「公務員賃下げ違憲訴訟」の上告棄却に厳重に抗議する
――憲法判断を避けた判断は最高裁判所の存在意義が問われる不当なものである(談話)

【とりくみ:談話・声明等】2017-10-25
2017年10月25日
日本国家公務員労働組合連合会(国公労連)
書記長 鎌田 一
 
1、最高裁判所第二小法廷(裁判官:菅野博之、小貫芳信、鬼丸かおる、山本庸幸)は10月20日、「公務員賃下げ違憲訴訟」について、裁判官全員一致の意見として、①本件上告を棄却する、②本件を上告審として受理しない、③上告費用及び申立費用は上告人兼申立人らの負担とするとの決定を行った。
 決定理由として最高裁判所は、①上告については民事訴訟法312条1項に該当しない(※1)、②上告受理申立てについては同318条1項により受理すべきものとは認められない(※2)とした。すなわち、最高裁判所は、不当な高裁判決について憲法解釈にも法令解釈にも誤りがないと決めつけ上告を門前払いした。
 国公労連は、審理も開かず、上告を棄却した最高裁判所に厳重に抗議するものである。
 
2、戦後はじめて人事院勧告に基づかずに、議員立法による給与改定・臨時特例法にもとづいて2012年4月から2年間、平均7.8%もの不当な賃下げを政府が強行したことに、職場から怒りがわき上がった。そのため、同年5月25日と7月25日に国公労連と組合員370人が政府を相手に「公務員賃下げ違憲訴訟」を東京地方裁判所に提訴した。この裁判は、①憲法で保障されている労働基本権制約の代償措置である人事院勧告に基づかずに政府が一方的に賃下げを強行したことは憲法28条違反であり、ILO(国際労働機関)条約違反であること、②十分な交渉・協議を尽くさなかったことは団体交渉権の侵害であること、など国家公務員労働者の権利侵害を最大の争点としてたたかってきた。
 しかし、東京地方裁判所は2014年10月30日に、国公労連の請求を棄却する不当な判決を行ったことから、国公労連と原告359人が東京高等裁判所に控訴した。東京高等裁判所も昨年12月5日に控訴をすべて棄却する不当な判決を行い、国公労連と原告311人が同月16日に上告した
 
3、控訴審判決は、「人事院勧告制度が、国家公務員の労働基本権制約の代償措置として中心的かつ重要なものである」、「国会は、国家公務員の給与決定において、人事院勧告を重く受け止めこれを十分に尊重すべきことが求められている」と、この間の最高裁判所判例を踏襲して勧告の重要性は認めたものの、不当な賃下げの違憲性について「国会は、人事院勧告どおりの立法をすることが義務づけられているとはいえない」などと勧告の法的拘束性を一審同様に持ち出して論理のすり替えによって合憲と判断した。
 そのため、上告にあたっては、①唯一の代償措置である人事院勧告に基づかない賃下げは、労働基本権を保障した憲法28条違反と判例相反であること、②議員立法で一方的に引き下げたことは、国会の裁量権の逸脱であり、「法律の定める基準に従い、官吏に関する事務を掌理する」と内閣の職務権限を定めた憲法73条4号に違反すること、③労働条件の不利益変更法理と同等の基準に照らした憲法28条違反と判例相反であること、④必要性・合理性の基準に関する憲法28条違反と判例相反であること、⑤団体交渉権の侵害による憲法28条違反と憲法73条4号違反と判例相反であること、⑥ILO87号条約及び98号条約についての解釈に誤りがあること、などの主張と具体的事実を含めた理由書を4月に提出するとともに、憲法判断を行うよう「大法廷回付に関する意見書」を9月に最高裁判所に提出した。
 しかし最高裁判所は、戦後はじめての人事院勧告によらない賃下げであるにもかかわらず、私たちの主張を顧みず、政府の主張に配慮した一審・二審の「結論ありき」で構成された不当な判決を確定させた。司法の最高機関であり、終審裁判所としての最高裁判所の存在意義が問われるものであり、政府と国会に寄り添う姿勢は三権分立の日本の統治機構を歪めるものである。
 
4、この裁判闘争の意義・目的は、国家公務員労働者の権利を守るたたかいであると同時に、すべての労働者の賃上げと雇用確保をめざすたたかいであった。そのため提訴以来、全国で街頭宣伝や署名獲得(一審・二審あわせて個人444,059筆、団体9,858筆、上告段階で個人22,480筆、団体1,807筆)など、全国各地で世論に訴え、多くの労働者・労働組合から裁判闘争についての理解と支持を得るために奮闘してきた。この間の個人原告及び全国の組合員の奮闘に心から敬意を表するものである。
 こうした全国的なたたかいは、少なくない到達点を築いてきた。
 裁判に決起したことで、組合員への不当な攻撃に毅然とたたかう姿勢を示す運動として組織内からの理解と支持を得て、産別運動の結集軸となり、組織の団結の強化に結びついた。また、政府による不当な賃下げの延長や新たな賃下げを断念させ、その後政府が勧告尊重の姿勢に立たざるを得ない状況を作り出した。さらに、IL0への要請等により、労働基本権回復と労使協議の重要性について、三度(2013年3月28日、2014年6月13日、2016年6月11日)も日本政府宛のILO勧告を引き出した。
 賃下げの不当性を世論に訴え、官民の共同が広がるなかで、賃下げのスパイラルを断ち切り、賃上げの気運を高める一翼を担うとともに、全大教など不当な賃下げの影響をうけた労働組合との共同を地域から発展させてきたなどの貴重な到達点を確認しておかなければならない。
 
5、裁判闘争は、ここで一区切りをつけざるを得ないが、5年間以上にわたって、全国の仲間の奮闘によって積み重ねた到達点を確信として、今後の運動に活かしていくことが重要である。
 特に、判決が確定したことにより、政府や国会が一方的に人事院勧告によらない賃下げを強行することを許してはならない。そのためには、労働基本権回復を視野に入れたとりくみを強化することはもちろん、労働基本権制約の代償措置が画餅に帰すことがないように、政府・人事院への追及を強化しなければならないし、そのための産別組織のさらなる強化・発展が求められる。
 公務員労働者の労働基本権を明確に保障しているのは、唯一、憲法である。公務員の働く権利確立や労働基本権回復をめざす上でも、あらためて憲法の尊重・擁護の義務を負う公務労働者の役割を実践し、改憲勢力が多数を占める国会情勢であるからこそ憲法改悪を許さないたたかいに全力をあげようではないか。


 
【※1 上告】
第312条 上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。
 
【※2 上告受理の申立て】
第318条 上告をすべき裁判所が最高裁判所である場合には、最高裁判所は、原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について、申立てにより、決定で、上告審として事件を受理することができる。