2023年3月24日
日本国家公務員労働組合連合会 中央闘争委員会
1.国公労連が2月17日に政府に、2月21日に人事院に提出した「2023年国公労連統一要求書」等に対し、人事院は3月23日に、政府(内閣人事局)は3月24日に春闘期の最終回答を行った。政府・人事院は国公労連の要求や主張に対し、「人事院勧告を踏まえ、国政全般の観点から検討」(政府)、「情勢適応の原則にもとづき、必要な勧告を行う」(人事院)と従来どおりの回答にとどまった。
新型コロナウイルス感染症の収束が見通せないなかで、41年ぶりの物価高騰により、労働者・国民の生活は厳しい状況が続いている。こうした「国政全般の観点」からも労働者全体の賃金の引上げ・底上げを図り、とりわけ770万人の労働者に影響を与える国家公務員賃金を引き上げ、民間労働者と公務労働者の賃金の好循環を作り出すことが求められていた。それにもかかわらず、コロナ禍のもとで国民のいのちやくらしを守るために現場第一線で奮闘する職員の労苦に報いないばかりか、物価高騰下で生活苦に置かれている組合員の大幅な賃上げへの期待に背き、国公労連の要求に真摯に応えない政府・人事院の姿勢は極めて不満である。
2.国民春闘共闘委員会・全労連の運動によって、物価高騰からくらしを守り、経済の好循環をつくりだす賃上げを求める世論がかつてなく広がった。岸田首相も第211回通常国会の施政方針演説で、「まずは足元で物価高騰を超える賃上げが必要」「公的セクターや政府調達に参加する企業で働く方の賃金を引き上げる」と言及せざるを得ない事態に追い込んだ。
全労連の行動提起を受けて、多くの民間労組がストライキ体制を確立したたかった。とりわけ、全医労は人勧並みの賃金改善と大幅増員を求めて31年ぶりのストライキに立ち上がった。こうした民間の仲間のたたかいに多くの公務の仲間が支援・激励に駆けつけた。
全労連は一昨年から先行相場の形成に向け果敢なたたかいを展開し、大手組合より先行して賃上げ回答を引き出した。第一次集計結果は、単純平均で昨年同期を879円(+0.49㌽)上回る6,395円(2.49%)となり、2001年以来23年ぶりの6,000円台、率では26年前(1998年)の2.81%に近づく引き上げとなった。
この回答は、ストライキ体制を確立したたかった成果と言えるが、物価上昇を上回る生活改善できる賃金水準には遠く及んでいない。とりわけ、ケア労働者はコロナ禍で数々の苦難を経験したが、他産業より低額回答にとどまっている。大手企業の回答状況をみても、この間先進国の中で唯一平均賃金が上がっていない日本の低賃金構造は打開できていない。大手企業で実質賃金を改善する賃上げがない状況では、下請けする大半の中小企業での回答が厳しくならざるを得ない状況にある。
3.23春闘で国公労連は、要求アンケート結果にもとづく有額要求を掲げ、物価高騰下の政策的賃上げや「緊急勧告」を求めるとともに、初任給・諸手当の改善、賃金の地域間格差の是正・解消、公務員労働者本位の「給与制度の整備(アップデート)」の実現、非常勤職員の均等・均衡待遇と安定雇用、定年延長に伴う定員・級別定数の確保、再任用制度・運用の改善、長時間労働是正・超過勤務縮減、行政体制拡充・定員増などの職場要求の実現を求めてきたが、政府・人事院の春闘期の最終回答はいずれも極めて不十分なものである。
以下、主な課題について見解を表明する。
(1)政府・人事院は、41年ぶりの物価高騰に適応した「緊急勧告」を求める国公労連の主張に、従来回答を繰り返すだけで一切応じなかった。現行の人事院勧告制度は、民間準拠原則が重視され、生計費原則が形骸化しており、現状のような急速な物価高騰を迅速かつ的確に反映できない仕組みのため、職員の生活実態を悪化させる要因となっている。また、比較対象企業規模をはじめ官民給与比較方法に多くの問題点があるため、公務員賃金水準が低位にとどまり、そのことが日本の低賃金構造を固定化させている要因となっている。
いまこそ公務員賃金の在り方は、社会的な賃金政策課題として議論されなければならない。
(2)国公労連の試算では、現在の国家公務員の高卒初任給は、地域別最低賃金の加重平均を下回っている。民間企業と競合する人材の確保にあたっては、国家公務員の初任給を大幅に改善する必要がある。また、職務給原則に矛盾する地域手当は、国公労働者に不平等な処遇をもたらしていることにとどまらず、地域別最低賃金をはじめとする民間企業の地域間格差を固定化させている要因となっている。
公務員賃金は、すべての労働者の賃金の下支え・底支えができるグレードを保持しなければならず、政府にとって国家公務員の初任給改善と賃金の地域間格差の是正・解消は喫緊の課題となっている。
(3)人事院において、2022年の「職員の給与に関する報告」で表明された①若年層職員などの人材確保の観点を踏まえた公務全体の給与水準、②定年引上げに伴う60歳前後の連続的な給与水準、③2024年に見直す地域手当などの社会と公務の変化に適応した見直しなどを取組事項とする「社会と公務の変化に応じた給与制度の整備」(アップデート)が検討されている。
60歳前後を含め公務員給与については、職務給原則に見合った水準を維持し、高齢層職員のモチベーションとともに、そのライフサイクルに見合った生計費を確保する必要がある。上記(1)(2)で指摘した問題の解決を含め、労働者本位の「アップデート」を実現することを求める。
(4)非常勤職員の労働条件は、これまで少しずつ改善しているものの、非常勤職員の定員・処遇が「予算の範囲内」という不合理な制約があることなどから、安心して働き続けられる職場環境としては極めて劣悪なままである。また、実質的に破綻している定員管理政策や曲解した公務員制度の根本基準や平等取扱い原則を盾に、職場実態を顧みない建前だけの回答に終始し、雇用の安定を図る立場には立っていない。
民間では有期雇用労働者に無期転換権が保障されているにもかかわらず、国家公務員だけを対象外とする理不尽な国の姿勢は許されるものではない。人権侵害とも指摘されている「3年公募」の廃止、労働契約法第18条に準じた「無期転換ルール」(無期転換権)の導入は喫緊の課題である。
病気休暇の有給化をはじめとする均等・均衡待遇、パートタイム・有期雇用労働法の趣旨である「同一労働同一賃金」の実現は急務である。本年3月22日に非常勤職員の給与を常勤職員に準じて改定することを基本とする「指針・申合せ」の改正が行われたことは、この間の私たちの運動の成果であるが、その改正の実効性が政府の責任において確保されなければならない。
(5)再任用職員の処遇改善については「ゼロ回答」であったが、常勤職員との均等・均衡待遇を早期に実現するよう、引き続き①俸給水準の抜本的改善、②期末・勤勉手当の支給月数の改善、③各種生活関連手当の支給、④宿舎の貸与、⑤年次休暇の繰越しなどの要求実現を追求する。
(6)国家公務員の労働時間は短縮の兆しがなく、とりわけ地方支分部局においては、客観的に勤務時間を把握する措置が普及・定着していないため、依然として夜間・休日などのサービス残業が蔓延している。また、勤務時間制度の柔軟化は、公務の特性である集団的執務体制を弱体化させ、さらなる長時間労働を招くおそれがあるため、必ずしも推進すべきものではない。
職員のワーク・ライフ・バランスなどを実現するに当たっては、「柔軟な働き方」よりも、職場の人的体制の大幅な拡充や業務の効率化を実現するとともに、実効性のある超過勤務の規制や客観的な勤務時間の把握をはじめ、長時間・過密労働とそれに伴う職員の健康被害を回避するための措置を優先的に講じる必要がある。
(7)職場で生じているさまざまな問題の根底にあるのは定員問題である。現行の定員管理政策が破綻していることは、コロナ禍で行政体制の脆弱性が浮き彫りになったことからも明らかである。国公労働者が働きがいを実感できる職場を実現するとともに、国民本位の行財政・司法を確立するためには、総定員法の廃止、定員合理化計画の撤廃・中止と行政需要に見合う定員確保が必要である。また、定年延長制度の運用に当たっても、必要な定員・級別定数が十全に措置されなければならない。必要な人的体制を確保することが、休暇制度をはじめとした各種制度の充実した運用につながることになる。
(8)今年も労働基本権の回復や人事評価制度の見直し、行政の公正・中立・透明性の確保などを求めて「国家公務員制度に関する要求書」を提出し、ILO勧告にもとづく交渉・協議の場を早急に設定するよう強く求めた。しかしながら政府は、国公労連の要求に背を向け、具体的な回答を行っていない。政治による行政私物化に対する国民の不信が払しょくされていないなか、社会問題化した真相の解明とともに、公正で民主的な公務員制度の確立と行政民主化こそが求められており、引き続き政府への追及を強めていく必要がある。
4.23春闘はこれから多くの中小労組などで労使交渉が本格化する。物価上昇を上回る生活改善できる大幅賃上げを求め、引き続き官民共同のたたかいに全力をあげる。
国公労連中央闘争委員会は「ひとり一行動」のスローガンの下、23春闘の諸行動に結集された全国の仲間の奮闘に敬意を表する。引き続き組合員の団結と産別結集を強め、仲間を増やし、23春闘最終盤での奮闘と人事院勧告期・概算要求期へと続くたたかいへの結集を呼びかける。