「社会保険庁職員の分限免職処分取消裁判・京都事案」の上告棄却に抗議する
――司法の最高機関として存在意義が問われる不当な判断(談話)

【とりくみ:談話・声明等】2017-11-28
2017年11月28日
日本国家公務員労働組合連合会(国公労連)
書記長 鎌田 一
 
1、最高裁判所第三小法廷(裁判長:木内道祥、裁判官:岡部喜代子、山﨑敏充、戸倉三郎、林景一)は11月21日、「分限免職処分取消等請求事件」について、裁判官全員一致の意見として、①本件上告を棄却する、②本件を上告審として受理しない、③上告費用及び申立費用は上告人兼申立人らの負担とするとの決定を行った。
 決定理由として最高裁判所は、①上告については民事訴訟法312条1項又は2項に該当しない(※1参照)、②上告受理申立てについては同318条1項により受理すべきものとは認められない(※2)とした。
 最高裁判所は、不当な大阪高裁判決の審理を開かずに容認し、不当解雇を不問にするもので、極めて遺憾である。国公労連は、上告を門前払いとした最高裁判所に厳重に抗議するものである。
 
2、事件の発端は、2004年の年金大改悪で国民の不信が高まるなかで国会議員の年金未納問題が発覚したことからである。その年の参議院選挙で大敗した自民党は、その責任を社会保険庁職員に負わせて大量処分を強要した。それでも不足だとばかりに、「信頼回復」を口実として社会保険庁「改革」を推進し、社会保険庁を廃止・解体して日本年金機構を発足させた。その際、政府は、日本年金機構法に雇用承継規定を設けなかったばかりか、自民党の求めに応じて懲戒処分歴のある職員を新機構に採用しないという理不尽な基本計画を閣議決定し、あらゆる手段を尽くして分限免職を回避するという従前の政府方針を覆して、分限免職の回避努力を十分実施しなかった。その結果、社会保険庁は、2009年12月31日付で525人の職員の分限免職処分を強行するに至ったものである。
 このように、社会保険庁の廃止・解体は、年金に対する国民の不信を社会保険庁職員に責任転嫁したことは明らかで、まさに「政治のパワハラ」であり、廃止・解体の合理性は全くなく、分限免職処分に正当性はみじんもない。分限免職処分の非合理性は、25人の分限免職処分を取消した人事院判定や、6月に原告1人の処分を取消した東京地裁判決でも指摘されている。
 こうしたことの経過や背景を全く斟酌しなかった高裁判決を容認した最高裁判所は、終審裁判所としての役割を放棄したもので、到底容認できるものではない。
 
3、京都事案は、2010年1月への人事院の不服申し立てと並行して15人の原告が同年7月に地裁に提訴したもので、全国の裁判闘争を牽引する役割を果たした。このたたかいによって、社保庁闘争を全国的な闘争として広げ、多くの共闘も発展するなど、貴重な到達点を築いてきた。それは、京都事案のたたかいへの全国の仲間からの多大なご支援・ご協力の賜である。協力いただいた皆様に改めて感謝する次第である。
 京都事案は、2015年3月の大阪地裁の不当判決を不服として控訴したが、2016年11月16日、大阪高裁は、一審同様の不当な判決を行った。判決では、争点となっていた分限免職の妥当性について、国家公務員法78条4号の組織分限規定をタテに、国による不当解雇を容認した。分限免職回避努力については、厚生労働省の責任は認めたものの、裁量権の逸脱・濫用は認めなかった。こうした判断を容認するならば、国の組織を廃止すれば、不当解雇が正当化され、公務員の身分保障が画餅に帰すこととなり、公務の公正・中立性の確保が困難となるなど、公務員制度の根幹に関わる課題である。
 最高裁判所は、こうした問題点も一顧だにせずに、政府の主張をうのみにした不当な判決を確定させたが、政府に寄り添う姿勢は三権分立を歪めると同時に、司法の最高機関としての存在意義が問われるものである。
 
4、京都事案の裁判闘争は、1つの節目を迎えたが、たたかいは終わらない。
 2015年11月にILO(国際労働機構)の結社の自由委員会が日本政府に対して労使協議の重要性を指摘する勧告を行っている。引き続き、政府・厚生労働省に京都事案の原告の職場復帰を求めて運動を強化していかなければならない。また、公正で民主的な公務員制度の確立をめざす運動を発展させ、公務員労働者の権利を確立することも重要である。全国の仲間の奮闘によって積み重ねた到達点を確信として、今後の運動に活かしていくことが求められる。
 不当解雇撤回を求める裁判は、現在、秋田事案で一審、東京、愛知、広島、愛媛の事案で控訴段階でのたたかいを展開している。国公労連は、全厚生闘争団を全面的に支援して、不当解雇撤回をめざすすべての裁判闘争の完全勝利にむけて全力をあげる決意である。
 また、国による不当解雇の背景には、これまで、日本の労働者の雇用と権利が著しく軽く扱われてきたことがある。したがって国公労連は、いま安倍政権が推進している労働法制大改悪を阻止するたたかいに結集して、すべての労働者の雇用の安定と労働条件の確保をめざすたたかいに奮闘する。
 
以 上
 
【※1 上告】
第312条 上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。
2 上告は、次に掲げる事由があることを理由とするときも、することができる。ただし、第4号に掲げる事由については、第34条第2項(第59条において準用する場合を含む。)の規定による追認があったときは、この限りでない。
 一 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
 二 法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
 二の二 日本の裁判所の管轄権の専属に関する規定に違反したこと。
 三 専属管轄に関する規定に違反したこと(第6条第1項各号に定める裁判所が第一審の終局判決をした場合において当該訴訟が同項の規定により他の裁判所の専属管轄に属するときを除く。)。
 四 法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。
 五 口頭弁論の公開の規定に違反したこと。
 六 判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること。
 
【※2 上告受理の申立て】
第318条 上告をすべき裁判所が最高裁判所である場合には、最高裁判所は、原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について、申立てにより、決定で、上告審として事件を受理することができる。