理不尽な分限免職処分を容認する不当判決に断固抗議する
――社会保険庁職員不当解雇撤回・秋田事案の判決にあたって(談話)

【とりくみ:談話・声明等】2018-01-10
2018年1月10日
日本国家公務員労働組合連合会(国公労連)
書記長 鎌田 一
 
  本日(1月10日)、仙台地方裁判所第2民事部(裁判長・高取真理子裁判官)は、旧社会保険庁(秋田社会保険事務局)職員4人が分限免職処分の取消を求めた裁判で、「原告らの請求をいずれも棄却する」という不当な判決を行った。
 
1、最初の争点となっていた、国家公務員法78条4号の「官制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合」の要件妥当性、すなわち社会保険庁の廃止・解体とそれによる分限免職が妥当であったか否かについて、原告の「社会保険庁は廃止されたものの、組織変更した日本年金機構が公的年金業務を担うことになったに過ぎず『廃職』にあたらない」等の主張に対し、判決は「公的業務を国の行政機関及び国家公務員に負わせるかについても、国会の立法により定められるべきもの」などと国の主張のみに従った判断を行った。
 そもそも2009年12月31日の社会保険庁の廃止・解体は、年金未納や年金記録問題など年金制度に対する国民の不信が高まる中で、参議院選挙(2004年)で大敗した当時の与党が自らの責任を社会保険庁職員に転嫁して、記録を業務目的外で閲覧したと決めつけて大量の職員の処分を強要したことから始まった。そして政府・与党は、過剰なバッシングを背景に、社会保険庁の廃止・解体を強引にすすめ、525人の大量の分限免職処分を強行した。これは全く理不尽な蛮行で、その動機は単なる「はらいせ」であり、何の道理もない。
 当時の状況について朝日新聞は、2013年11月13日付の社説で「過熱したメディアの報道ぶりもあった」と反省の見解を述べるとともに、社会保険庁職員への責任転嫁を「政治のパワハラ」と断じたことからも、社会保険庁の廃止・解体そのものに正当性がないことは明らかである。それにもかかわらず、判決がこの間の経過を無視したことは看過できない。
 
2、第2の争点である分限免職処分の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無について、判決は、分限免職回避努力義務が尽くされなかった場合や平等取扱い原則・公正原則・不利益取扱いの禁止などに反した分限免職処分は「違法となるべき」と前置きした。しかし、分限免職回避努力義務の主体については、厚生労働大臣が義務を負うことを明確に認定しながら、国については「直接的・具体的な分限免職回避努力義務についての定めがない」として「間接的に努力すべきであるとはいえるものの……義務を負うとはいえない」と私たちの主張を退けた。
 分限免職回避努力については、私たちは具体的事実を指摘して極めて不十分であると繰り返し主張してきたが、判決は、形式的な事実をなぞるだけで「分限免職処分を受けた525人のうち401人が退職手当が割増しされる制度の適用を希望した者であることも考慮すれば、社保庁長官等及び厚労大臣による分限免職処分を回避するための取組が全体として不十分であったとは認められない」と全く筋違いな判断を下した。
 特に東京事案で一部勝訴の要因となった日本年金機構発足時に324人の欠員が生じていたが追加募集を怠った事実について、判決は「原告らは懲戒処分歴を有しており、機構への募集の資格がないため……必ずしも原告が採用されたとは限らないから(追加募集しなかったことで)厚労大臣に分限免職回避努力義務違反があるとはいえない」と不当な採用基準を容認した。また、二重の処分であるとの主張に対しては、「(分限免職処分は)懲戒処分歴があることを理由に行われたものではない」とし、処分歴によって日本年金機構への採用が閉ざされた事実を一顧だにしない極めて不当な判断を下した。
 原告への懲戒処分は、カード管理の問題や業務目的外閲覧でない事実を考慮することなく、事態を収拾するために強引に行われた処分であるが、判決はその事実を全く無視している。
 日本年金機構の発足にあたっては、2008年6月30日に年金業務・組織再生会議がとりまとめた「日本年金機構の当面の業務運営に関する基本的方針について(最終整理)」では「懲戒処分者の有期雇用職員としての採用は可能」としていたが、7月29日の「日本年金機構の当面の業務運営に関する基本計画」の閣議決定では、一転して懲戒処分者を一律不採用とするなど不公正きわまりない対応がとられた。
 この経過について、秋田事案の口頭弁論では、全国ではじめて社会保険庁総務部長(当時)の薄井康紀氏の証人尋問が行われ、薄井氏は、与党からの人事介入があったのではないかとの追及に対し「与党で異論があった」と認めたにもかかわらず、判決はその事実をも無視した。
 
3、今回の判決は、私たちの主張をことごとく退けて、国の主張をうのみにしたもので、国による不当解雇を不問にする道理のないものであり、厳重に抗議する。
 国公労連は、今回の不当判決に屈することなく、逆転勝利をめざす決意である。本日の判決で社保庁職員不当解雇撤回を求める裁判は、一審段階を終え、東京、愛知、愛媛、広島事案で控訴審の裁判闘争を展開している。
 国公労連は、全厚生闘争団を全面的に支援して、不当解雇撤回を求めるすべての裁判闘争の完全勝利をめざすとともに、政府・厚生労働省に対して直ちに分限免職処分を撤回して全員の職場復帰を求めるたたかいに全力をあげる。
 国家公務員は、日本国憲法で定められた全体の奉仕者として公正で民主的な職務の遂行を担保するために身分保障が制度として確立され、本人の意に反して降任や免職を行う場合は、その事由も限定され、「公正でなければならない」(国家公務員法74条第1項)と公正原則を根本基準としている。そのため、分限による免職処分は極力回避され、1964年以降一度も発令されてこなかった。今回の分限免職処分は、前述の通り、強引かつ極めて不公正であった。このような不当処分が横行すれば、身分保障制度が画餅に帰し、公正で民主的な公務の運営が困難となりかねない。
 したがって、社会保険庁不当解雇撤回をめざすたたかいは、不当解雇の撤回をめざすと同時に、公正で民主的な公務員制度の確立をめざすためにも重要である。
 また、国が不当解雇を強行した背景には、これまで、日本の労働者の雇用と権利が著しく侵害されてきたことがある。国公労連は、不当解雇にあらがうすべての労働者と連帯してたたかいを継続するとともに、安倍政権が推進している労働法制改悪を阻止するたたかいに結集して、すべての労働者の雇用の安定と労働条件の確保のために奮闘する。