国公労新聞2022年1月10・25日号 第1577号

【データ・資料:国公労新聞】2022-01-12
コロナ対応の医療最前線で奮闘する全医労の仲間
いのちまもる国立病院の機能強化を


 新型コロナウイルス感染症への対応をはじめ医療の最前線で奮闘する国立病院の仲間たち。職場の状況や組織拡大などのとりくみについて、全医労(全日本国立医療労働組合)の松本よし子副委員長(組織部長)にお話を伺いました。


 ―今なおオミクロン株で第6波が危惧されるなか、国立病院で働く仲間は大変だと思います。

 国立病院機構は全国に140の病院があるのですが、これまで全体の7割近くになる97病院の2515病床でコロナ患者を受け入れてきました。また、国立高度専門医療研究センター(NC)の8つの病院のうち7つの病院がコロナ患者を受け入れています。そのほか、都道府県からの要請を受けて、コロナ感染拡大地域へ看護師などを派遣してきました。
 国立病院機構法とNC法には、「厚生労働大臣は、災害や公衆衛生上重大な危害などの緊急事態に対処するため、必要な業務の実施を求めることができる」と明記されていることもあり、国立病院はコロナ対応においても医療の最前線に立ってきました。
 コロナ対応での職場実態をつかむために全医労が集めた組合員の声をいくつか紹介します。

コロナ最前線からの組合員の声
 ●コロナ受入れ病院の看護師です。現場は常に人手不足です。スタッフは疲弊し、退職する人、メンタル不全で仕事ができなくなる人もいます。東京オリンピックの強行開催など政府の判断の誤りでたくさんの被害者を出しこれは人災だと感じています。
 ●コロナ禍以前から看護師は寝る時間を削って働いています。シフト間隔の短い日勤→深夜、準夜→日勤、一晩中の二交替勤務等きついです。心電図、呼吸器、各種機器のアラーム、ナースコールが鳴り響き、どこから行けばよいか、病棟にいて救急車を呼びたい状況になることもあります。これ以上は、燃え尽きてしまいます。
 ●救急外来で勤務しています。コロナ発生から1年以上たっても設備が整っていない。発熱外来のプレハブ、発熱患者用のテントは、冬は寒く夏は暑く体調のすぐれない患者にとってナンセンス。看護師は、他の救急患者の対応をしながら問診するため、ガウン着脱、感染リスクにおびえながらの業務。
 ●看護師の優しさにつけこまないでください。常に人員不足で、出産・育児は本来喜ばしいことなのに、「人が足りない」ことで、肩身の狭い思いをする。医療職は、自分を犠牲にして様々なものを制限されて頑張っているのに、政府は、最前線で働く私たちを何だと思っているのでしょうか。

国立病院の機能強化を求める全医労「大運動」
 こうした組合員の声にあるように、もともと看護師数が少ない(左図)など脆弱な医療体制のところにコロナ禍が襲ってきました。
 その上に政府は公立・公的病院の再編・統合をはじめとする病床削減、人員抑制の方針を未だに変更していません。しかも、病床削減をした病院には消費税の税収を財源とした補助金を支給するなど、まったく矛盾した政策をとっており、現場からも大きな怒りが沸き起こっています。
 こうした政府の政策を改めさせて国立病院の機能強化を求める全医労「大運動」に今とりくんでいます。軸となるのは「国立病院の機能強化を求める国会請願署名」で、2022年の通常国会での請願採択に向けてとりくみを強化しています。ぜひご協力をよろしくお願い致します。

国立ハンセン病療養所の定員削減を許さない
 国立ハンセン病療養所は独立行政法人ではありませんので、政府が進める国家公務員の定員削減の対象とされています。入所者の高齢化(平均年齢87歳、21年11月現在)により看護・介護度が高くなりもともと人員不足の中、コロナ感染の防止対策などでいっそう大変な状況にもなっていて入所者に寄り添った看護・介護が難しくなっています。入所者の人権・命を守るため、定員削減からの除外と入所者に寄り添える人員配置を求めてとりくみを進めています。

要求実現に向けて組織拡大・強化を
 働くルールの徹底など職場改善の要求では、①2人夜勤解消、②年休取得促進、③超勤縮減と不払い一掃、④ハラスメント一掃という4つの課題を重視しています。
 こうした職場改善要求の前進や、国立病院の機能強化を実現するために、組織拡大・強化がよりいっそう求められています。
 組織拡大を前進させるために、コロナ禍であっても感染対策をきちんと行いながらビラ配布や退勤調査、オンラインを活用したとりくみなどさまざまな工夫を凝らして職場に労働組合の姿を見せながら職員と対話を重ねていることです。

21年秋の行動で組織拡大38人
 2021年11月5日には、「いい・いちにち行動」と銘打って、全国統一行動にとりくみました。コロナ禍でも各支部(写真)で感染対策を十分にとりながら、朝ビラの配布を皮切りに、「職員の労苦に報いる賃金改善を」と寄せ書きを行い要求をアピールしたり、昼の行動では、おしゃべりカフェや学習会などで多くの職員と対話しています。また、「国立病院の機能強化を求める請願署名」のポスティングや市議会議員との懇談など地域にも打って出ました。夕方には退勤調査やアンケート、署名などで職員と対話するなど、終日の奮闘の結果、38人が全医労の仲間に加わりました。

新規採用者の仲間づくりに全力あげる
 2022年4月の新規採用者の仲間づくりに向けては、本部主催の「新歓ラボ」を1月下旬に開催して、「新規採用者にどう声かけをすれば仲間になってもらえるのか? 声をかけても組合加入を断られたときはどうすればいいのか?」などの課題について議論を深めます。
 また、各支部においては青年を中心に「新歓プロジェクトチーム」を結成し、仲間づくりを推進していきます。
 オミクロン株による感染拡大など今なおコロナの収束が見通せず、医療現場の厳しさはさらに続くことが危惧されます。
 誰もがどんなときでも必要な医療を受けられ、職員が安心してやりがいを持って働き続けられる職場をつくるため、仲間をたくさん増やしていく決意です。


 


    職場の仲間の要求を実現するには、しっかりした運動を展開できる労働組合組織が必要です。国公労連・各単組は、2022年4月の新規採用者を仲間に迎え入れるためにさまざまな準備をしているところです。仲間づくりの課題について、全労働の山口大吾中央執行委員(組織部長)・高梨雅文中央執行委員(教宣部長)と、全司法の井上隆博書記次長(組織部長)にお話を伺いました。



【全労働】組合員一人ひとりが仲間づくりの担い手に


 ―2021年の11月16日に、国公労連で仲間づくりに向けた「キックオフ集会」を開催しました。そのときに、山口さんに全労働のとりくみを報告していただいて、全労働が組織拡大・強化を最重要課題としてとりくんでいることがよくわかりました。印象に残っているのが「すべてのとりくみにおいて組織拡大を重視して、『総がかり』『総あたり』のとりくみを推進する」として、仲間づくりを進めているということでした。

多くの仲間が力合わせれば要求を実現できる
 山口 
労働行政は、政府による定員削減や賃金抑制などで職場が大変疲弊している中でコロナ禍に伴う助成金制度等の拡充や雇用確保など、各職場では過重労働や健康破壊など厳しさが増しています。
 こうした中、全労働は職場における感染症対策の徹底を厚労省へ求めるとともに、職員や利用者の健康・安全確保に必要な予算の確保を求め、現場の実情を訴え続けてきました。また、増加する業務によって超過勤務が蔓延する中、不払い残業を生じさせないための予算確保と的確な時間把握の徹底を求めた結果、厚労省は不適切な時間管理を行わせないよう指導を徹底させると回答しました。
 こうした運動の成果は多くの仲間が力を合わせることによって要求を前進させることを示しています。全労働は職場の要求実現と組織拡大を両輪だということで大事にしてきました。「総がかり」というのは、「組合員一人ひとりが組織拡大の担い手になろう」ということですが、最近では、雇用不安を抱える非常勤職員の仲間が職場を守るため自ら組織拡大で奮闘したり、働き続けることができる職場をめざして青年が進んで仲間を増やしたりしていて、全労働全体として仲間づくりの重要性が定着してきていると感じています。

 ―全労働は「すべての支部における新規採用者の100%加入と異動者の100%継続加入、さらには通年のとりくみとして未組織者の加入促進と脱退の防止」という文字通り100%加入が目標になっていますね。

労働者の権利を保障する労働組合加入
 山口 
最近、私が感銘を受けた青年組合員の発言を紹介したいと思います。その青年は、「労働組合をメリット、デメリットで語るべきではないと思います。労働者の団結権という権利を保障する観点から考えてみると、日本の多くの職場に労働組合が存在しない現状は、労働者の権利を行使できない無権利な状態が広がってしまっているといえるでしょう。職場に労働組合が存在すること自体が労働者の権利を保障するもので、労働組合の加入によって、労働者は職場で自由にものが言えたり、職場環境や仕事のあり方を良くしようという議論ができるのだと思うのです。ですので、労働者に権利を保障し一緒によりよい職場にするためにみんなで声かけをし仲間づくりを広げてほしいと思います」と語ってくれました。
 この「労働組合への加入によって労働者の権利が保障される」という点は、労働行政で働く仲間でつくる全労働としてゆずれないことですから、100%加入が目標になるのです。

 ―なるほど。それから次世代を担う青年の意識的な育成も重視されていますね。

次世代を担う青年を視野の中心に
 高梨 
年々1000人近い方が採用され、職場の年齢構成が急速に若年層へ移行してきています。そのため、職場の最前線で奮闘する若手組合員が運動しやすい環境づくりと将来の全労働を担う青年を育成していくことがとても大切になっています。全労働は「組織拡大・強化に向けた『基本的な構え』」として5つの柱を掲げてきましたが、「青年を視野の中心に」を合言葉にした新たな柱を加え6つの柱としてさまざまな運動を展開しているところです。この間、なかなか運動が難しい環境にありましたが、組合が動いていることを仲間に広めるとりくみを進めてきました。

 ―コロナ禍においても、オンラインを駆使するなどして学習・教育のとりくみも活発に展開されていますね。

オンラインを駆使し学び深める
 高梨 
これは青年に限ったものではありませんが、全労働が継続的に進めてきた行政研究・行政民主化について学ぶ機会としてオンラインを活用した学習会を開催してきました。その中の一つの「視野を広げる学習シリーズ」では外部の有識者(学者・研究者・弁護士など)の協力の下、幅広い知見を深めています。こうした外部の有識者とつながっている全労働への組合員の信頼も増しているところです。
 また、支部の定期大会で役員が交代する時期に合わせて「新任役員学習会」をオンラインで開催して情勢課題の周知や機関紙作成の基礎講座などを実施しました。
 全労働は平和運動へのとりくみも欠かしていません。この間、コロナ禍で現地に行けないため、グーグルアースを利用したオンラインツアー平和学習などにもとりくんでいます。
 全労働ホームページもリニューアルして支部役員や組合員が使いやすくした上にスマートフォン対応や組合員だけに情報が届くようにアカウントを追加したりしています。組合員にとって必要な情報発信と組合員交流などについても様々な機会をとらえてオンラインも利用しながら活発に推進しています。
 


【全司法】
一人ひとりにきちんと声かけ仲間づくりと次世代育成を



 ―4月の新規採用者の加入促進に向けてどういったとりくみを進める予定でしょうか?

双方向の対話で仲間づくり進めたい
 井上 
全司法は2月から5月までを組合員拡大強化月間に設定して、4月期新規採用者の早期全員加入をはじめ、異動者対策、未加入者対策、再任用職員への働きかけなど、仲間づくりに集中的にとりくむこととしています。
 長引くコロナ禍の中、大人数での組合説明会などが難しいため、新規採用者一人ひとりにきちんと声をかけていくことが重要になります。そのためには、緻密な計画を立てて実践する必要があり、春闘期にはオンラインも活用して各支部へオルグに入り、仲間づくりの重要性をみんなで共有していきます。
 コロナ禍で直接会って話すことができなくても、オンラインでつながって組合員の顔を見ながら、双方向の対話をすることで、組合員一人ひとりの力をしっかり引き出していきたいと思っています。

オンライン活用し組合員をつなげる
 ―全司法はオンライン活用をさまざま工夫されていますね。
 井上 
オンラインを活用しての会議や学習会、職種集会などにもとりくんできました。職種集会は、少数職種をはじめ、この間十分な情報交換が難しかった地方の組合員から好評でした。女性組合員も子育てなどの合間をぬって組合のとりくみに参加できるなどオンラインを活用することのメリットは大きいと感じています。
 本部は、この間機関連絡用にLINEのオープンチャットの活用や組合員同士の交流のためにフェイスブックグループを運用してきましたが、今年度は、組織強化のかなめとして重視している機関紙発行を後押しするための動画配信を積極的に行っています。
 今後も、仲間づくりと次世代育成を重視したとりくみを、オンラインでもリアルでも展開していきたいと考えています。





 
辺野古新基地建設に反対
岸本洋平氏を支援
【沖縄県 名護市長選挙】


 沖縄県名護市長選挙が2022年1月16日告示、23日投開票で行われます。名護市では多くの住民の意思に反して米軍の辺野古新基地建設がすすめられており、この市長選挙は全国から注視されています。今回の市長選挙で名護市議の岸本洋平(きしもとようへい)氏が出馬を決めました。岸本氏は、辺野古新基地建設に反対を表明し、国の設計変更を不承認とした玉城デニー知事を支持し、「市民の生命・財産を守っていくために新基地を止める。知事をはじめ市民、県民の皆さんと一緒に行動していく」と力強く表明し、沖縄県国公も支援することを幹事会で決定しました。
 国公労連中央執行委員会は、沖縄県国公からの支援要請を受け、12月21日開催の第17回中央執行委員会において、辺野古新基地建設反対、沖縄支援・連帯の立場から岸本洋平氏の勝利にむけて支援することを決定しました。


 


新春インタビュー
男女ともにある性差別意識
自覚し続けアップデートを
弁護士 太田啓子さん


  2021年の新語・流行語大賞のトップテンに「ジェンダー平等」がランクインしました。しかし日本の足元を見れば平等にはほど遠く、男女格差を示す「ジェンダーギャップ指数」が156カ国中120位(世界経済フォーラム、2021年)という現状があります。こうした現状を変えていこうと、今さまざまな出版物が刊行されています。なかでも平易な語り口でベストセラーになっている『これからの男の子たちへ』を書かれた太田啓子弁護士に、「この本を読んで自分をジェンダー平等の方向へアップデートすることができた」という感想を持った国公労連の大門晋平中央執行委員がお話を伺いました。ここではその一部を紹介します。(※インタビューの全体については、季刊誌『KOKKO』47号に掲載します。ぜひご購読ください)


 
 モヤモヤに言葉当てる

 ―太田さんのツイッターアカウントをフォローしていて、日常的にジェンダー問題などを学ばせてもらっています。日頃からツイッターでもとても丁寧に発信されていて、それがまとまった形にもなっている著書『これからの男の子たちへ』は、僕にとっても気づき、学びが多かったです。すでに10刷を超えて韓国と台湾でも出版され、中国でも出版予定とのことですが、これだけ大きな反響を呼んでいるのはどういった要因があるとお考えでしょうか?

 太田 おそらく多くの方がモヤモヤしていたことに言葉を当てることができたからだと思います。「自分も思っていたことだけど何か足りないと感じていたことが言葉になっていてとてもスッキリした」という感想が多いです。特に私と同世代の女性からの反響が多いのですが、男性からも嬉しい感想をたくさんいただいています。
 ジェンダー不平等社会を改善しようというときに、女性をエンパワーメントすることも決して足りていると思わないのですが、やはり意識した動きは一定あります。
 他方で、男性は性差別の問題をどう考えればいいのか? 男の子たちにどう教えていけばいいのか?ということを、私自身も息子を持ったことでとても知りたかったわけですが、そうした問題に応えてくれる本があまりありませんでした。
 だからといって自分で本を書くつもりは当初なかったのですが、ツイッターやフェイスブック上でジェンダーバイアスなどに男の子はどう抗っていけばいいのだろうかと自問自答していたら、編集者の方の目に留まり背中をおしてもらって本を書くことになったというのが経過なのです。

愛情と性差別が両立する怖さ
 
 ―男性もモヤモヤしていたということでしょうか?

 太田 
男性はモヤモヤしていたというより本を読んだことで、「自分のこれまでの行いをかえりみて、あれがアウトだったのだと少なからず過去の自分を否定する作業が必要だと感じた」「自分の加害性や特権性に気づかされて辛いけども、そこからしか前に進めない」「男性が動かないと差別的な社会はなくせないと思った」のような真摯な感想が多いです。
 講演を行ったときも、スカートめくりや好きな女の子への意地悪などを私が問題視していますので、「自分もそれやっていたとぎくっとしながら聞いていた。今振り返ると問題だったと思う」、など率直な感想が寄せられています。
 それから、「本を読んで何かムカつく。でも息子には必要だということはよくわかる」というような読後に感じた心の揺らぎを率直に書いていた男性もいました。こうした正直な感想もとても興味深く読んでいます。

 ―僕も小中校のとき、いじられキャラだったこともあって、「男子って本当にバカだよね」「晋平君だからしょうがないね」みたいな感じで許されてきたことをかえりみることができました。

 太田 現状、子育てを中心的に担っているのは母親ということがまだまだ多いですよね。息子がかわいくてしょうがないお母さんが、息子がヤンチャしても「男の子だからそんなもの」「男子ってバカだから」と、女の子が同じ行動をとったら許されないような行動を許されることであるかのように勘違いさせてしまうことがある気がします。子どもにジェンダーバイアスを刷り込んでしまうような、性差別的な価値観の運び手に女性もなることはあります。子育てをしながら、、怖いことに子どもへの愛情と性差別は両立するということを実感する機会は何度もあったので、そこの怖さに私も母親として警鐘を鳴らしたいという思いもありました。

男性というだけで特権的立場にある

  ―僕は体育会系の部活だったのでホモソーシャルな中で「男なんだから根性で頑張れ」「男たる者、泣いてはいけない」「弱音は吐くな」などの「有害な男らしさ」にどっぷりつかっていました。そこには「女と違って男はこうあるべき」という感覚があったのだと思います。そのことに本を読んでハッと気づかされました。押しつけがましくなく、素直に読める本になっているところも凄いと思いました。男性というだけで特権的立場にあるということは、誰かに指摘されたり、学んだりしてやっと気づけるものだと思います。女性を差別する構造になっている社会で育ってきているので、性差別意識を自然に刷り込まれてしまっている。この無自覚な差別意識がやっかいだと思いました。無自覚だから批判されると反発してしまいがちだし、社会構造の中から生み出されてしまう差別意識を一気になくすことはできないので、自分の差別意識に気づく積み重ねの中で日々アップデートしていくことが大事なんだと本を読んで痛感しました。

 太田 
その通りで、自分の中の差別意識を自覚し続けることが大事なのだと思います。もちろん差別意識をなくしていく努力も必要なのだけど、自分にはこう考えてしまう癖があるとか、こういうバイアスがどうしてもある、ということを自覚し続けることで改善できるのだと思います。
 差別はいけないとみんな思っているのだけど、うっかり自分が差別をしてしまったときの加害責任の取り方のロールモデルが社会に乏しいのも大きな問題だと思います。すごく壮大な話になるけれど、戦争の加害責任を日本が曖昧にしてきたようなところとも通底していると思うし、セクハラの加害責任を心から認めて謝罪するロールモデルもなかなかない。ロールモデルがあれば、そこから学ぶことができると思うのですが。

有害な男らしさ
生きづらさなくす


  ―最後に、私たち国家公務員の現状ですが、日本の国家公務員に占める女性の割合は2割でOECD平均6割の3分の1。管理職に至ってはOECDのわずか9分の1の4%です。一方、非常勤職員の女性割合は7割という性差別構造があります。

 太田 
「官製ワーキングプア」と「官製性差別」が再生産され続けていると思います。国をあげて性差別を行い、ワーキングプアをつくっているという酷い現状ですね。
 日本は本当に性差別で没落している国になってしまっています。女性にケア労働を偏らせ、その人件費は「女性の仕事」として安く見積もられている。こういうことが累積して社会全体が疲弊し経済も衰退していると思います。
 一方で、「toxic mascu­linity、「有害な男らしさ」とよく訳されますが、「男らしさへの過剰なこだわり」に起因する問題で、男性が自他に有害な行動をとってしまうこと問題です。霞が関で働いている国家公務員の男性の友人がいるのですが、早朝に帰宅することが多いなど凄まじい長時間労働で働いていて、彼をケアする家族も一緒に息切れしてしまう苦しい状況に置かれています。過労死事件を扱う弁護士仲間が「過労死というのは男性性の病理だ」とも言っていて、肉体的・精神的に限界なのに「つらい」と言い出せず抱え込んで「我慢」してしまう。男性が圧倒的に多い過労死も「有害な男らしさ」による悲劇なのではないでしょうか。性差別をなくすことは、こうした男性の生きづらさをなくすことにもつながります。

これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784272350476