不当解雇を免罪する判決に抗議する
――社保庁解雇撤回裁判・秋田事案の控訴審判決にあたって(談話)

【とりくみ:談話・声明等】2019-05-17
2019年5月17日
日本国家公務員労働組合連合会(国公労連)
書記長 九後 健治
 
 仙台高等裁判所(第1民事部裁判長 小川浩裁判官)は5月17日、旧社会保険庁職員の分限免職処分の取り消しを求めた裁判で、「原判決(一審判決)は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却する」という不当な判決を行った。
 
1、一審の仙台地方裁判所の判決(2018年1月10日)は、極めて不当なものであった。
 争点の国家公務員法78条4号「官制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合」の要件該当性については、原告らの「社会保険庁は廃止されたものの、組織変更した日本年金機構が公的年金業務を担うことになったに過ぎず『廃職』にあたらない」等の主張を退け、国の主張のみ取り入れ「公的業務を国の行政機関及び国家公務員に負わせるかについても、国会の立法により定められるべきもの」として判断を行っており、控訴審判決もこの不当判決を妥当と判断した。
 これは、年金未納や年金記録問題など年金制度に対する国民の不信が高まる中で、政治の責任を社会保険庁とその職員に転嫁して、社会保険庁の廃止・解体へと強引に進めた事実を顧みず、こうした不当処分が適法と解釈されるならば、国家公務員を分限免職処分するために、当該部門を民営化・外部委託等すれば、解雇が正当化されることとなり、公務員の身分保障は画餅に帰し、公務の公正・中立性の確保が困難となる。
 
2、第2の争点である分限免職処分の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無について一審判決は、分限免職回避努力義務の主体について、厚生労働大臣が義務を負うことを明確に認定しながら、国については「直接的・具体的な分限免職回避努力義務についての定めがない」として「間接的に努力すべきであるとはいえるものの……義務を負うとはいえない」と私たちの主張を退けた判断を行っており、控訴審判決もこの不当判決を妥当とし控訴人らの主張を退けた。
「基本計画」において懲戒処分歴があるものを一律不採用とした点について、日本年金機構の発足にあたり、2008年6月30日に年金業務・組織再生会議がとりまとめた「日本年金機構の当面の業務運営に関する基本的方針について(最終整理)」では「懲戒処分者の有期雇用職員としての採用は可能」としていたが、7月29日の「日本年金機構の当面の業務運営に関する基本計画」の閣議決定では、一転して懲戒処分者を一律不採用とする与党の介入があったことを当時の社会保険庁総務部長の薄井康紀氏が証人尋問で「与党で異論があった」と認めたにもかかわらず、一審判決は全く触れておらず、控訴審判決でもその事実を再度無視した。
 
3、このように今回の判決は、こうした私たちの主張を一顧だにせず、政府の主張に従った不当な一審判決を容認し、不当判決を免罪するものであり、厳重に抗議する。
 不当解雇撤回のたたかいは、労働者の権利確立のためにも重要であり、不当解雇などの理不尽にあらがうすべての労働者と連帯するとともに、人間らしく働くルールの確立と労働法制改悪阻止のたたかいに全力をあげることが必要である。また、日本年金機構の体制問題や情報管理、政府による年金積立金による投機などで、年金制度に対する国民の不安が高まっているいま、このたたかいを通じて年金制度の拡充・強化を図ることも重要である。
 
4、不当解雇撤回を求める裁判は、この判決ですべての高裁判決が出されたこととなる。現在、愛媛事案が最高裁でたたかっており、いよいよ裁判闘争も大詰めをむかえている。
 このたたかいは、公務員労働者の権利と身分保障の確立、すなわち全体の奉仕者として公務の中立・公平性を確保するなどの公務員制度の民主化のためにも負けられないたたかいであり、今回の不当判決に屈することなく逆転判決をめざすとともに、すべての原告を職場に戻すためにも政府や厚生労働省へ労使間での決着を求め、粘り強く要請行動を繰り返していく必要がある。
 国公労連は、全厚生闘争団を全面的に支援して、不当解雇撤回をめざすすべての裁判闘争の勝利と、政府に対して処分撤回と全員の職場復帰など早期全面解決を求めて全力をあげてたたかう決意である。