国公労新聞2020年7月10日号(第1546号)

【データ・資料:国公労新聞】2020-07-10
コロナ禍をテコに行政私物化と企業利益の最大化ねらう骨太方針

 5月終わりから、政府の経済財政諮問会議(以下、会議)では「経済財政運営と改革の基本方針2020(仮称)」(以下、「骨太方針2020」)にむけた議論が行われており、7月半ばの閣議決定が想定されています。したがって、現時点で明らかにされている「骨太方針2020」の骨子案や会議資料等から、その内容と問題点を見ていくことにします。

コロナ禍を口実にしたショックドクトリン
 今回の「骨太方針2020」は、世界的に広がる新型コロナ禍のもとで、ビジネスや生活の環境、気候や環境などに対する危機意識の高まり、景気変動リスクの高まりなど状況が大きく変化しているという認識を明らかにしながら、「日本としての社会・経済の新しい大きな方向性をしっかりと打ち出すべき」(有識者意見)としています。加えて、議論の中である民間議員は「コロナ危機で以て相対的に見れば日本にも経済活性化の最大のチャンスがあるので、それを活かした経済財政運営を行っていく骨太方針にしていきたい」との意見を表明していますが、言い換えれば、新型コロナ禍を口実にした「ショックドクトリン」であり、新自由主義政策をさらにすすめ、財界・大企業が「もうけられる場の拡大」を狙っているということです。

行政のデジタル化を悪用し対面行政の縮小の危機
  「新しい大きな方向性」としてあげられているのは、デジタル化推進を「骨太方針の一丁目一番地」として、「デジタル・ニューディール」(デジタル化をこれからのインフラ整備と位置づけ)とそれにもとづく「デジタル・トランスフォーメーション」(デジタルによる変革)をすすめ、「新たな日常」下での経済活動としてすすめるという点です。
 その柱は「デジタルガバメント」「次世代型行政サービス」といった行政のデジタル化です。会議ではデジタル化を「後戻りさせることなく定着・拡大すべき」として、「公的分野のデジタル化のこれまでの取組は失敗であったとの猛省に立ち『できることを計画にしていく』のではなく『必要なことを必ず計画に盛り込み、それを実現する』という、従来とは異なる次元・手法」で規制改革や民間人材活用を協力にすすめるべきとしています。ある民間議員は、デジタル技術を取り入れるだけでは変わっていかないので社会のあり方や規制のあり方、実情に合ったルールづくりとセットですすめる必要があるとして、いっそうの規制緩和などを求めており、会議ではその司令塔機能を内閣官房に持たせる方向で検討されています。そうなれば官邸からのトップダウンが強まり、この間の持続化給付金「中抜き」問題や桜を見る会のような行政の私物化がいっそう加速する危険性をはらんでいます。さらに、デジタル化を進めるためには人手が必要だとする一方で、行政職員に負荷をかけることには限界があることから民間人材の活用や民間のさまざまなしくみを活用して対処する必要があるとする意見がだされるなど、この間の新型コロナウイルスや大規模自然災害などで明らかになっている公務の人材不足を解消するどころか、自分たちの利益につなげようという意図も見え隠れします。
 行政デジタル化として、オンライン化やワンストップ・ワンスオンリー型への転換やマイナンバーシステムの徹底活用があげられていますが、そのことによって「対面行政」が縮小していくなど、公務の役割や私たちの仕事にも大きく関わる問題です。

リモートワークを利用した長時間労働、賃下げ
 会議では在宅勤務やリモートワークを進めるべきだとの意見が多く出されています。マスコミ等で紹介されている意見は「家族と過ごす時間が長くなった」「満員電車に乗らなくていい」など好評価も多い一方で、デメリットとして「長時間労働になる」「職場内のコミュニケーションがとりにくい」などの問題も指摘されています。しかし、有識者から出されている意見は、こうした流れを定着させるためには、兼業・副業の推進、時間管理の弾力化などの「働き方改革2.0」が必要だとしています。これは、デメリットを根本的に解消することにつながるものではなく、フリーランスなど雇用によらない働き方の拡大につながる危険性もあります。
 また、リモートワークの効果として「東京一極集中の解消と地方創生」という点をあげていますが、これもバラ色ではありません。リモートワークがすすめば年に数回東京本社に出勤すれば全国どこで仕事をしてもよいというような例も紹介されていますが、給与水準はどうなるのでしょうか。「どこでも同じ仕事をするのだから、賃金は変わらない」という意見もあるでしょうが、そもそも財界は全国一律最低賃金に反対しています。有識者の意見でも「ジョブ型正社員の促進など年功序列にとらわれない」ことや「成果評価型人事管理を推進すべき」としていることを踏まえれば、結果的に賃金の地域間格差は残ってしまう可能性が高いと言わざるを得ません。
 リモートワークは、労働者にとっても少なくないメリットがあるものの、企業からすれば、「密」の状態を回避することによって健康な労働者を確保する一方で、成果主義を振りかざし労働時間の管理を行うことなく安価な賃金で労働者を使えるという、まさに自らの利益確保にとって好都合な制度であると言わざるを得ません。


 
最賃全国一律1500円各地から「いまでしょ!」


 全労連は6月28日、ZOOMによるオンライン集会「コロナ禍に克つ! いまでしょ! 最低賃金全国一律1500円」を全国から400人の参加で開催しました。
 
コロナ禍でイギリスは最賃6.2%アップ
 オンライン集会では、シンポジウムと全国リレー中継を実施。シンポジウムでは、全労連・黒澤幸一事務局次長が「日本よりコロナが深刻なイギリスは最低賃金を6.2%引き上げた。日本ではリーマン・ショックのときと同じように最賃を抑制しようとしているが、コロナ禍だからこそ最賃引き上げと地域間の格差を解消すべきだ。他国のように中小企業には支援を行い最賃を引き上げることが必要」と述べました。
 
最賃での生活は常に自粛を強いられ苦しい
 竹信三恵子和光大学名誉教授は「非正規雇用労働者が4割にのぼるなか最賃を1500円以上に引き上げなければ生活ができない」と指摘し、中澤秀一静岡県立短大准教授は「全国各地で最低生計費の試算調査を行った。大都市圏では住居費が高いものの、地方では自動車維持費がかかり、最低生計費はほとんど変わらない。全国一律での最低賃金1500円以上が必要だ」と強調しました。
 全国リレー中継では、北海道、岩手、長野、愛知、大阪、岡山、福岡、鹿児島から発言。大阪労連青年部の河合成葉部長は「この4月に最低賃金で1カ月間生活する『最賃体験』にとりくんだ。コロナ禍の自粛なので娯楽や外食の支出が抑えられ、最賃でも生活できるとみんな思っていたが多くの人が超過した。コロナの自粛がなくとも最賃での生活は常に自粛を強いられている以上の苦しい状態になるということが分かった。最賃の大幅引き上げが必要だ」と語りました。



 
必読の雑誌KOKKO
コロナ対応の公務労働者を活写
「天上がり」で歪む行政を告発


  行財政総合研究会の永山利和元日本大学教授に雑誌『KOKKO』第39号の薦めを書いていただきました
 新型コロナウィルス感染症のパンデミックは、誰のための国家か、真に国民国家の役割を担うのは誰か? 国民本位の「全体の奉仕者」として行動する国や地方の公務員を抱える政権が国民要求を棚上げして大企業偏重路線をいかに推進できるのか? それらをめぐる政・官・民の仕掛けを『KOKKO』第39号掲載の2つの特集が鮮明に描いています。

新型コロナのパンデミックと対峙する公務労働者
 特集1は、世界を襲う新型コロナウイルスが第二波に移行中、第一波に立向かった国と地方の公務労働者と公務員労働組合のとりくみが記されています。航空・空港、港湾・海事、鉄道・道路・自動車および運送事業者、観光業など、各分野で感染者と向き合い、検疫・医療現場とそれら支援に、蓄積された災害対応のノウハウ、その応用に取り組み公務労働者の姿が描かれます。
 「休業要請」や学校休校宣言。それらに対応した雇用調整助成金の特例対応、労働行政を応用するテレワーク支援。中小企業への越境支援や水際作戦に従事する公務員への生活支援等々。これらが新型コロナウイルスに携わった公務労働者が自分の頭で動いたので第一波を耐えたのです。
 学童保育では政府が施設集約・職員削減策を続けてきたのに抗い、政府政策の結果生まれた3つの不足(ヒト不足、スペース不足、モノ不足)の中、労働組合が学校職員支援要請、校庭・体育館の利活用、公園利用許可等の要請に走りました。「帰国者・接触者相談センター」は、コロナ対策以上に不十分な行政資源で検疫・感染症対策にとりくまざるをえませんでした。国と地方の実態は、30年以上も続く新自由主義政策が新型コロナ感染症のパンデミックに対して、十分な対応ができないことを証明しました。
 しかし、新自由主議国家の緊急事態が露呈した政権の脆弱さ、それらへの批判を乗り越え、国民要求に応える公務労働者の奮闘、そこに浮かぶあるべき国家像が鮮明です。

官邸と大企業による行政支配の構造に迫る
 特集2は、晴山一穂専修大学名誉教授と、内閣官房・内閣府の「天上がり」を調査した藤原朋弘弁護士とが密度の高い対談を行っています。
 20世紀末の中央省庁再編から20年。新自由主義国家体制づくりに内閣官房・内閣府組織の設置、さらに各省庁の専門機能を内閣官房・内閣府に集中し、各省庁の専門性を「下請行政機関」に格下げ。さらに内閣人事局設置と人事院機能縮減により政権から一定自立した公務員制度を変質させました。その過程が詳細に示されています。
 新自由主義政権は中央省庁再編から各省庁政策が内閣府の経済財政諮問会議に政策形成力を移し、会議の中心メンバーとして「民間議員」を当てました。宮内、牛尾、坂根、榊原、新浪等、財界・大企業のトップを「民間議員」に迎え、省庁の自律・専門性を「縦割り行政の弊」と断じ、その除去を口実に国民視点を次々と外していきました。内閣人事局創設で官邸が認めた政権べったりの官僚を登用し、官邸政治を強めました。結果、森友・加計問題、桜を見る会疑惑、黒川検察庁長官絡みの検察庁法改正問題等が露呈しました。官邸政治推進を図るため、省庁幹部職員人事を官邸支配(官房長官、総理大臣の支配)とし、同時に財界要求の継続的ロビイング体制となる「官民交流法」(2000年制定)を活用し、民間企業職員の「天上がり」を活用しました。その数は2009年の1088人から2018年の2226人へと2倍以上の規模に膨らみ、官邸で大企業優先政策実行の立案を支えました。いま持続化給付金の「中抜き」が問題になっている電通の職員も「天上がり」しています。今後いまより巧妙な癒着形態を生むかもしれない構造上の問題を分析・批判する、この対談は必読と言えるでしょう。



 
ネット署名にご協力を
人権啓発の館での不当解雇撤回


 国立ハンセン病資料館の運営は(財)日本財団から(財)笹川保健財団に変わりましたが、館長や事務局長など幹部職員はその

ままです。笹川保健財団は、採用試験を強行して2人の学芸員を不当解雇しました。国立の資料館としてスタートした2007年度以降、受託者は3回変わりましたが、全国ハンセン病療養所入所者協議会などと厚労省による資料館

運営の継続性や専門性を確保するとの確認があり、日本財団を含めて採用試験は行われていません。今回の笹川保健財団による採用試験はこの点でも異様で、18年も勤務してきたベテラン学芸員である組合員の解雇に道理はありません。国公一般は「不当解雇を撤回し、二人の学芸員を資料館にもどしてください」のネット署名を始めました。ネット上での個人の問題にすり替えた誹謗や中傷は事実ではありません。署名へのご協力をお願いします。