2012年7月9日
日本国家公務員労働組合連合会
書記長 岡部勘市
法務省は7月2日、「市場化テスト」の対象事業とされている「登記簿等の公開に関する事務(乙号事務)」(以下「当該業務」)をめぐり、ATG company株式会社とアイエーカンパニー合資会社(以下「当該二者」)に対し、契約解除を前提とした業務の全部停止を命じた。法務省が今年2月、当該二者に行った健康保険と厚生年金の虚偽への改善指示に反したためだ。昨年4月にも登記事項証明書の不正取得で当該業務の一部停止を受けており、当該二者との契約解除は至当である。
そもそも当該二者は、登記上の本店所在地に会社の実態がないことが2010年9月時点で明らかになり、国会でもたびたび問題を指摘された経過があり、政府の対応は遅きに失したと言わざるを得ない。また当該二者は、従事する労働者の5月分賃金(6月28日支給)を一方的に2割カットしており、そのことにも「安ければ良い」という「市場化テスト」の問題の本質が現れている。6月分の支給も危ぶまれるなか、賃金の全額支払いは政府の責任である。法務省は、当該二者へ支払う委託料から賃金分を「天引き」し、労働者へ直接支払うよう特例的にでも必要な措置をとるべきである。
この問題は、当該業務、当該二者に限ったことではなく、価格競争に重きを置く入札・契約制度のもとでは、くり返し起こり得る。従事する数多くの労働者は、生活に困窮するほどの低賃金に置かれ、委託契約が切り替わるたびに雇用不安に苛まれる「官製ワーキングプア」に陥れられている。働くルールでの重大な問題を抱えるとともに、公共サービスの水準にも影響を及ぼしていることを指摘せねばならない。当該業務の「市場化テスト」化により、それまで約40年にもわたって当該業務を担い支えてきた、民事法務協会の1,400名余にものぼる職員が退職を余儀なくされたことを忘れてはならない。
いま、就職難と雇用不安をなくし、安心して働くことができるルールの確立が社会的に求められている。その実現に向け、「公共サービス基本法」の趣旨からも、公共サービスに従事する労働者の雇用・労働条件の改善により規範を示す必要がある。自治体では、2009年9月の野田市を皮切りに川崎市や多摩市、相模原市そして先月には渋谷区と国分寺市で「公契約条例」が制定されている。政府は、こうした世論を踏まえ、ILO94号条約の批准とともに「公契約法」を制定するべきである。
「市場化テスト」をはじめ、「官から民へ」のかけ声で進められた公務の「民間開放」は、2006年7月のふじみ野市プール事故をはじめ、重大事故が相次ぐ原因ともなっている。東日本大震災で改めて明らかとなった、公務・公共サービスの充実こそが求められる。
国公労連は、憲法をくらしと行政に生かし、貧困をなくし誰もが安心して働き暮らせるルールの確立を求め、広範な労働組合や国民のみなさんとも共同し奮闘するものである。
以上
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