日本郵便の有期雇用社員格差是正最高裁判決にあたっての談話

【私たちの主張:私たちの主張】2020-10-16
2020年10月16日
日本国家公務員労働組合連合会
書記長 浅野 龍一
 
 最高裁判所第1小法廷(山口厚裁判長)は10月15日、日本郵便株式会社(以下、日本郵便)の有期雇用社員と正社員との労働条件格差の不合理性に関して、福岡高裁判決(一審原告1名)、大阪高裁判決(西日本訴訟一審原告8名)及び東京高裁判決(東日本訴訟一審原告3名)について、扶養手当、年末年始勤務手当、年始期間における祝日給、有給の病気休暇制度及び夏期冬期休暇制度の正社員との格差が不合理で違法であるとして、日本郵便に対し、旧労働契約法20条に反する不法行為として損害を認める判決を言い渡した。この判決は、非正規労働者の均等・均衡待遇実現にむけて前進を勝ち取ったとの社会的評価に値するものである。
 
 日本郵便は、従業員約38万人にうち約半数の18万4千人が非正規社員であるといわれているが、非正規労働者は民間だけでなく、公務の分野でも増加している。
 2019年7月現在、国の職場では、77,156人の非常勤職員[1]が働き、常勤職員とともに行政運営を支えている。これは、1969年に制定された「行政機関の職員の定員に関する法律」で恒常的に置く必要のある職にあてるべき常勤職員の総数を決められているうえに、連年にわたる定員削減が強行されるもとでも、国民のニーズや複雑・困難化する業務に対応するため、本来、常勤職員で対応すべきところ、非常勤職員を採用し、それによって公務・公共サービスを維持しようとしている結果であり、そのことがなければ国の行政機関の運営は成り立たないのが現状である。非常勤職員はそうして国の行政を支えているにもかかわらず、雇用は不安定、処遇は劣悪で「官製ワーキングプア」と揶揄される実態が告発されている。
 非常勤職員は、国家公務員法と労働法の狭間に置かれ、定員管理制度と任用制度の壁に阻まれ、予算の厳しい制約を受けているなど理不尽な状態に置かれている。
 この間の私たちの運動で、非常勤職員の均等・均衡待遇は、一定の前進を勝ち取ってきているが、未だ常勤職員との待遇格差は解消されていない。
 日本郵便をはじめとする日本郵政株式会社は、元々行政機関であったものが民営化されて現在に至っており、今回の判決は国の非常勤職員の労働条件にも大きな影響を与えるものと考えられる。
 
 こうしたことを踏まえ、国公労連は、非常勤職員制度の抜本的改善のために、以下の課題を解決することが必要だと考える。

① 同一価値労働同一賃金を基本とした均等・均衡待遇の実現
 国家公務員の給与は、職務給の原則があり、同一価値労働同一賃金を適用する素地がある。非常勤職員の職務評価を公正に行い、給与について給与法で定められている「常勤職員との均衡」を確実に履行させるとともに、労働条件すべてに「均等・均衡待遇原則」を確立すべきである。
 また、旧労働契約法第20条
[2]では、労働契約の期間の定めがあることによる期間の定めのない労働者との不合理な労働条件の相違を禁止しているが、非常勤職員にも同様の規定を整備し、とりわけ、病気休暇の有給化、生活関連手当等を措置すべきである。

② 定員管理政策の抜本的見直しと非常勤職員の常勤化
 国家公務員法では、恒常的・専門的かつ継続的業務については、常勤職員で対応することが原則である。すなわち、必要な定員を確保して常勤職員の配置を基本とするとともに、恒常的・専門的な職務を担う非常勤職員を常勤化・定員化すべきである。
 そのため、政府の総人件費抑制政策を改めさせるとともに、総定員法の廃止と定員削減計画の中止・撤回による定員管理政策の抜本的見直しが必要である。

③ 任用継続義務と雇い止めの防止、労働契約法の準用
 非常勤職員についても、常勤職員と同様の身分保障を確保するために、任用を更新しないことが当初から確定している場合を除いて、任命権者には任用更新の義務が課せられるべきである。また、労働契約法では、解雇権濫用法理を条文化するとともに、第18条で、有期契約の契約期間の通算が5年を超えた場合に本人の申出により期間の定めのない労働契約へ転換できる「無期雇用化」の仕組みを規定しており、同様の規定を整備すべきである。
 国公労連は、非常勤職員の雇用をめぐる実態から目を背けず、「任用」という法・制度においても、1)任命権者に原則任用更新の義務を課すとともに、「雇い止め」は解雇と同じであることから、解雇権の濫用を防止する仕組みを確立すること、2)常勤化・無期雇用化の権利を保障するなど、国際労働基準や労働契約法の精神を活かした仕組みを確立することによって、非常勤職員の身分保障を常勤職員と同様に実効あるものとする必要があると考える。
 
 本件に先立ち、最高裁は10月13日、大阪医科大学事件及びメトロコマース事件において、賞与及び退職金の格差を不合理と認めない極めて不当な判決を言い渡した。この判決は、格差是正の立法趣旨を軽視し、非正規労働者の待遇を改善し格差を是正していこうというこれまでの流れに逆行するものである。
 また、人事院が10月10日に政府と国会に提出した「人事管理に関する報告」では、非常勤職員の処遇改善に関して何ら新しい施策を打ち出しておらず、前述の流れを堰き止めている。
 日本全体で見れば、非正規労働者は2,120万人を超えており、民間・公務を問わず今後も均等・均衡待遇の実現と格差是正は喫緊の課題である。
 国公労連は、非正規労働者の格差是正を求める運動をさらに発展させるため、民間労働者とともに、国民との共同をひろげてたたかう決意である。
 

[1] 「一般職国家公務員在職状況統計」より算出(「委員・顧問・参与等」「保護司」「水門等水位観測員」を除いたもの)。
[2] 旧労働契約法第20条は、法改正により、パートタイム・有期雇用労働法の第8条と第9条、労働者派遣法第30条の3に移行している。