念講演が行われました。記念講演では、①主要国と比較したTop10%補正論文数(被引用回数が各年各分野で上位10%に入る論文の抽出後、実数で論文数の1/10となるように補正を加えた論文数)、研究費、運営費交付金などを示し、「日本政府が早急な『イノベーション』『実用化』『経済への貢献』を科学技術政策の基本に捉えている」ことの問題点、②日本学術会議の「声明」などを紹介し、「科学研究の最大の目標が人類の平和的発展に寄与する」べきものであること、「近代におけるすべての戦争が『防衛』が名目であった」こと、③科学に関わる困難な課題を「トランス・サイエンス(科学を超える科学)」とし、研究者の社会的自覚と社会への働きかけが必要であること、各大学・研究機関の不断の自主的・民主的改革が必要であることなどが指摘されました。
 
基調報告 国公労連 笠松書記次長
 ~労働条件や職場環境改善のために~
 基調報告として、国公労連 笠松書記次長より、「公務労働者の賃金・労働条件をめぐる状況として、「公務員賃下げ違憲訴訟」のとりくみ、ILO追加情報の訴えなどの公務労働者の権利をまもるとりくみ、人事院勧告への対応など生活改善をめざすとりくみ、退職手当改悪に対するとりくみ、雇用と年金の接続に関するとりくみの現状や必要性を訴えました。
また、労働条件や職場環境改善のために、特に運営費交付金の拡充がまったなしの状況であることから「独立行政法人・国立大学法人等の運営費交付金拡充等を求める要請書」(団体署名)のとりくみ強化、17年人勧にむけたとりくみの強化と組織強化・拡充が不可欠であることなど、今後のとりくみ強化の必要性を訴えました。
 
個人・組織アンケート結果の報告  国研集会 瀬尾実行委員長
 ~世代によって軍事研究を進めるべきか否かに顕著な差が~
 国研集会 瀬尾実行委員長から、本集会での議論の素材として活用するために、研究機関組合員などを対象とし、4月27日から5月31日の間にとりくんだ個人・組織アンケート結果の特徴的な点などの報告がされました。
 個人アンケート結果では、集約した821の回答をもとに、①運営費交付金の削減によって「外部資金獲得のため事務量が増え研究業務の時間が減っている」「研究施設の整備や必要な研究機器類の購入が困難になってきている」こと、②以前と比較した変化については、「長期的なとりくみを要するような研究や基礎研究の遂行が困難になってきていること」、③「軍事研究を進めるべきだと思いますか」の問いに対して、「進めるべきだと思う」が33%、「進めるべきではないと思う」が59%となっており、世代別でみると若い世代ほど「進めるべきだと思う」が多くなっていることが顕著に表れている点などが報告されました。
組織アンケート結果では、運営費交付金の削減と研究職・事務職数の減少が顕著であることなどが報告されました。
 
その後、昼食休憩をはさみ、パネルディスカッションを行い、5つのテーマで報告がされました。
 
パネリスト報告① 「急進展する軍事研究の取材最前線」 
東京新聞 望月衣塑子記者
 ~軍学共同研究の危険性を報告~
東京新聞 望月衣塑子記者から「急進展する軍事研究の取材最前線」として、①防衛省の助成金制度の歴史、応募条件、研究テーマ、応募者の背景、②採択された研究者の言い分、③軍学共同推進派の言説として、同志社大学 村山裕三副学長の「同じ技術でも『安心・安全・対テロ・対サイバー』という看板をつけると対応が全然違う」「同じ技術でも軍事がつくとネガティブになる。解けてきている部分があり、うまいアプローチをすれば大学も可能性はある」という発言と、南関東防衛局 堀池徹局長の「防衛省は『防衛装備・技術基盤戦略』に『大学を巻き込み』と書き、大学から大きな反対があった。文科省で荒れたが(文科省から反対意見があったが)押し切った。今が転換期だ。あとは時間の問題だ」という発言を紹介し、堀池徹防衛局長は「何が『あとは時間の問題』かは明言しなかったが、大学を巻き込んだ軍事研究の実施が『時間の問題』という意図ではないか」と指摘し、④このうごきに反旗を翻す大学や研究者たちの事例と反対運動が広がっている現状など、取材にもとづく問題提起と報告が行われました。
 
パネリスト報告②
 「国立大学の運営費交付金削減・労働契約法・軍事共同問題」
 全大教 長山泰秀書記長
 ~教職員の雇用も不安定に~
全大教 長山泰秀書記長から「国立大学の運営費交付金削減・労働契約法・軍事共同問題」として、①運営費交付金の削減により、人員が削減され、特に新規採用者が有期雇用となるなど、教職員の雇用が不安定となっており、組織の維持が困難な現状、②2004年の法人化以降、労働契約法の対象となったにもかかわらず、臨時特例法にもとづいた「国からの要請」により運営費交付金が削減されたため違憲訴訟をたたかっているが、不当にもこれまで敗訴となっていること、③ほとんどの大規模大学では、有期雇用職員が無期雇用化されない方針であることなど、国立大学の現状と問題の報告が行われました。
 
パネリスト報告③
 「産総研における特定国立研究法人、シニアスタッフの問題点」 学研労協 川中浩史事務局長
 ~運営費交付金の削減による影響~
 学研労協 川中浩史事務局長(産総研労組)から「産総研における特定国立研究法人、シニアスタッフの問題点」として、①産総研は特定国立研究法人であるが、運営費交付金の削減により外部資金への偏重やトップダウンの政策研究などにより、論文数が減少し、基礎的研究が困難になっている状況、②産総研での再雇用は研究者であっても研究職ではなく事務職のみとされている現状であるが、研究職での再雇用や定年延長による研究職の継続が必要であることなどの報告がされました。
 
パネリスト報告④
「『10年1年プロジェクトの改革』問題」 全農林筑波駐在 仁木智哉中央執行委員
 ~民主的・自主的な組織・業務運営体制が必要~
 全農林筑波駐在 仁木智哉中央執行委員から「『10年1年プロジェクトの改革』(産総研などが10年で行った「改革」を農研機構当局が1年で実施しようとするもの)問題」として、2016年4月に4法人が統合して農研機構が発足したが、事務作業が増大し、時間外労働の36協定の上限時間が延長されるなど非常に混乱した状態となった。多くの問題点や課題が未解決であるのに、当局が2017年1月に業務改善が不可欠として「10年1年プロジェクトの改革の方向」を提案したことを報告し、トップダウンではなく、組合との交渉・協議と合意などによる民主的・自主的な組織・業務運営体制が必要であることを訴えました。
 
パネリスト報告⑤
 「未来は誰にもわからない」 国土交通労組運輸研究機関支部 安達雅樹氏
 ~本質を見極めることが大事~
 国土交通労組運輸研究機関支部 安達雅樹氏から「未来は誰にもわからない-日本の世界的環境規制への取組の現状-」として、パリ協定での次期CO2排出規制の枠組みとグローバルキャップでの船舶のSOX規制の事例などから、本質を見極めることの重要性が訴えられました。
 
パネリスト報告を受け、以下の概要のパネルディスカッションが行われました。
 
1 研究環境・労働条件の問題をめぐって
 ~定年延長と新規採用の両立を~
・ 労働契約法によって有期雇用職員が無期転換されるべき雇用形態は、明確には定義されていないのではないか。各研究機関によって実情も異なっている。無期転換されるべき雇用形態は、今後、裁判の判例によって明確化されるのではないか。
・ 再雇用者への調査では再雇用の際に研究職を続けたいとする意見が多い、人員の枠を増やし、定年延長と新規採用の両立をめざすことが必要ではないか。
 
2 運営費交付金削減をめぐって
 ~国民生活向上に資するために長期的視点にたった基礎的研究が必要~
・ 競争的資金(提案された課題から評価に基づいて課題を採択し、配分される研究開発資金)は使途が限定されるが、間接経費(競争的資金を獲得したことに伴って、直接経費の一定割合が措置されるもの)の増額やプロジェクトのうち1割を基礎的研究に使用できるようにすることが必要ではないか。
・ 以前は論文が重視されていたが、最近は特許などの社会実装が重要視されている。特許を取得すれば、特許にともなう作業量が増加し、また維持に費用がかかるため、バランスが必要ではないか。
 
3 軍事研究・軍学共同をめぐって
 ~研究者は、ことばにまどわされず、本質をとらえて~
・ 「武器装備」ということばを「防衛装備」ということばに言い換えて本質を変質させる例がある。研究者はことばにとらわれず、本質をとらえなければならない。先制攻撃が行われれば、その後に行われる先制攻撃への攻撃は、全て「防衛」になるという事実も踏まえるべきではないか。
・ 新聞報道や労働組合は正確な情報提供に努める必要がある。取材にもとづいて担当記者が書いた記事を1字も残さず全く異なる論説などにして掲載する新聞社もある。
・ 研究費の確保のため、やむなく軍事研究を委託する「安全保障技術推進制度」に応募する事例がある。助成事業の確保が必要ではないか。
・ 世代別でみると若い世代ほど軍事研究を「進めるべきだと思う」が多くなっていることが顕著に表れている。以前は、自治体で平和都市宣言・非核都市宣言を行うなど、平和に関する機会に接し、報道や論議が行われていたが、最近少なくなっていることが影響しているのではないか。
・ 現在の戦争は遠隔操作などによりリアリティが薄くなり、悲惨さを感じにくくなっているのではないか。戦争が起きないのだから武器を作っても問題ないのではという意見を聞いたことがある。太平洋戦争が始まるとき、誰も戦争が始まるとは思っていなかった。今の状況は戦前の状況と似ている。歴史を含めて平和に関する報道、教育、平和について語ることが必要ではないか。
・ 軍事研究を委託する「安全保障技術推進制度」では委託が終了した次の年も継続して応募できることとなっている。研究者をとりこもうとする狙いがあるのではないか。
・ 「防衛」か「攻撃」かについては、一方的に判断するのでなく使用方法・目的などをみんなで考えるべきではないか。自衛隊を海外派兵し、集団的自衛権として「攻撃」が行われようとしているなど、「防衛」か「攻撃」の境目はないのではないか。「攻撃」関連技術に手を貸すか否かの判断が必要ではないか。
・ 軍事研究に関して、若手に抵抗感が薄い、戦争体験を聞ける機会が少ないため、近くの人が戦争の悲惨さを受け継ぎ語ることが重要ではないか。なぜ、軍事研究を委託する「安全保障技術推進制度」がつくられたのか、それぞれが本質を考える必要がある。
 
最後に、学研労協 小滝事務局次長が、閉会挨拶を行い、集会を終了しました。