独立行政法人等の職場実態を訴え、来年度予算査定に向け財務省交渉
――全大教、学研労協、特殊法人労連と共同で追及

【とりくみ:独立行政法人労組のとりくみ】2022-12-02
国公労連速報2022年12月02日《№3676》
 
 国公労連・独立行政法人等対策委員会は11月30日、運営費交付金の拡充を求め、全大教(全国大学高専教職員組合)、学研労協(筑波研究学園都市研究機関労働組合協議会)、特殊法人労連(特殊法人等労働組合連絡協議会)と共同で財務省交渉を実施しました。
 
 交渉には、全大教の永井書記長、学研労協の吾妻副議長(全経済産総研労組:委員長)、特殊法人労連の岡村事務局長のほか、国土交通労組、全経済、全厚生、全医労、国公労連本部とあわせて総勢10人が参加しました。
 
 財務省側は、主計局の堀江補佐(文科係)、濱島主査・桑名係長(調整係)らが対応しました。
 
運営費交付金の拡充により職場実態の改善を
 
 交渉の冒頭、学研労協の吾妻副議長から要請書(別添)を提出するとともに、国公労連の笠松独法対策委員長から要求の趣旨を総論的に主張し、各参加者が財務省を追及しました。
 
 独立行政法人・国立大学法人等の基盤となっている運営費交付金は、連年にわったて削減されつづけ、国民の安全・安心を守る独立行政法人の医療・研究開発・教育などの業務遂行に支障をきたしている。予算査定期に向けて、あらためて運営費交付金の拡充を求める。
 
 本日は各組織からの代表も参加しており、職場の実情と要求を述べるので、その発言を踏まえた財務省からの回答を求める。
 
○学研労協
 
 国立研究所、国立研究開発法人の研究所に求められる研究成果を創出するとともに、研究のための大型装置の維持管理については研究費や運営費交付金の拡充が必要。また、契約職員の人件費は、運営費交付金の人件費の枠ではなく、研究費の枠から支出されているが、常勤職員の人員を削減し続けた結果、契約職員が不可欠な存在になっている。研究所の通常業務の継続のために十分な運営費交付金の確保が必要である。非正規雇用の研究職の無期転換権発生が10年に先延ばしされたことを受け、来年3月末に大勢の研究者が雇止めされる危険がある。研究所で働く全ての職員が適正な賃金を保証される人件費を確保する必要がある。
 
 さらに、来年度から定年延長制度が始まるが、定年延長に関わる人件費の増加分についても長期的な計画に基づく予算措置を求める。
 
 つくばの研究所は建物が建設されて40年近く経ち、施設の老朽化がすすんでおり研究に支障をきたしている。その対策として、施設整備費補助金の継続的な予算措置を求める。
 
 コロナ禍とウクライナ情勢をきっかけとして全世界的に物資や食料を奪い合う状況に陥っており、国民生活は元より、研究所においても困窮した状況になり研究環境の悪化を招いている。唯一の頼みの綱が外部資金獲得ということになるが、そのために必要な申請書等の作成に時間が割かれてしまい研究活動の低迷と科学技術水準の低下を導きかねない状況である。
 
 改めて国立研究所、国立研究開発法人の継続的研究成果の創出のために、各研究機関の来年度の研究費、運営費交付金、施設整備費補助金の要求額の満額査定を求める。
 
○特殊法人労連
 
 私たち日本学生支援機構の職場は、10月1日現在、正規職員453人に対して、時給1,200円の非常勤職員が328人、任期付職員65人、他に100人以上の派遣労働者や業務委託先の労働者が混在し、非正規職員が過半数を占める職場になっている。非常勤職員といっても、勤続10年を超え、部署によっては経験値も正規職員より豊富で業務の中核を担う職員もいる。秋季年末闘争に向けて組合が行ったアンケートには、「毎月、食事や電気代等が値上がりして生活が苦しい。辞めるか副業かの選択になっている」という声が非常勤職員から寄せられた。いま、最終盤の賃金交渉を行っており、正規職員は若干の増額回答があったが、非常勤職員には増額は一切ない。この急激な物価上昇に民間企業が対応しているインフレ手当のような措置を、公務に働く非正規労働者に対して、国が予算措置を行うべきである。私たちの仕事は学生に希望を与える仕事だと自負しているが、そこで働く正規の若手職員や非正規職員が希望を失っていくような待遇はおかしい。人件費に係る運営費交付金の増額を強く求める。
 
○全大教
 
 国立大学などの運営費交付金については、ミッション実現部分や共通指標部分といった業績連動的な配分の割合が増え、基盤的経費が減少・不安定化している。各大学は基盤的経費の減少を補うために競争的経費の獲得や共通指針の達成に迫られているような状況にある。新しい分野への対応も必要だが、長期的な視点での教育研究とそれを支える人材育成が重要だ。基盤的経費を安定かつ拡充した上で、各大学が自主的・前向きにチャレンジできる経費を別枠で拡充するよう要望したい。資源価格の高騰に伴い、特に電気・ガス料金の上昇によって大学運営に影響が生じている。緊急の対応を要望したい。
 
○全厚生
 
 国立研究開発法人医薬基盤研究所では、研究費から非常勤職員の給与の支払いもしなければならず、予算が足りないため非常勤職員には賞与の支給が無い。非常勤職員への賞与支給分も含めた研究費の交付を要望する。また、光熱費の高騰により、研究に使用できる予算が減ってしまい必要な研究ができない。本来の研究に支障がでないよう研究にかかる予算をきちんと確保した交付金とすべきだ。その他、施設の老朽化が喫緊の問題となっている。いつ事故が起きてもおかしくない状態になっているため、研究が安全・安心な環境で行えるように、早急に施設の改修修繕が可能な交付金を要望する。
 
○全経済
 
 経済安全保障推進法の4つの制度に、先端的な重要技術の開発支援が盛り込まれている。産総研をはじめ、国立研究開発法人の主たる任務は先端的な重要技術の開発である。運営費交付金の満額査定を我々は求めているが、こうした研究開発推進への予算配分の優先順位は高く位置づけられるべきであり、経済安全保障推進法は予算配分面で好影響を与える要素となるのではないのか。
 
○全医労
 
 国立病院機構は、国内最大の全国ネットワーク(140病院)を有しているが、2012 年度以降は、「診療事業」に関わる運営費交付金はゼロとなっている。
 
 新型コロナ対応では、患者の受け入れはもちろん、「発熱外来」や「PCR検査」対応、全国の医療ひっ迫地域への医師・看護師派遣を積極的に行なってきたが、入院・外来患者の減少により、医業収支は赤字が続いている。
 
 震災や風水害など災害時の医療や新興感染症対策をはじめ、機能強化を図るために、「診療事業」に対する運営費交付金の復活と拡充を強く求めたい。また、「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」が11月22日にまとめた報告書によれば、「過去のコロナ対策で国民の手元に届くことなく独立行政法人に積み上がった積立金の早期返納などを財源確保につなげる工夫も必要だ」とされている。
 
 2021年度(令和3年度)の積立金は、国立病院機構(NHO)819億円、地域医療機能推進機構(JCHO)675億円であるが、中期計画の途中であるにもかかわらず、前倒しで国庫返納の検討を求めているも。
 
 国立病院機構職員の賃金は2004年の独立行政法人移行時に切り下げられ、その後の賃上げも国水準以下に抑えられている。いま、2022年度の賃金交渉の最中だが、国立病院機構からの回答は、賃上げについて人勧を下回る額、ボーナスはゼロ回答のままである。積立金は、防衛費にまわすのではなく、国民の命と健康を守るため、医療の充実、職員の賃金・労働条件の改善にまわすべきだ。
 
○国土交通労組
 
 国土交通省所管の海上技術安全研究所及び電子航法研究所の現場実態を述べ、運営費交付金の拡充を求めたい。海上技術安全研究所及び電子航法研究所では、船舶技術の発展や船舶事故の防止対策など海上輸送の安全確保、海洋汚染の防止のために調査・研究・開発とともに航空機の電子航法技術の発展、機器の試作、評価試験などを行っている。しかし、それぞれの研究所は
複数の大規模実験施設や高性能機器を所有しているが、老朽化がすすみ、研究成果の精度に影響することや保守・維持管理の困難性が高まっているのが実態。ようやく国土交通省も今年の第二次補正予算や次年度の概算要求で大規模施設の施設更新への予算化も重点にするなど改善の兆しもあるが、財務省においても、政府が「科学技術・イノベーション」を重点施策とすることを踏まえ、持続的な研究施設の更新がされるよう十分な運営費交付金の拡充を求める。
 
 一方、世界的に見ても最先端の高度な専門技術を研究する研究員の確保にかかわっては、独法予算の不足によって賃金など処遇が抜本的に改善されず、また、新規採用者は宿舎に入居できる5類型に該当しない問題も重なり、民間研究所へ人材が流れるといった若手研究者の人材確保にも支障が出ている。
国民生活に密着した交通運輸産業は、DXやGXなどの社会的要請の高まりがあるなか、最先端の専門技術の科学技術の伝承・継続的な研究ができる優秀な研究者が求めれられる。優秀な研究者が安心して研究に臨めるように、処遇・給与等の労働環境にも重点的な予算配分がされるよう事務的経費の抜本的な改善を求める。
 
 5月に国土交通労組で実施した独法シンポジウムのパネルディスカッションについて、独法の課題を議論しているので動画を参照されたい。
 
財務省からは従来どおりの回答にとどまる
 
 各労組等からの訴えを受け、財務省側からは、「それぞれから運営費交付金をはじめとして様々な要望が出ているが、財源には限りがあり優先順位をつけて対応していきたい」、「人件費については、国を含めた全体で対応していく必要があると思う」、「個別の要望に対しては今ここで答えられないが、引き続き取り組んでいきたい」などとする回答を行いました。
 
 最後に、笠松国公労連独法対策委員長から「物価高騰により各研究機関・現場はひっ迫しているので補正予算にて拡充対応を求める。来年3月末に有期雇用研究者の10年雇止めをはじめ非正規職員の雇用が問題になっており、これはそもそも予算が無いために起こっているものである。円安の影響もあり、優秀な人材の海外流出も懸念される。現在、労働条件確定闘争の時期であるが、全医労では国よりも低い水準となっている。適切な労働条件のための予算措置を求める。政府も労働者の賃上げを推奨している。政府の方針に沿って、財務省としての対応を求める。」と述べ交渉を締めくくりました。
 
 
<別添>
2022年11月30日
 
財務大臣 鈴木俊一殿
 
全国大学高専教職員組合
中央執行委員長 鳥畑与一
 
筑波研究学園都市研究機関労働組合協議会
議長 窪田昌春
 
特殊法人等労働組合連絡協議会
議長 矢野達彦
 
日本国家公務員労働組合連合会
中央執行委員長 九後健治
 
独立行政法人・国立大学法人等の運営費交付金拡充等を求める要請書
 
独立行政法人(中期目標管理法人、国立研究開発法人、行政執行法人)・国立大学法人等の運営費交付金は、一部の新規業務や政府の重要施策にもとづく業務には重点配分されるものの、経常・基盤業務の予算は削減され続けており、2008年から減りつづけている。運営費交付金の削減は、医療・研究開発・教育などを通じて国民の安全・安心を守り、産業活動の基盤を支える独立行政法人の運営に支障をきたしています。とりわけ、近年の大規模自然災害や新型コロナウイルス感染症の経験をとおして、人員不足による体制の脆弱性が浮き彫りになりました。また、運営費交付金削減の影響で老朽化が進んだ設備や建物等の修繕を行うこともできず、安全上の問題も発生しています。加えて、法人の特性を勘案しない業務運営効率化目標・効率化係数による管理費などの経費削減が掲げられており、運営に支障をきたしている実態もあります。
 
 国立大学法人・大学共同利用機関法人・独立行政法人国立高専の高等教育においても、学術研究、附属病院での医療の機能を低下させるとともに、国民の教育を受ける権利の後退を招く原因となっています。国立大学では、人件費の削減や教員人事の凍結によりゼミがなくなる、物件費の枯渇により機器の修理や材料の購入などにも支障が発生し、研究活動のみならず教育活動まで維持できなくなりつつある等の問題も生じています。また、運営費交付金が減少し財源が減ったことにより、研究者の人件費を調整弁として扱う研究機関等が増え、研究者の有期雇用が増えています。また、労働契約法18条「無期転換ルール」の特例により、研究者には無期雇用契約への転換申請権の発生が「10年」とする適用がなされていますが、この無期転換ルールの適用を意図的に避けるため、一部の大学・研究機関は雇止めを強行しようとしており、最大4,500人もの国立大学・研究機関の有期雇用研究者が2023年3月末までに雇止めにされるおそれも危惧されています。
 
 こうしたことからも運営費交付金の削減による研究資金の不足が経常的な研究活動を阻害していることへの危惧とともに、基盤的研究費が安定的に措置されることの重要性が高まっています。
 
 この間の行革推進法による人員削減もかさなって、正規の職員・教員が採用できないため、非正規職員・教員でその場をしのぐ法人が増え、業務・研究の質や継続性が保てなくなっている現状です。さらに、非正規職員・教員への無期転換権の保障と均等待遇など、雇用の安定と処遇改善のためにも運営費交付金の拡充が必要となっています。
 
 国民生活の安定、社会経済の健全な発展、社会の進歩と福祉の向上をはかるためにも独立行政法人・国立大学法人等の運営費交付金を拡充し、下記事項を実現するよう要請します。
 
 
1.国民の安心・安全を守り、産業活動の基盤を支える独立行政法人等が行う業務の維持・拡充をはかること。とりわけ、安定した効果的な研究遂行のため、外部資金予算に頼ることのない持続的かつ十分な基盤的研究費を確保すること。
 
2.国立大学法人等の高等教育、学術研究、附属病院での医療の質の向上を図り、国民の教育を受ける権利を保障すること。運営費交付金は使途を特定しない渡し切りの基盤経費とし、政府による評価と結びつけることをやめること。
 
3. 過重労働改善をはじめ、法人運営の実態に応じた必要な増員と総人件費の増額を認めること。
 
4.再雇用・定年年齢の引き上げなどの高年齢者雇用制度を改善・充実させること。
 
5.非正規職員の無期転換権を保障し、雇用の安定をはかること。とりわけ、有期雇用研究者の雇止めを行わず、雇用の安定を確保すること。
 
6. パートタイム・有期雇用労働法に基づく均等待遇を実現すること。
 
以上