国公労新聞2020年9月25日号(第1551号)

【データ・資料:国公労新聞】2020-09-25
浅野書記長に聞く 秋年闘争のポイント
職員の労苦に報いる賃金改善が不可欠


Q 新型コロナウイルス感染拡大による日本経済への影響は?
 2019年の消費税増税とコロナ・ショックという複合危機が日本経済を襲っています。賃金、消費、海外との取引状況を示す経常収支が軒並み減少しています。2020年4~6月期の国内総生産(GDP)改定値が年率換算で実質マイナス28.1%へと下方修正されました。個人消費が壊滅的な水準まで落ち込んでいることに加え、下方修正された主な要因は設備投資の大幅な落ち込みといわれています。総務省が発表した7月の労働力調査によると、完全失業率(季節調整値)は2.9%、前月に比べ0.1%上昇しています。完全失業者数(季節調整値)は前月比2万人増の196万人となっています。財務省が発表した法人企業統計調査によると、金融機関を除く全産業の経常利益は前年同期比46.6%減少し、東京商工リサーチの集計によると、コロナ関連の企業の経営破綻が2月からの累計で446件にのぼっています(9月1日午後1時現在)。このように安倍政権によるアベノミクスの失敗とコロナ失政が暮らしと経済を圧迫しています。

Q コロナ禍の影響で例年だと8月上旬に出される人事院勧告が遅れていますが、勧告作業の状況は?
A 
勧告の基礎作業となる民間給与実態調査について、一時金は6月29日~7月31日、月例給は8月17日~9月30日に実施されています。現時点では勧告の時期やその内容は不透明な状況です。今年の民間賃金の妥結状況をみれば、民間労組もがんばっていますが月例給については昨年の水準よりやや低い傾向にあり、特に今夏の一時金については落ち込みが相当厳しく、予断を許さない状況です。先行して一時金のみの(マイナス)勧告を出す可能性も否定できません。慢性的な人員不足にコロナ関連業務が負荷されいっそう厳しさを増す職場実態の中で、感染の不安を覚えながらも国民の生命や暮らしを守るために現場第一線で働いている職員の労苦に報いる賃金改善は不可欠です。また、前問で述べたとおり消費が大幅に落ち込んでいる日本経済を回復させるためには、経済の内需主導型への転換が求められており、今年度の最賃改定が全国加重平均でわずか1円(0.1%)の引き上げに止まっている状況のなか、最賃と同じく社会的影響力を持つ公務員賃金を引き下げることは社会政策上も許されません。
 なお、先の第201回通常国会で廃案になった「定年延長法案」の今後の国会審議の見通しはたっていません。

Q 安倍首相が健康上の理由で辞任し、9月16日に菅首相が就任しました。政治状況はどう変わりますか。
A 
菅首相は安倍政治の継承を表明しています。目指す社会像について、「自助、共助、公助」など「自己責任」を強調しています。国民に「自己責任」を押し付ける新自由主義の暴走が、これまでよりいっそうひどくなることを強く警戒しなければなりません。また、菅首相は、官僚人事に介入することで公務員制度を歪めてきた政治家であることを看過してはいけません。同日組閣したばかりではありますが、今秋の衆議院解散・総選挙の可能性も否定できない状況にあります。

Q 定員や職場予算など概算要求の状況は?
A 
コロナ禍の影響で次年度概算要求の提出期限が9月末日までに延長されています。連年の定員削減で職場の人員不足はすでに限界点に達しており、定員合理化計画の中止・撤回、業務量に見合う人員体制の確立・拡充は喫緊の課題です。この間の新型コロナウイルス感染症の拡大や大規模災害で明らかになったように、公共体制の立て直しは急務です。公務、医療、介護、保育、教育など、いわゆるエッセンシャルワーカーの人員増と処遇改善を早急にすすめるべきです。単組でとりくむ増員署名とあわせて国公労連が提起する国会請願署名の集約や、地元選出国会議員への要請(11月5日に国会議員会館で「いっせい議員要請行動」をとりくみます)など世論と政治を変える運動を全国で旺盛に展開し、今秋の予算編成期のたたかいで職場の切実な要求の前進を勝ち取ります。
 また、気象庁は9月15日から気象庁ホームページでウェブ広告の掲載を開始しましたが、不適切な広告が掲載されたため翌日停止しました。ウェブ広告の掲載は国民の公正であるべき行政に対する信頼を揺るがしかねず、国交労組は反対声明を発表しています。国民の安心・安全、生命と財産を守るための行政体制と財政基盤は国が責任をもつべきであり、改めて国の責任と役割を問いただす必要があります。

Q 要求を実現するためには労働運動の土台である組織づくりが必要ですが、今秋はどのようなとりくみを提起されているのでしょうか。
A 
10~11月を秋の組織拡大強化月間に設定し、各級機関が具体的な目標を掲げて、国公共済会加入拡大と一体で組織拡大・強化にとりくみます。10月の新規採用者はもちろんのこと、4月の新規採用者をはじめ、非常勤職員や再任用職員などすべての未加入者に対して、組合加入の働きかけを強めます。
 また、来年4月に開催を予定している「これからの国公労働運動を考える全国会議(仮称)」に向けて、新たな国公労働運動のあり方、魅力ある労働組合づくりをつうじてどのように組織強化・拡大につなげていくか、単組、ブロック国公・県国公を交え議論を開始します。



 
賃金・一時金改善の勧告を各単組書記長が人事院を追及


20年人勧いまだに見通したたず
 人事院勧告がいつ出されるのか、まったく見通しがたっていません。20年人勧にむけた重点要求に関しては、各級機関での上申交渉を背景に、国公労連本部・各ブロック国公と人事院の間で交渉が積み上げられています。9月2日に各単組の書記長が参加して、人事院交渉を実施し、職場の声もとに追及しました。

 人事院は、勧告について「民間給与実態調査は、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響から、ボーナス等の調査を先行して実施し、月例給の調査については8月17日から実施しているところ。人事院としては、国会と内閣に必要な勧告・報告を行うという国家公務員法に定められた責務を着実に果たしていきたい」、賃金については「月例給与、一時金とも、今の段階では何とも言えない状況であるが、本年においても民調の結果に基づき、適切に対処したい」と具体性に欠ける不満な回答に終始しました。

コロナ禍だからこそ賃上げを
 
 浅野書記長は、勧告にあたって「最も重要なのは、情勢認識である。我々はコロナ禍での経済指標の落ち込みなどをみると、これまでにない極めて特殊な環境下に置かれていると認識している。勧告についての今日の回答は全く従来と変わらないもので、情勢適応の原則を言うのであれば、交渉のなかで人事院の現下の情勢認識を明らかにすべき」としたうえで、「この間の自然災害や、新型コロナウイルス感染症への対応で奮闘する公務労働者への賃上げが必要。国家公務員の賃金は770万人の労働者に影響する。現下の情勢(内需拡大の必要性)に鑑みれば、初任給改善含む賃上げと地域間格差解消が必要」など、賃上げ・諸手当をはじめとする処遇改善の必要性を強調しました。
 つづけて、各単組の書記長から、賃金・一時金の改善、通勤手当をはじめとする諸手当の改善、再任用職員職員の処遇改善、超過勤務縮減など労働時間短縮、新型コロナウイルスに感染するリスクが高い職場で業務に従事する職員に対する手当の新設、安心して働ける定年延長制度の実現などを求めました。

国の職場から非常勤職員の均等待遇を
 また、非正規労働者の均等待遇にむけては、労働契約法20条で禁じられている「不合理な待遇格差」の是正を求める郵政労契法20条裁判の最高裁判決が10月15日にも出されることとなっており、その結果に注目が集まっています。公務職場においても民間に遅れることなく非常勤職員の均等・均衡待遇にむけた措置を講じていく必要があり、病休の有給化をはじめ、生活関連手当等の支給など、今年の勧告で不合理な格差を完全に解消することを求めました。


 

命守るための研究に予算を オンラインで国研集会ひらく


 第38回国立試験研究機関全国交流集会(国研集会)が8月22日、オンラインで開催され53人が参加しました。主催は国公労連と学研労協で構成する実行委員会で、今回の国研集会は「ポストコロナ社会における国立研究機関の役割を考える」をテーマに掲げ、マスコミ4社から取材がありました。
 日本科学者会議科学・技術政策委員会の野村康秀氏が、来年4月から施行される改正科学技術基本法の問題点について講演。企業の短期的な利益を追求する研究だけが重視されかねないことを批判しました。
 パネルディスカッションでは、研究現場から全厚生・国立感染症研究所支部の研究者2名も参加し、「基盤的研究費と人員が削減され、200以上ある感染症に対応できない。コロナ以外の感染症の研究も含め、国民の命を守る研究に予算が必要だ」と訴えました。
 また、国土交通労組・土木研究所労組の片平博委員長が「コロナ時代の自然災害対応」について報告。災害時に国民の命を守るために奮闘している研究者の高齢化が進んでいる問題などを指摘しました。
 国公労連の笠松鉄兵書記次長は、運営費交付金や基盤的経費の削減で日本の研究力が低下している現状を批判し、研究体制の拡充を訴えました。