官邸主導による人事権(任命権)の乱用を許してはならない
――日本学術会議の会員任命拒否問題に関する書記長談話

【私たちの主張:私たちの主張】2020-10-07
日本国家公務員労働組合連合会
書記長  浅野 龍一
 
 菅首相は9月30日、日本学術会議の会員任命にあたって6名の学者を拒否した。このことは日本学術会議の独立性を侵害し、憲法に保障された学問の自由および思想信条、表現の自由を侵害するものであり、断固抗議する。今回任命を拒否された6名は、政治学、法学、歴史学者、宗教学など、思想信条の自由、人権の尊重に関わる学者で、安全保障関連法、特定秘密保護法、共謀罪等に反対を表明したことがある。政府は任命拒否の理由は明らかにしていないが、これは官邸の意に沿わない者を露骨に排除する政治介入であり、人事権(任命権)を盾にした強権的手法は、官房長官在任時から続く菅首相の常套手段である。
 森友・加計問題で浮上した「忖度」という言葉に象徴される不適切な行政の執行や政策決定の背景に、官邸に権限が集中したことが挙げられる。歴史的経過を見ると、その大きな節目は中央省庁再編による「内閣府の創設と内閣官房の権限の強化」と「内閣人事局の設置」であり、今回の任命拒否問題もその延長線上に位置するものといえる。
 内閣府は、国家行政組織法とは別に新設された内閣府設置法にもとづいて、①内閣の重要施策に関する内閣(内閣官房)の事務を助ける役割、②各府省の施策の総合調整など、事実上各府省の上に位置する行政機関である。当初の目的は、複数の府省にまたがる課題を担うことによって、省益優先の縦割り行政や族議員の利益誘導などの弊害をなくすことととされていたが、時の政権の意向が内閣府を通じて各府省にトップダウンで示されるなど、各府省の自律性が弱まる結果となった。
 特に人事権(任命権)に関して、内閣人事局が担う幹部人事の一元管理は、内閣総理大臣又は内閣官房長官が幹部人事の適格性審査を行ったうえで幹部候補者名簿を作成し、それをもとに各府省が任命するという仕組みである。さらに、管理職員(課・室長)の任用についても、内閣総理大臣への報告を義務づけ、内閣総理大臣が運用の改善や調整が行えるようになるなど、官邸に実質的な人事権(任命権)が集中した。また、幹部職員の本人の意に反する降任も可能とする要件が拡大されて、時の政権による恣意的な人事配置が可能となった。官邸主導人事が官僚の「忖度」の要因であることが多方面から指摘されているが、菅首相はそのことを顧みず、就任時に「政府に従わない官僚は異動してもらう」と述べ、日本学術会議の会員も「公務員」として「任命責任は首相にある」と高圧的な態度を示した。これまで官邸主導人事が行政の歪みを生じさせていたことを踏まえれば、今回の任命拒否問題は、日本の科学を政治権力のもとにひれ伏せ、その民主的発展を大きく歪める危険性があることを容易に想起させる。
 国公労連は、「各府省の適材適所を基本とした人事配置から、時の政権による恣意的な人事を許すこととなり、『全体の奉仕者』という公務の公正・中立性が損なわれかねない」として内閣人事局の設置と幹部職員人事のあり方に反対してきたが、残念ながらこの主張が学術分野でも裏付けられる結果となった。内閣官房の権限強化は、労働基本権の代償措置である人事院勧告や人事院の「意見の申出」などを軽視することにもつながりかねない危惧がある。内閣府と内閣人事局については、公正で民主的であるべきという憲法と国家公務員法の原則にしたがって組織の抜本的な見直しが必要である。
  国公労連は、憲法を踏みにじる日本学術会議の会員任命拒否の撤回を強く求めるとともに、立憲主義と民主主義を守り、憲法がいきる政治の実現と公正で民主的な公務員制度の確立をめざして奮闘するものである。