◆年金記録問題の解決どうする
専門性もつ職員が担ってこそ公的年金
年金制度の抜本改革もなく、また、年金記録問題の解決の目途もたたないもとで、社会保険庁を解体する組織再編は問題です。日本年金機構法の凍結をはじめ、年金記録整備に必要な人と予算の確保、公的年金制度の充実、社会保険庁職員の雇用確保のたたかいが重要となっています。
◆年金記録問題に対応する職場はいま
働くルール破壊、退職や病休が急増
5千万件の「宙に浮いた年金」を、基礎年金番号に統合するための「ねんきん特別便」の送付が始まってから2カ月余。社会保険事務所には年金相談や記録確認が殺到し、多くが2時間以上、都市部では3〜4時間待ちも生じています。記録が見つかっても追加支給までには今でも6カ月以上もかかっていますが、再裁定を行う社会保険業務センターはパンク状態。今後は見通しも立たない状況となっています。
◇過労死ラインの残業
記録問題が表面化した昨年の6月以降職場では、夜間の業務延長とともに、休日開庁が常態化しました。しかし、全厚生がこの間にとりくんだアンケートでは、代休が完全に取得できた職員は3割程度。残業時間は、4人に1人が60時間以上で、過労死ラインといわれる80時間以上も1割を超えています。
こうしたなか、職員の健康破壊も深刻です。長期病休者は急増し、国の職場では突出しています。特にメンタル系が7割近くを占め、社保庁の廃止・解体に伴う雇用不安ともあいまって、早期退職の急増、欠員の増大、職場の繁忙化という悪循環が続いています。
特別便は、3月末までに約1000万人、4月以降10月までに約1億人に送付される予定です。しかし、十分な体制が確保されないままでは、年金記録整備に向けた職場の努力も限界です。
また、不払い残業や雇用不安が職場の士気を低下させています。
年金記録の早期整備や行政サービスの向上を図るためにも、職員が業務に専念できる条件整備と、業務処理体制の確立が急務です。
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◆安易な民間委託に批判が集中
年金相談対応など体制確保を
年金記録問題を解決するためには、国の責任で、業務体制を抜本的に強化することが必要です。とりわけ、3〜4時間待ちとなっている年金相談コーナーの混雑解消など、年金相談体制の整備・拡充は、急務の課題です。
社会保険庁は、ねんきん特別便専用コールセンターの増設(委託)、社保庁OBや社会保険労務士などの経験者に協力を求め、相談体制の充実を図るとしています。
しかし、コールセンターでは、最終的には「社会保険事務所での相談」を促すことが基本であり、事務所に相談が集中しています。
◇信頼回復のためにも、人員と予算の確保を
一方、派遣会社に委託した年金記録の転記作業では、記載ミスが多発するなど、安易な業務委託の問題点が浮き彫りになりました。
記録問題発生の要因として、年金記録のオンライン化の際の事務処理に、民間委託やアルバイトを使ったことが一因と指摘されています。
重要な個人情報である年金記録の管理には万全を期さなければなりません。民間委託の拡大は、公的年金の安定的な運営を妨げるものです。
年金記録問題を解決するためには、専門的な知識をもった職員によるていねいな対応が不可欠です。そのためにも、予算と人員の確保が求められています。
◆選別・排除が機構職員の採用基準に
年金業務に専念できる条件整備を
◇選別採用や民間委託拡大では混乱必至
年金業務・組織再生会議は、「公的年金業務に対する国民の信頼を損ねたような者が、漫然と機構の職員に採用されることがあってはならない」と、日本年金機構職員の採用にあたって、過去の処分歴などで社会保険庁職員を選別・排除する方針を示しています。このことで職場に雇用不安が広がり、多数の職員が職場を去っています。
しかし、年金記録問題や「不適正免除」問題などは、個々の職員に責任があるのではなく、歴代の社会保険庁長官をはじめとする幹部職員の責任こそが問われなければなりません。
すでに処分された不祥事を口実に選別採用することは、問題の二重制裁であり許されません。
再生会議は、「組織改革の断行」として年金業務の外部委託の拡大を打ち出しています。しかし、競争入札による民間委託では、コスト削減や参入業者の交替により、業務ノウハウの蓄積、適用・徴収・給付・相談等の業務の一体性の確保、個人情報の管理などで問題が生じることが懸念されます。この点は、再生会議がいう「業務が正確に遂行されることが、国民にとって最大の関心事であり、何にもまして重要なこと」にも矛盾します。
年金記録問題を解決するにあたっての最大の問題は、専門的知識と経験を持った職員が決定的に不足していることにあります。年金業務の適正な運営・管理を確保するためにも、職員の雇用継承こそが必要です。
民間企業への委託拡大や民間人採用を行う一方で、職員を選別し、分限免職することは絶対に認められません。
◇分限免職は法令上、とうてい許されない
民主的な弁護士で構成している自由法曹団は、社会保険庁を第2の「国鉄問題」にしてはならないと、今年1月にプロジェクトチームを設置。2月25日には、「公的年金制度の整備が示されるまで、社会保険庁改革関連法にしたがった組織改編を凍結することを求める」、「社保庁職員に対する選別採用や分限免職は法令上も到底許されない」との「社会保険庁改革についての意見」を発表して、再生会議に提出しました。
国公労連は、再生会議に対して、「職員採用及び外部委託推進(中間整理)に対する意見」を提出。3月5日には再生会議事務局に申し入れを行い、記録整備に必死で対応している実態などを訴え、社保庁職員の雇用の継承を求めました。
◇保険料納付率の低下
05年度の国民年金保険料の納付率アップは社保庁長官の「緊急メッセージ」等で、納付督励と免除承認(分母対策)が最優先で行われた結果。06年度の納付率は66.3%となっていますが、免除者や猶予者を含めた末納者は51%になっています。
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毎日新聞(2月25日付)より転載 |
◆社保庁職場の非常勤職員1万1千人
新組織での雇用枠や労働条件いまだ示されず
社会保険庁の職場には約1万1000人の非常勤職員が働いています。
年金相談をはじめとする業務は、非常勤職員抜きには成り立たないのが実態です。社会保険庁改革のもとで、今年9月末までに全国23ヵ所の年金相談センターが福岡など3ヵ所に集約されます。国公労連と全厚生は、社会保険庁や厚生労働省に対して、非常勤職員の雇用確保を強く求めてきました。
社会保険庁の解体・民営化のもとでの雇用不安は、非常勤職員にも広がっています。しかし、新組織での非常勤職員の雇用枠や労働条件などは未だに何も示されていません。
非常勤職員の雇用の確保と労働条件の改善についてもとりくみの強化が求められます。
◆「安心できる年金」求め、共同広げよう
記録整備完了まで年金機構法凍結を
社会保険庁の業務は、今年10月に発足する全国健康保険協会と、2010年1月設立の日本年金機構に引き継がれることになっています。全国健康保険協会の職員は4月には内定し、年金機構についても今年8月から募集が始まり来年1月には内定通知が行われます。
再生会議は、今年5月にも年金機構の採用枠を決定するとしており、「雇用確保署名」のとりくみ強化が求められます。
国民年金の未納者は免除・猶予者を含めると51・0%(06年度)と空洞化が進んでいます。記録問題の解決や最低保障年金創設などの制度改善を置き去りにして、社会保険庁を解体することは、国民の不安と不信をさらに広げるだけです。
年金記録の整備解決までは少なくとも日本年金機構法は凍結すべきです。そして、今こそ国の責任で安心できる年金を実現するための共同を広げることが重要です。そのなかで、社会保険庁の解体・民営化の問題点を広げていくことが求められています。
岐阜県では2月27日に社会保障推進協議会によるシンポジウムが開かれ、28日には京都総評による年金問題学習会が開かれました。
◇一斉宣伝の成功を
3月19日の公共サービス商品化反対の一斉宣伝には、「年金・社保庁問題」を位置づけています。
社会保険庁解体は、国民の暮らしを守るセーフティネットを縮小・民営化するものであり、公務破壊の最たるものです。
老後の暮らしを支える公的年金制度の充実と、その業務を担う職員の分限免職を絶対に許さないため、全力をあげることが求められています。
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