独立行政法人等の職場実態を訴え、運営費交付金の拡充を求める
――学研労協、全大教、特殊法人労連と共同で追及

【とりくみ:独立行政法人労組のとりくみ】2022-08-01
国公労連速報2022年8月1日《№3659》
 
 国公労連・独立行政法人等対策委員会は7月21日、運営費交付金の拡充を求め、全大教(全国大学高専教職員組合)、学研労協(筑波研究学園都市研究機関労働組合協議会)、特殊法人労連(特殊法人等労働組合連絡協議会)と共同で財務省交渉を実施しました。
 
 交渉には、全大教の永井書記長、学研労協の川中事務局長(全経済産総研労組:副委員長)、特殊法人労連の岡村事務局長のほか、国土交通労組、全厚生、全医労、国公労連本部とあわせ、総勢10人が参加しました。
 
 財務省側は、主計局の堀江補佐(文科係)、濱島主査・石村係長(調整係)らが対応しました。
 
医療・研究開発・教育などの現場の改善を
 
 交渉の冒頭、特殊法人労連の岡村事務局長から要請書(別添)を提出するとともに、団体署名699団体分を提出しました。その後、国公労連の笠松独法対策委員長から要求の趣旨を総論的に主張し、各参加者が財務省を追及しました。
 
 独立行政法人・国立大学法人等の基盤となっている運営費交付金は、連年にわったて削減されつづけ、国民の安全・安心を守る独立行政法人の医療・研究開発・教育などの業務遂行に支障をきたしている。国民生活の安定及び社会経済の健全な発展などに寄与している独立行政法人・国立大学法人等を維持・発展させていくために運営費交付金の拡充が求められている。
 
 本日は各組織からの代表も参加しており、職場の実情と要求を述べるので、その発言を踏まえた財務省からの回答を求める。
 
○学研労協
 
 国立研究所、国立研究開発法人の研究所に求められる研究成果を創出するとともに、研究のための大型装置の維持管理についても研究費や運営費交付金の拡充が必要。加えて博士課程進学者を増やし、これからの科学技術を発展させるためには、国立研究所の研究員の処遇の引き上げが必要である。また、契約職員の人件費は、運営費交付金の人件費の枠ではなく、研究費の枠から支出されているが、常勤職員の人員を削減し続けた結果、契約職員が不可欠な存在になっている。研究所の通常業務の継続のために十分な運営費交付金の確保が必要であり、研究所で働く全ての職員が賃金を保証される人件費を確保する必要がある。
 
 さらに、来年度から定年延長制度が始まるが、定年延長に関わる人件費の増加分についても長期的な計画に基づく予算措置を求める。
 
 つくばの研究所は建物が建設されて40年近く経ち、施設の老朽化がすすんでおり研究に支障をきたしている。その対策として、施設整備費補助金の継続的な予算措置を求める。
 
 改めて国立研究所、国立研究開発法人の継続的研究成果の創出のために、各研究機関の来年度の研究費、運営費交付金、施設整備費補助金の要求額の満額査定を求める。
 
○全大教
 
 運営費交付金に関して、指標による傾斜配分や基盤部分から捻出した財源での競争的配分の仕組みによって、基盤部分は見通しが不透明となり実質的な削減となっている。これによって人員の不補充や任期付きポストの増加という状況を生む。研究者等の雇止めも大きな問題となっている。また、プロジェクトによる事業が増えているが、こうした事業を進めるためには、予算的にもマンパワー的にも大学の基盤部分からの持ち出しが必要になる。大学ファンドや総合振興パッケージについて、それぞれに改善すべき点はあるという立場だが、少なくともそうした事業を効果的に行うためには、運営費交付金の基盤部分の充実があってこそ可能になる。
 
 学生への経済的支援の拡充として、給付型奨学金と授業料免除に関して、骨太方針で多子世帯や理工農系の中間層への拡大が触れられている。中間層への支援は課題とされてきたところだが、学生が学びたい分野や将来活躍したい職業は多種多様であり、対象を限定することなく、意欲と能力のある学生が思う存分に学ぶことができる環境整備を求める。
 
○特殊法人労連
 
 職場は公的奨学金制度を扱う日本学生支援機構で、近年給付型奨学金の導入やマイナンバー活用、そしてコロナ対応の緊急支援など制度変更が繰り返され、業務量が増えている。しかし機構は独法化以降、正規雇用の定員を拡大せず、増大する業務量に対して正規雇用の長時間労働と「物件費」扱いの非常勤職員の拡大、派遣や業務委託などの外注化をすすめてきた。競争入札による業務委託は、最低賃金法以外に制限のない賃金切り下げを可能にし、それが作業の質の低下や遅延などの要因となり、逆に非効率な状態を生み出している。さらに組合の職場アンケートにはハラスメントの告発が相次ぎ、派遣労働者からも労働相談が寄せられている状況である。
 
 また、独法化により職員の労働条件は、“国公準拠”が政府から「要請」され、労使の自主交渉を形骸化する賃金・労働条件の切り下げ、国家公務員給与とのラスパイレス指数を理由にした賃金抑制が続いている。
 
 機構が持続可能な組織になるためにも、独法化による弊害を直視する時が来ている。公共サービスを拡充する立場からの運営費交付金の抜本的な増額を求める。
 
○国土交通労組(海技教育機構) 
 
 海技教育機構は、海上技術学校、海上技術短期大学校や海技大学校において、国民の生活を支える「内航海運」の船員教育を行っている。
 
 近年では、どの学校においても、教職員の体制不足にくわえ、学校施設や練習船など教育機材等の老朽化がすすみ、機材故障や事故への危険性が高まっているなど、独法化によって、予算不足が慢性化して業務遂行に支障がでる事態となっている。海上技術学校・海上技術短期大学校においても、国の政策である「船員養成」を行っているが、度重なる予算不足により、それぞれの学校が所持する「校内練習船」は正当な修繕工事はおろか、最新の機材や計器類の導入も予算の制約から満足に購入することさえできない。また、多くの練習船では代替建造もされず、船舶法の一般的な耐用年数の最長15年を超えて、船齢25年以上の船舶があるなど、教職員だけでなく学生達や乗組員など、人への安全性の問題にもなりかねない状況である。こうした状況は、海上輸送の内航海運を担う乗組員について、「教育の質の低下」や「担い手不足」を加速させかねず、そのことは国民全体の生活にも影響しかねない。
 
 こうしたことからも公共性の高い教育事業を担う独立行政法人が、自主的・自律的な運営ができるだけの国からの財源措置が必要不可欠である。本来あるべき正しい状態に戻すためにも運営費交付金の予算拡充を強く求める。
 
○全医労
 
 国立病院機構は、国内最大の全国ネットワーク(140病院)を有している。がん・循環器などの高度医療や研究とともに、重症心身障害、結核・感染症、災害医療など民間では困難な分野を担い、へき地や地域医療においても重要な役割を担っている。また、新型コロナ対応では、患者の受け入れはもちろんのこと、「発熱外来」や「PCR検査」対応、全国の医療ひっ迫地域への医師・看護師派遣を積極的に行なっている。
 
 こうしたなか、国立病院機構に対して2012 年度以降は、「診療事業」に関わる運営費交付金はゼロになり、地方自治体を通した「補助金」獲得による予算措置を他の公的医療機関や民間医療機関と同列に申請し給付を受けることになった。また、老朽化した施設の建替えが急務となっているが、「施設整備補助金」もゼロとなり、病院ごとの独自財源から捻出しなければならなくなったため建替え改修がすすんでいない。さらに2016年決算で経常収支が赤字へ転落した影響で、不採算病床の削減や患者負担の増加など、経営「合理化」が強められ、患者と職員にしわ寄せがきている。
 「地域医療構想」にもとづき、厚生労働省は、2025年をめどに全国で15万床余りを削減するために、公立・公的医療機関の「再編・統合」の対象に436病院が公表され、国立病院も全国で31病院が名指しされている。震災や風水害など災害時の医療や新興感染症対策をはじめ、各病院の機能強化を図り、国民の共有財産である国立病院を積極的に活用すべきであり、「診療事業」に対する運営費交付金の復活と拡充を強く求める。
 
○全厚生
 
 職場の意見をもとに発言したい。効率化係数による毎年の運営費の削減はどう考えてもおかしい。医薬基盤研究所は、今年創立から18年目を迎え、配管や空調など建物側の更新が必要となっており、修繕のための予算が全く足りない状況にある。その中でも茨城県つくば市にある霊長類医科学研究センターと薬用植物資源研究センターは、老朽化が著しく修繕は待ったなしの状況にある。
 
 施設は当然ながら老朽化していくものであり、いくら経費改善による効率化をすすめても限界がある。こういった経費のことを考慮せず、運営交付金を一律削減する方向に向かうのは見当違いも甚だしい。効率化は必要なことは理解しているが、もう削減は限界のところまできている。研究所の運営までもが歪んでしまっている実態を理解してほしい。
 
 また、運営交付金の削減は、職員の処遇にも影響を及ぼしており、非正規職員への賞与が未だに支給されない問題をはじめ、若手の任期付き研究員がパーマネントに移行できる道を全く示すことができないのは大きな問題。基盤研究所が若手研究者にとって安心して働き続けられる魅力ある職場となり、優秀な人材を確保できるよう運営交付金の拡充を強く求める。
 
○全経済・産総研(産業技術総合研究所労働組合)
 
 産業技術総合研究所は筑波に移転後40年以上が経っている。昨年度の補正予算として149億円が査定されたが、施設の老朽化対策には、さらなる施設整備費補助金の拡充が必要である。また、次世代の基礎的シーズ研究が弱体化しており、基礎的シーズ研究と発展的な開発研究を3対7の割合ですすめることとしており、シーズ研究に対する運営費交付金が不足している状況にある。シーズ研究には、巨大な実験設備を使用するが、研究者に配分される運営費交付金だけでは、維持管理が厳しい状況であり、運営費交付金で賄うことが必要である。 
 
 調達・契約業務や安全管理、コンプライアンス管理が増大しており、契約職員を追加採用して対応しているが、運営費交付金が削減されると、契約職員を雇用できなくなり、業務の停滞につながる。その他にも定年延長が来年度から実施されることから、今後、人件費の増大も予想される。これらの点を考慮した査定に向けた作業をすすめていくことを求める。
 
財務省からは従来どおりの回答にとどまる
 
 各労組等からの訴えを受け、財務省側からは、「それぞれの現場の状況を伺った。要員や非正規職員の雇用・処遇に関して、予算のもと各法人で対応されるべきと考える。予算が厳しい状況で税金の取り扱いには適正・適切な運用が求められている。本日伺ったことは各担当に伝達し、必要な措置を講じてまいりたい」「それぞれ事情は異なるが資金の総額は確保している。他の主要先進国と比べても遜色ないものとなっている。大学などでは働き方改革など仕事を必要な方に振り分けられるようにしていきたい。これから予算要求を受けていくが各省庁とも話し合いをしながら検討していきたい」などとする回答を行いました。
 
 最後に、笠松書記次長から「有期雇用研究者の10年雇止めをはじめ非正規職員の雇用が問題になっている。均等・均衡待遇への措置が重要であり格差をなくすよう求めるとともに予算を担保しておく必要もある。定年延長制度も来年4月からスタートする。職員が安心して働けるように必要な予算確保を求める」と述べ交渉を締めくくりました。
 
<別添>
2022年7月21日
財務大臣 鈴木俊一殿
 
全国大学高専教職員組合
中央執行委員長 鳥畑与一
 
筑波研究学園都市研究機関労働組合協議会
議長 新開浩樹
 
特殊法人等労働組合連絡協議会
議長 矢野達彦
 
日本国家公務員労働組合連合会
中央執行委員長 九後健治
 
独立行政法人・国立大学法人等の運営費交付金拡充等を求める要請書
 
 独立行政法人(中期目標管理法人、国立研究開発法人、行政執行法人)・国立大学法人等の運営費交付金は、一部の新規業務や政府の重要施策にもとづく業務には重点配分されるものの、経常・基盤業務の予算は削減され続けています。運営費交付金の削減は、医療・研究開発・教育などをはじめとして多岐にわたる業務を通じて国民の安全・安心を守り、産業活動の基盤を支える独立行政法人の運営に支障をきたしています。とりわけ、近年の大規模自然災害や新型コロナウイルス感染症の経験をとおして、人員不足による体制の脆弱性が浮き彫りになりました。また、運営費交付金削減の影響で老朽化が進んだ設備や建物等の修繕を行うこともできず、安全上の問題も発生しています。加えて、法人の特性を勘案しない業務運営効率化目標・効率化係数による管理費などの経費削減が掲げられており、運営に支障をきたしている実態もあります。
 
 国立大学法人・大学共同利用機関法人・独立行政法人国立高専の高等教育においても、学術研究、附属病院での医療の機能を低下させるとともに、国民の教育を受ける権利の後退を招く原因となっています。国立大学では、人件費の削減や教員人事の凍結によりゼミがなくなる、物件費の枯渇により機器の修理や材料の購入などにも支障が発生し、研究活動のみならず教育活動まで維持できなくなりつつある等の問題も生じています。また、最大4,500人もの国立大学・研究機関の有期雇用研究者が無期転換のがれのため、2022年度末までに雇止めにされるおそれも危惧されています。
 
 こうしたことからも運営費交付金の削減による研究資金の不足が経常的な研究活動を阻害していることへの危惧とともに、基盤的研究費が安定的に措置されることの重要性が高まっています。
 
 この間の行革推進法による人員削減もかさなって、正規の職員・教員が採用できないため、非正規職員・教員でその場をしのぐ法人が増え、業務・研究の質や継続性が保てなくなっている現状です。さらに、非正規職員・教員への無期転換権の保障と均等待遇など、雇用の安定と処遇改善のためにも運営費交付金の拡充が必要となっています。
 
 国民生活の安定、社会経済の健全な発展、社会の進歩と福祉の向上をはかるためにも独立行政法人・国立大学法人等の運営費交付金を拡充し、下記事項を実現するよう要請します。
 
 
1.国民の安心・安全を守り、産業活動の基盤を支える独立行政法人等が行う業務の維持・拡充をはかること。とりわけ、安定した効果的な研究遂行のため、持続的かつ十分な基盤的研究費を確保すること。
 
2.国立大学法人等の高等教育、学術研究、附属病院での医療の質の向上を図り、国民の教育を受ける権利を保障すること。運営費交付金は使途を特定しない渡し切りの基盤経費とし、政府による評価と結びつけることをやめること。
 
3.過重労働改善をはじめ、法人運営の実態に応じた必要な増員と総人件費の増額を認めること。
 
4.再雇用・定年年齢の引き上げなどの高年齢者雇用制度を改善・充実させること。
 
5.非正規職員の無期転換権を保障し、雇用の安定をはかること。とりわけ、有期雇用研究者の雇止めを行わず、雇用の安定を確保すること。
 
6. パートタイム・有期雇用労働法に基づく均等待遇を実現すること。
 
以上