【公務員制度改悪反対闘争・学習シリーズ2】

 

 

信賞必罰!?

能力・業績主義を考えよう

 

 

 政府の行政改革推進事務局は、昨年12月1日閣議決定された「行革大綱」の公務員制度改革にかかる具体化として、3月27日その「大枠」を決定しました。これによれば、公務員一人一人は「自ら能力を高め、互いに競い合う中で、使命感と誇りを持って職務を遂行し、諸課題への挑戦を行う、国民に信頼される」公務員像を目指すため、その意識や行動原理を改革する必要があるとしています。そして、そのためには能力・業績等が的確に反映される新たな給与体系を構築し、信賞必罰の人事制度を確立するとしています。
 一方、人事院においても、「実績の評価の割合を高める方向」での俸給体系の見直しや新たな人事評価システムの検討に着手しています。
 このように公務員の人事管理については、能力・実績主義を強化する方向での検討が進められており、それへの対応が求められています。

 信賞必罰の人事管理は、単に「がんばった人」、「できる人」に「高い処遇」をするだけではありません。通常業務をこなすだけでは評価されず、常に高い目標へのチャレンジが求められます。そのような人事管理で、集団的に、安定的に、公正・中立な行政サービスを提供し続け、本当に国民に信頼されることができるのでしょうか。
 短期的な成果を賃金に反映させることで、若い職員の志気が向上するとの宣伝もあります。しかし、昨年、全労連青年部が取り組んだ「働く青年の要求アンケート」の国公労連青年協の集約分の結果によれば、「成果査定・人事考課への賛否」の問いに対し、25歳未満の階層では約半数が「わからない」と回答しており、「賛成」としている約3割を大きく上回っています。このようなことからも各職場において能力・業績主義についての学習を早急に強化する必要があります。

 能力・実績主義が公務労働者の労働条件そして「民主的、能率的公務運営」の側面から本当に適したものなのか、先行的に実施されている民間企業の実態や問題点を明らかにしながら、いま現在進められている給与体系の見直しや能力・実績評価の検討状況の問題点等について考えてみましょう。

 

信賞必罰=賞すべき功績のある者は必ず賞し、罪を犯した者は必ず罰すること(広辞苑)

 もしあなたの給料が下がったら、あなたは「罪」を犯したこと(犯罪者?)になります
もしかしてこれって懲戒

2001年4月

日本国家公務員労働組合連合会
(国公労連)

 


 民間ではすでに破綻の兆しが
2 公務における危険な動き
3 「能力、実績主義」とどうたたかうか

 

1 民間ではすでに破綻の兆しが

能力・成果主義管理の強化は総額人件費削減が目的

 日経連は、95年5月、「新時代の『日本的経営』」の提起で、大競争時代の中でグローバルな21世紀経営戦略を進めるためには、総額人件費を削減し、高コスト体質の是正によって競争力を強化することが必要だとして、人減らしリストラの徹底と能力・成果主義管理の強化による効率化の推進を方針としました。以降大企業を中心に「終身雇用」、「年功序列賃金」を解体し、能力・成果主義管理の導入が強められてきました。

 

 

限られた人件費の枠内で賃金に上下較差をつける

 能力・成果主義管理は、成果を上げて評価がよければ賃金は上がるが、評価が悪ければ賃金がダウンするのが当然という降格や降給を組み込んだ賃金システムです。ところで、能力・成果主義の導入は総額人件費の抑制・削減がその目的ですから、一部の労働者の賃金上昇はあったとしても、その原資確保のため多くの労働者はガマンを強いられます。

NTTの「成果・業績主義」賃金制度の改悪構想(2001年4月実施)

・年齢給の一部を新資格給へ移行、新年齢給は50歳(119,310円)で頭打ち(現行55歳182,400円)
・新資格給は定期昇給廃止により、40歳(158,860円)で頭打ち
・成果給Aは最高90,880円、成果給Bは毎年精算

○通信労組は新賃金制度の導入により現行賃金体系による60歳退職時と比較して、生涯賃金は現在50歳の人で以後昇格しなければ約600万円も損をするとしています。

 

広まる成果主義管理の矛盾
 
成果主義管理の浸透がもたらす矛盾も顕在化してきています。

・人事考課により拡大する差別と不満
 能力・成果主義管理の要は評価にあります。経営側も評価は客観的で公正・公平でなければならないことを認めています。しかし、その基準は経営計画遂行や利潤拡大にどれだけ貢献したかにならざるを得ません。また、質・量的に異なる仕事一つひとつに何が「成果」かを明確にし、その成果を測る共通の基準を作ることはおおよそ不可能です。したがって、「成果」といっても、目標達成度とそれにどれだけ意欲を持って取り組んだかなど、情意考課といわれる要素が重視され、結局主観的・恣意的な  ものとならざるを得ないのが現状です。また、限られた人件費の枠内では上位評価の  割合があらかじめ決まっている「相対評価」にならざるを得ません。
 したがって、差別と不公正、格差の拡大が処遇の不公平さに繋がり、職場の不満が蓄積することで、円滑な仕事の流れを滞らせ、かえって効率化を阻害することにもなりかねません。

不満や混迷の声がマスコミに

・「社員による目標管理とは名ばかりで、実際には上司によるノルマ管理」(富士通30代・日刊ゲンダイ)
・「営業部員はみんな自分の成績を上げることに必死で、部内での情報交換なんて皆無。それどころか、契約を取ってくると、同僚がボクのことを白い目で見るんです。まさに『周りは全員敵』といった雰囲気」(商社26歳・SPA)
・「期末の3月に、誰もが仕事そっちのけで、『積極性はB、いや、Cか…』と、自己評価シートとにらめっこ。繁忙期なのに、まるで仕事にならなくて困る」(設計事務所29歳、SPA)
・「上司が実務を理解していない。評価する人の資質が欠けている。今年から結果だけでなく、潜在能力も評価の対象となったが、その基準について上司に説明を求めても明快な答えがなかった」(外資系機械メーカー29歳・AERA)
・「もともと部下の査定は面倒でしたが、面談するようになってから今以上に労力がかかるようになった。評価項目は数十にわたってますが『自発的に情報収集に当たっているか』など社会人
として当たり前のことばかり。これで優劣をつけられた部下が怒り出すのはもっともです」(電機メーカー課長・SPA)

・青年の賃金は必ずしも上がっていない
 青年層が能力・成果主義管理に期待を持つのは、いまの青年の賃金が低いからで、それは年功賃金を低賃金の仕組みにするために、初任給をはじめ青年層の賃金を、生活を無視した水準に抑えてきた結果でもあります。
 年功賃金を廃棄し、努力したものが汗をかいただけ報われる能力と成果による賃金システムの構築であると青年層に期待を持たせながら、ここ数年初任給改定を凍結しています。さらに、少数の選抜されたもの以外の多くの労働者の賃金の上昇カーブを寝かせることが、総額人件費抑制の成果主義賃金システムが狙いですから、そのもとでは、青年層の生涯賃金は、より大きな減収とならざるを得なくなります。

年齢別所定内賃金の推移(全産業計)  (実質指数:90年=100)

 平成12年の人事院の職種別民間給与実態調査によれば、大卒を採用した企業が42.9%、その内初任給を据え置いた企業(改定を凍結した企業)は67.1%、減額したのは1.5%となっています。また、高卒では、採用があった企業の割合が何と17.8%で、その内初任給改定を凍結した企業は70.8%にも登っています。このように、初任給を抑えた上で、賃金上昇カーブを引き下げれば、当然若年層ほど生涯賃金収入の減少は大きくならざるを得ません。

 

・長時間、過密労働の拡大
 成果主義管理は、自己責任の競争による業績・成果の考課査定により賃金・処遇が決められることから、時間管理が本人に任される裁量労働に結びつきやすくなります。このため、競争が激化し、不払いサービス残業を含む長時間・過密労働がもたらされています。
 長時間・過密労働の継続が、過労死、過労自殺やストレスによる神経障害など健康破壊の増加となっているのは明らかです。

 

能力・実績強化で組織の活性化は幻想

 「成果主義賃金富士通見直し」という記事が今年3月の朝日新聞の一面トップを飾りました。富士通は、「社員のやる気を引き出し、競争力を強化する」とうたって成果主義に基づく賃金・人事制度を先駆的に導入した企業です。それが8年経って見直しが迫られました。△失敗を恐れるあまり長期間にわたる高い目標に挑戦しなくなったため、ヒット商品が生まれなくなった△納入した商品のアフターケアなどの地味な通常業務がおろそかになり、トラブルが頻発して顧客に逃げられる△自分の目標達成で手いっぱいになり、問題がおきても他人におしつけようとする−。などが原因と報道されています。

  

2 公務における危険な動き

 

能力・実績主義」関連年表

2000年5月
 総務庁の「人事評価研究会」が、国家公務員の新たな人事評価システム整備検討に活用できる基本的指針等について報告。6月、各種の人事評価手法等について、検討、検証を行い制度の具体化を図るため、人事管理運営協議会の下に人事評価システム検討会議設置。
2000年12月
 「行政改革大綱」閣議決定。「信賞必罰」のための公務員制度の抜本的改革にふれる。
2000年12月
 『教育改革国民会議報告−教育を変える17の提案−』勤務成績が不良な教師に対する他職種への配置換えなどの厳しい対応を図る「信賞必罰」の強化を提言。
2000年12月
 内閣に行革推進本部設置(推進事務局は2001年1月)
2001年3月
 政府の行政改革推進事務局、公務員制度改革の大枠を決定。信賞必罰の人事制度推進を打ち出す
2001年3月
 人事院の「能力、実績評価研究会」最終報告。能力、実績に基づく人事管理の鍵となる評価システムの基本設計(実績評価、能力評価、総合評価)と活用法を提言。
2001年4月
 公務員制度改革にむけた各府省「人事企画官連絡会議」設置

現行俸給の大原則である職務給を廃止し、職能と実績で賃金決定 【内閣・行革推進本部】

 年表のとおり、公務でも能力・実績主義の検討が急ピッチで進んでいます。もっとも警戒が必要なのは、政府主導で進められている行革推進事務局の動きです。
 公務員制度改革の「大枠」では、「信賞必罰の人事制度の確立」に向け、「能力・業績が的確に反映される新たな給与体系の構築」が必要であるとし、現行の職務給原則を廃止し、給与を「職務遂行能力に基づく部分」、「職務の責任の大きさに基づく部分」、「具体的にあげた業績に基づく部分」に分割するとしています。これによって、例えば同じ係長職でも、個人の職務遂行能力や当該係長の職責により違う賃金が支払われることなどが想定されます。

 これには次のような問題が指摘できます。
・職務と職責に応じて給与を支給するという職務給原則を廃止することは、公務員の統一的な給与の基準があいまいになること。
・能力の客観的評価システムが確立されていない現在、ポストに関係なく、個人の能力に応じて賃金を決定することは、T種採用者を中核とした特権官僚をより厚遇し、大多数の公務員の賃金が抑制されることになりかねないこと。
・勤続による要素がないため、生活保障の観点が考慮されないこと。
・以上のことにより、全体の奉仕者、専門性、中立・公平性、使命感や倫理観、チームワーク尊重といった公務の特性や公務員の職業倫理を軽視することになり、職員のモラール向上にも結びつかないこと。

独立行政法人産業技術総合研究所の給与制度−地域給を廃止し職責給へ再編−

 本年4月、経済産業省の産業技術総合研究所は、独立行政法人の設立を契機として能力・実績主義による新たな給与制度を導入しました。新たな制度は、(1)俸給の特別調整額、調整手当、研究員調整手当等を廃止し、級に関係なくリーダー等への配置を可能にする「職責手当」の導入、(2)「短期評価」を反映した「業績手当」の導入などです。

 職責手当導入に当たっては次のような問題点が指摘されています。
・職責手当の格付けのルールが明確ではなく、「適材適所の人事配置」などを口実に恣意的に運用される危険性が強い
・職群(役職)及び種別ごとの格差が大きく(下図参照)、職責の変動による賃下げが避けられない

 

職責手当表(代表的な例)

 

役 職 \ 種 別

T

U

V

W

X

Y

A

フェロー(役員に準ずる)

 

160,000

200,000

300,000

400,000

500,000

B

研究センター長等

 

120,000

140,000

150,000

   
E

リーダー等

 

50,000

70,000

80,000

90,000

110,000

F

主任研究員等

 

30,000

40,000

50,000

70,000

75,000

G

地域センター長等

 

90,000

100,000

110,000

120,000

150,000

J

企画主幹

 

50,000

70,000

90,000

110,000

 
M

主査

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

 

俸給体系見直し−職務・勤続・実績の3要素で賃金決定 【人事院】

 内閣の動きとは別に、人事院により俸給体系の見直しの検討が進められています。本年2月に人事院が示した検討内容は、「個人の能力実績を重視した給与体系への転換の土台」となる俸給体系をめざすものとなっており、具体的には、俸給を(1)職務の基本額(級ごとの定額)、(2)勤続加算額(現行定期昇給制度に相当)、(3)実績加算額−−の3つに分けるとしています。

 人事院の俸給体系の見直しには次のような問題点が指摘できます。
・現行の一律的・年功的な給与(俸給)の運用の解体につながること。
・実績加算額は職員個人の実績評価で左右されことから、評価のあり方によっては納得できない較差拡大につながること

 国公労連としては、(1)初任給の大幅引き上げ、(2)ライフサイクルに応じた生計費確保、(3)経験の蓄積と専門性の高まりに応じた加算、の3点(公務員賃金闘争の基本目標)を基本においた賃金体系の実現を求めています。公務員労働者が全体の奉仕者として、国民の期待に応える「良い仕事」を行う上で、生計費原則や年功(知識や経験の蓄積、専門性の高まり)を正当に評価する賃金制度の検討こそが求められています。

 

公平・納得性に耐えない人事評価制度の検討 【人事院】

 政府・行革推進事務局の公務員制度改革の「大枠」でも能力・実績主義に基づく給与・任用制度の適切な運用を確保するための人事評価システムの整備の必要性について言及していますが、具体的提案はなされていません。人事評価の活用方法を含めその方向を示しているのは、現在のところ人事院の「能力、実績等の評価・活用に関する研究会」の報告があります。報告は、能力・実績主義の人事管理に転換するための評価システムの改革方向として、(1)職員の仕事の実績を把握するための「実績評価」、(2)職務遂行能力を把握するための「能力評価」、(3)役職段階の昇任等に際して行う「総合評価」を提示しています。そして、これを1〜2年の試行を経て早期に全省庁に導入するよう求めています。

 

 しかし、研究会報告には、以下のような問題があります。
・評価システム設計や運用に当たっての労働組合の関与を無視していること。
・評価結果の給与・処遇への反映のため、優秀者割合が初めから決まっている「相対評価」に固執していること。
・個人の主体性を尊重する「目標管理」、「本人評価」の導入などで目新しさや透明性を強調していますが、目標は一方的な業務命令・指示と大差なく、結果の開示も本人の1次評定のみで、総合評価の内容はまったく知ることができないこと。
・本人の異議申し立てや苦情処理手続きは、現状を抜本改革するものとはなっていないこと

 

3 「能力、実績主義」とどうたたかうか

 能力、実績主義(信賞必罰の人事管理)の強化は、効率優先でいたずらに競争をあおり、目先の結果や「上司の目」ばかり気にする公務員を作ることになり、公務の公共性をそこないかねません。公務員が行政の専門家として、公正・中立の行政サービスを安定・継続的に提供するためには、安定的な処遇や労働条件の確保こそが重要です。

 今、職場で必要なのは、「能力・実績主義強化が労働者をバラバラにして個別に管理を強化する攻撃であること」というねらいと問題点を仲間が見抜き、確信をもって運動に立ち上がるために、職場段階からの学習を強化することにあります。またそれと同時に、現在でも実績反映給与制度ともいえる特別昇給や勤勉手当についての民主的運用を実現する運動を展開ことも職場での重要な取り組みです。

 国公労連は、「公務員制度改悪反対闘争本部」を設置し、中央省庁再編などの行政組織「改革」の「仕上げ」として位置づけられる公務員制度改悪を許さないため、国民のなかに打って出る取り組みを、5月から、集中的に展開することを確認しました。
 当面、最大の課題は、6月に予定される公務員制度改革の「基本設計」を決定させず、政治主導の公務員制度改革を断念させる取り組みです。

 


国公労連は当面次の取り組みを呼びかけています

○ 50万筆をめざす「国民のための公務員制度確立を求める請願署名」

○ 300万枚の大量宣伝行動

○ 公務員制度改悪を許さない立場での使用者責任の徹底追及

   


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学習シリーズ1  「公務員制度改革の大枠」の内容批判

学習シリーズ3 公務員制度の民主的確立をめざす国公労連の「提言」等

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