公文書改ざんと森友・加計疑惑の幕引きは許されない
――政治責任を明確にして真相の徹底解明を求める(談話)

【とりくみ:談話・声明等】2018-06-06
2018年6月6日
日本国家公務員労働組合連合会(国公労連)
書記長 鎌田 一

1、財務省は6月4日、「森友学園案件に係る決裁文書の改ざん等に関する調査報告書」をとりまとめるとともに、関係する職員の処分を発表した。公文書は、主権者である国民が政策決定過程が適切であったかを後に検証するために重要であり、民主的な公務運営には不可欠な存在である。そのため公文書の保存等の管理は、厳格に行われなければならない。したがって、公文書改ざんに関与した職員の処分は当然であり、むしろ刑事責任が問われないことが意外である。
 他方で、今回の調査報告書は、麻生財務大臣が「書き換え」などとはぐらかしていた行為について「改ざん」であることを認めたものの、その責任と理由が依然として曖昧にされているなど、疑問点が多い。
 
2、調査報告書は、公文書の改ざん等の端緒について、昨年2月17日の国会で「私や妻が関係していれば、首相も国会議員も辞める」との首相答弁であったことを明らかにしているが、首相答弁と公文書改ざん等との具体的な関連については何ら明らかにしていない。
 応接録の廃棄の経緯については、首相答弁以降、財務省理財局総務課長が総理夫人などの政治家関係者からの紹介リストを作成し、理財局長に報告した際に局長は「文書管理のルールに従って適切に行われるもの」との反応であったことから、総務課長は「廃棄するよう指示されたと受け止め」て関係者に伝達したとしている。また、決裁文書改ざんの経緯については、応接録と同様の記載がある旨を指摘された理財局長は「当該文書の位置づけ等を十分に把握しないまま、そうした記載がある文書を外に出すべきではなく、最低限の記載とすべきであると反応した」として、「それ以上具体的指示はなかった」が総務課長は「決裁を見直す必要があると認識した」としており、局長の曖昧な言動によって改ざん等が実行されたとしている。
  その上で調査報告書は、改ざん等の目的について「(国会審議で)更なる質問につながり得る材料を極力少なくすること」と決めつけているが、目的は調査報告書の文脈をたどっても首相夫人や政治家の関与する記述を廃棄・削除することにあり、明らかに論理のすり替えである。また、責任については、「一連の問題行為は、財務大臣及び事務次官等に一切報告されぬまま、本省理財局において、国有財産行政の責任者であった理財局長が方向付けたもの」と一部の公務員に責任を押しつけていることも看過できない。
 
3、公文書は、組織的に作成して管理されているために、改ざんを行うことも、たとえ改ざんしたとしてもそれを隠し通すことも困難である。そのため、公務員が自らの意思で刑事罰を問われかねない行為を冒すことはありえない。ましてや、国会対応を理由に行うことは、何のメリットもなく到底考えられない。すなわち、改ざんは、政治の関与などの外圧がなければ説明がつかない行為である。
 調査報告書は、端緒となった首相答弁との関係について、政治家や首相夫人の関与や忖度の有無を関係職員に確認した形跡がないのも不自然である。これについて、調査責任者の財務省矢野官房長は、「明示的に聞いていない」(6月5日衆議院財務金融委員会)と答弁した。これは、調査にあたって政治家との関係を意識的に避けて、政権への波及を回避しようとする意図が働いた可能性を示すものであり、こうした対応が政治家等が関与しているのではないかという疑念をさらに深くしている。
 また、国有地の大幅値引き問題について、今回の調査対象とはされていないことからも、これを以て疑惑を解消したとはいえない。
 こうした不十分な調査報告書で、財務省の一部の組織と公務員にのみ責任を押しつけて、事態を矮小化して、森友問題の幕引きをはかろうとすることは、許されるものではない。
 
4、政治家が責任をとろうとしない姿勢にも批判が高まっている。
 麻生財務大臣は、調査報告とあわせて公表した談話の結びに「私のリーダーシップの下…〈中略〉…信頼回復に努めてまいります」と大臣を辞任する意向がないことを表明し、首相も「責任を全うしてもらいたい」と述べている。しかし、安倍政権が旨としている政治主導は、政策決定に政治家がリーダーシップを発揮することはもちろん、結果責任を負うことも重要な要件とされているはずである。
 調査報告書では、近畿財務局の職員が「改ざんを行うことへの強い抵抗感があった」「本省からの度重なる指示に強く反発」したが、結果として改ざん等が実行された経緯を明らかにしている。また、改ざんを命じられ3月に自殺した近畿財務局の職員が遺書で「決裁文書の調書が詳しすぎと言われ、上司に書き直させられた」「財務省からの指示があった」「このままでは自分ひとりの責任にされてしまう」という言葉を残したことが報道(3月15日、NHK)されたが、これが事実であれば、半ば強引に改ざんが組織的に行われたことを示している。
 組織の長である大臣や任命した首相の責任は重大であり、その進退を問う声が高まっていることを肝に銘じて、公務員のみに責任を押しつけることなく、政治の責任を明らかにすべきである。
 
5、昨日(5日)、首相は、公文書をめぐって信頼回復のため再発防止を指示したが、具体策に乏しい。現在の公文書管理が当該府省に委ねられているという構造的な欠陥を正すべきである。また、調査報告書では、財務省理財局幹部について、改ざんに躊躇があったが、①決裁に必要でない情報であったこと、②決裁の本質的内容が変わらないこと、③国会での議論の材料を増やしたくないことから「許容範囲だと考えて、改ざんをやめるまでには至らなかった」としている。これは、公文書管理に対する認識の欠如を示すと同時に、改ざんを強いられたことがうかがえる記述でもある。
 首相が信頼回復や再発防止というならば、官邸の権限強化と人事権の掌握などで必要以上に職員を管理統制し、公務員を萎縮させ、政権に対する多様な意見反映が困難となっている現在の制度を抜本的に見直すべきである。
 
6、国公労連は、現在の政官関係に関わる公務員制度の問題点を検証して、国民の権利保障を担う公務員が「全体の奉仕者」として公正・中立で民主的な公務運営を可能とする制度を確立するために、昨年11月22日に「公正で民主的な公務員制度の確立をめざす提言(案)」を内外に示した(ホームページに掲載)が、政府にその実現を強く求めるものである。
  政府は、公文書改ざんや森友・加計疑惑の解明に消極的で幕引きに躍起になっているが、疑惑は政権中枢にむけられていることを忘れてはならない。疑惑を解明して国民に対して説明する責任は政府にある。したがってこのまま疑惑を放置することなく、国会が国政調査権を発動するとともに、第三者機関を設置するなど、徹底的に調査を行い、真相を解明して、公務の公正・中立性の確保と行政の信頼を確保することを強く求めるものである。