行政改革「中央省庁再編」に対する私たちの意見
1997年8月12日
行政改革会議
会長 橋本 龍太郎 殿
運輸省労働組合共闘会議
議長 田中 茂冨
全気象労働組合
中央執行委員長 一色 政広
全運輸省港湾建設労働組合
中央執行委員長 後藤 英輝
全運輸省労働組合
中央執行委員長 田中 茂冨
行政改革「中央省庁再編」に対する私たちの意見
運輸省に働く職員で構成する運輸省労働組合共闘会議は、昨年11月以降、貴会議が「行政改革」の中心課題として検討している「中央省庁の再編」や実施部門の「エージェンシー(独立行政法人)化」などを柱とした行政システムの見直し(以下「見直し」)について、次のとおり意見を申し述べます。
1.「中央省庁の再編」など行政システムの見直し全般について
1.行政の実態や内容を十分検討せず、単なる数合わせ的な「中央省庁再編」や経費縮減の みを前提にする「エージェンシー化民営化」には反対です。
【理由】
「中央省庁の再編」をふくむ行政システムの抜本的な「見直し」は、単なる「数合わせ」や経費縮減を前提にして行なわれるべきではなく、国民の立場にたって「民主公正効率的な行政」の実現と公務公共サービスの充実強化の観点から、現行の行政の具体的な内容に則して検討される必要があると考えます。
現行の運輸省が所管する行政に則していえば、運輸気象行政は、国民生活と経済活動に直結するもので、公共性と安全性の確保、公害の防止、環境保全など多岐にわたる政策の 確立とその積極的な展開が必要となっています。
これらの政策目的を達成するためには、交通基盤整備と交通管理および気象事業の総合的な政策と体制の確立は必要だと考えます。
【補強意見】
(1)いま国民に求められているのは、「民主、公正、効率的」な行政の確立です。
行政改革会議は、「行政改革」の具体化にあたって、政策部門と実施部門を分離することを前提に、「中央省庁を再編縮小する」ことを検討しています。
しかし、この「中央省庁の再編」の重点目標が、防衛外交治安および危機管理を目的とした「内閣機能の強化」におかれている一方、国民生活の向上と福祉の増進のために果たすべき行政の役割や、公務公共業務による国民への行政サービス向上の視点を欠落させていることは、私たちが求めている「民主、公正、効率」を基本にした真の行政改革とは相容れないものです。
(2)「中央省庁の再編」は、国民への公務公共サービスを否定するものです。
「見直し」の中心課題である「中央省庁の再編」構想は、現行の22省庁を整理統廃合して「おおくくり再編する」としています。しかし、この構想とその具体化は、今日における公共事業補助金に代表される「省益権益」をいっそう肥大化させ、中央集権的官僚的行政を温存する一方で、国民生活と経済社会に不可欠な行政組織を縮小廃止することになります。
これでは、行政機関による公務公共サ−ビスを提供できないばかりか、国の行政の役割そのものが問われことになり、国民への甚大な弊害をもたらすことになります。
(3)国民生活と経済活動に直結する運輸気象行政に関わっては、今日、公共性と安全性の確保、公害の防止、環境保全など多岐にわたる政策の確立とその積極的な展開が、国民諸階層からつよく求められています。
これらの政策目的を達成するためには、交通基盤整備と交通管理および気象事業の総合的な政策の確立をはかるとともに、国民の行政ニーズに対応できる運輸気象行政体制をいっそう充実強化することが重要です。
また、国民が求めている効率的な交通ネットワークの構築の課題では、陸海空にわたる輸送のモ−ドの横断的な総合的施策の検討と同時に、これに関する企画立案調整機能と実施機能を相互補完関係においた円滑な業務運営体制を、今後とも維持強化することが緊要になっています。
こうした運輸気象行政の課題からみて、「中央省庁の再編縮小」は、陸海空の全分野にわたる運輸行政の総合性一元性を損ない、国民生活と経済活動に不可欠な運輸行政組織を解体分散させることになりますので、受け入れることはできません。
なお、交通政策の民主的な決定システムを構築する課題として、現行の非民主的な審議会方式を抜本的に改革することを当面の課題としつつ、基本的には、「国民参加と情報公開」を原則とした制度を新たに構築し、労働者、国民の意見が反映できるシステムを確立することが重要であることを申し述べます。
2.「政策部門と実施部門の分離」および実施部門を「エージェンシー化または民営化する」 ことには反対です。
【理由】
交通政策部門と実施部門は相互依存関係にあることから、その一体的な運営と連携が必要です。
また、交通運輸行政気象事業は、国民生活に直結する公共性の高い分野であり、エージェンシー化や民営化でなく、国の責任で実施すべきであると考えます。
【補強意見】
(1)交通政策部門と実施部門は相互依存関係にあることから、その一体的な運営と連携が必要です。
貴会議が検討している「政策部門と実施部門の分離」構想は、同会議での検討過程で「一般原則で両機能を分離することは困難」あるいは「実施部門から離れては有効な政策の企画立案を行い難い部分あり」(5月1日付け「中間報告」)とする意見にも示されているとおり、運輸行政の行政対象が、空港港湾鉄道施設などの交通基盤整備と交通事業者の事業運営管理であることから、この2分野を軸とした交通システムを構築するためには、政策機能と実施機能の統一的有機的な連携が有効であり、双方を分離することはできないと考えます。
本来、行政が国民に対して負うべき責任を果たし、その行政目的を達成するためには、社会保障、労働、交通運輸など各行政分野ごとに法律で区分されている権限と事務を統一的に遂行検証することが必要です。
その意味では、権限を政策部門に留保したままで、事務執行責任のみを実施部門に委ねる「分離」システムを運輸行政に適用した場合、運輸行政の責任の所在を曖昧にし、利用者国民が求める総合的一元的な行政展開を不可能にすることになります。
(2)国の公共サービスは「公正、公平」が基本です。
実施部門(業務事業)の「エ−ジェンシ−化または民営化」構想は、「改革の理念」(討議資料)にも示されているとおり、「国の責任領域を見直し、事務事業をスリム化する」ことが主たる目的になっています。
しかし、こうした目的の「エージェンシー化」および「民営化」構想とその具体化は、各方面からも指摘されているとおり、「行政の効率化」を口実として、公務公共部門に私企業的な「採算性を優先する」システムを導入することにより、国が国民に責任を負うべき「公正公平」の憲法理念はもとより、国民の利便と福祉を確保する公務公共部門の役割と責任を投げ捨てるものであり、交通運輸気象行政における各業務事業には全く馴染むシステムではないと考えます。
2.各業務・事業の「政策部門との分離」及び「エージェンシー化」に ついて
貴会議の「実施部門のエージェンシー化」の検討では、運輸行政に関わる「自動車、船舶、航空機、鉄道の登録検査」をはじめ、「港湾空港の建設と管理」「航空海上管制」「気象庁」が対象になっています。
しかし、運輸行政における、こうした業務事業分野は、国民の交通権(自由に移動する権利)の保障、安全確保と公害防止など、公共性の高い分野であり、採算性効率性を基本とした「エージェンシー」方式ではその行政目的が達成されないと考えられます。
したがって、以下のとおり各分野別に、意見を申し述べます。
1.自動車船舶航空機鉄道の登録検査業務の「エージェンシー化」に反対です。
−省略−
2.航空管制を軸とする航空保安業務の「政策部門との分離」および「エージェンシー化、 民営化」に反対です。
−省略−
3.港湾空港の建設管理の「政策部門との分離」および「エージェンシー化民間化」に反対 です。
−省略−
4.気象庁の「エ−ジェンシ−化民営化」には反対です。
【理由】
国土ならびに国民の生命、身体および財産を災害から保護することは、国の重要な責務です。
また、天気予報はすべての国民に等しく提供され、国民生活に必要不可欠な情報である こと、気象業務が国際協力を要する事業であることなどから、気象庁の「エージェンシー 化」や「民営化」には反対です。
【補強意見】
(1)防災情報の提供は、国の重要な責務です。 天気予報にとどまらず、地震や津波、火山、大雨、洪水に関する情報や観測デ−タなど気象庁が発表している情報は、国や都道府県などの防災に直結しています。
中央防災会議が決めている「防災基本計画」では、地震、津波、風水害、火山、雪害などの対策について、気象庁に「情報の収集伝達」を求めています。とくに、震災対策については、「地震が発生した場合、まず気象庁が地震情報および津波予報等の連絡を、官邸、関係省庁、関係都道府県および関係指定公共機関に行う」ことが定められ、重要な責任を負っているところです。こうした情報は、国民の生命と財産に大きくかかわるもので、台風、大雨、地震、火山などの自然災害が多いわが国においては、とりわけ重要です。
また、注意報警報のように災害に結びつく恐れのある情報は、民間の気象会社が各社勝手気ままに発表したのでは、デマや流言飛語など、社会的混乱が発生する引き金になる恐れさえあります。
以上のことから、防災情報の提供は、国の行政機関である気象庁が国の責務として行うべきです。
(2)気象庁の天気予報はナショナルミニマムです。
天気予報については、気象庁の発表だけでなく、すでに民間の気象会社による情報提供も行われています。しかし、これには明確な役割分担があり、気象庁はナショナルミニマムとしての予報を、民間は特定ユ−ザ−を対象とした予報を行っています。
仮に、気象庁によるナショナルミニマムとしての天気予報がなければ、わが国は「天気予報すらも国が提供できない国家」ということになってしまいます。また、お金持ちや財力のある自治体に居住している住民は豊富な情報を入手できても、そうでない人や過疎の町村では、入手すら困難になる恐れもあります。
このように、天気予報は防災情報であると同時に、国民が生活していくうえで必要不可欠な情報であり、ナショナルミニマムとして、国が責任をもって国民に提供すべきです。
(3)気象業務の健全な発達を図ることも気象庁の重要な任務です。
気象庁の重要な任務には、気象業務の健全な発達を図り、災害の予防や交通の安全確保、産業の振興に努めることもあります。気象業務をめぐっては、また、現在の多様化する気象業務のニ−ズに応えるには、気象庁だけでなく、関係省庁や地方自治体、さらには民間気象会社などと共にすすめなくてはなりません。
気象庁は、社会に対して提供される情報の信頼性を維持向上させるため、こうした機関に対する指導、助言、勧告を行う責任をもっており、そのことからも気象業務の「エ−ジェンシ−化、民営化」はなじまないものです。
(4)気象業務は国際的なものであることから、国の責任で業務を行うべきです。
気象庁は東アジアの中枢的な気象機関として、これらの諸外国から期待されています。気象衛星のデ−タは、アジア、オセアニアなど27の国や地域で利用されているほか、WMO(世界気象機関)の台風委員会では、発展途上国へ、気象衛星「ひまわり」を無線中継局としたデ−タの提供を行うよう求めています。さらに、近年、地球的規模での観測監視が必要な気候変動や地球環境問題、CTBT(核実験全面禁止条約)監視のほか、航空路火山灰情報の提供なども求められています。
また、「大気に国境はない」といわれるように、気象デ−タは国際交換され、全世界に提供されています。仮にロシアや中国の気象デ−タが入手できなくなれば、わが国の気象業務に多大な影響を及ぼすことは明らかであり、気象業務はこうした世界各国の協力で成り立つ業務です。
こうした国際協力、国際貢献という視点からみても、気象業務は国の事業として行うべきです。
(5)観測デ−タの収集には莫大な経費がかかり、高額な「情報料」を徴収することは困難です。
天気予報にとどまらず、地震、火山、海洋、オゾン、気候変動などを観測監視し、的確な情報を発表するためには、精度の高い観測デ−タが必要です。しかし、こうした観測デ−タを収集するためには、アメダスやレ−ダ−の設置、気象衛星の打ち上げ、海洋観測船の運航のほか、点検修理や更新など、維持管理に莫大な経費が必要です。
一方、気象業務を民営化した場合、当然「採算性」が問われることになります。観測デ−タの収集に必要な経費をまかなうためには、かなり高価な「情報料」を、国民、民間気象会社、航空会社、マスコミ、さらには関係行政庁や都道府県などにも求めざるを得ません。
現在、多くの国民は、天気予報や地震情報をテレビやラジオ、新聞などのマスメディアを通して無料で入手できます。また、「177」の天気予報サ−ビスや気象官署への天気相談も、通話料だけの負担ですむことが定着しています。
こうした状況のなかで、高価な「情報料」を徴収することは、きわめて困難であり、納税者からは「税金の二重取り」と批判されかねません。加えて、「防災情報すらも情報料の負担がかかる」という行政のあり方自体が国の責任放棄であり、憲法で保障された「生存権」との関わりで問題となりかねません。
(6)「民営化」では不採算部門が切り捨てられる恐れがあります。
採算性が問われると、いっそう予算に枠をはめられ、その制約から地震計やレ−ダ−などの観測機器の更新もままならない状況になると考えられます。とくに、観測デ−タの収集は経費がかかるため、採算がとれないものについては観測を廃止されることが考えられます。さらに、人間の目による観測(目視観測)や監視が否定され、機械の能力の限界を超えた機械化がさらにすすめられ、測候所をはじめとする気象官署の廃止縮小が加速する恐れが十分あります。
その結果、観測デ−タが質量ともに現在の水準から大きく低下し、世界に誇るわが国の気象地象観測体制が失われる恐れがあります。また、気候変動対策、地球温暖化予測、地震予知や火山噴火予知などの業務は、長期的な視野での観測、監視、研究が必要であり、こうした部門での業務や研究自体は「民営システム」ではないがしろにされる恐れがあります。
(7)兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)などの教訓が行政に反映されなくなります。
1995年1月に発生した兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)では、尊い人命とひきかえに、防災情報のあり方、伝達方法、組織や体制などについて多くの教訓が残されました。
そして、こうした教訓が「防災基本計画」などに反映され、指定行政機関のそれぞれが果たすべき役割が強調されています。災害予防において、情報の収集や発表という重要な役割を果たしている気象庁が民営化されると、こうした教訓を正確に引出し、行政に反映させることができなくなります。
3.運輸行政の「一元化」問題について
−省略−
4.研究機関の再編・統廃合について
研究機関を他の省庁との研究機関と統廃合することには反対です。
【理由】
(1)研究部門と行政実施部門の一体性が必要です。
船舶技術研究所、気象研究所など交通運輸気象に関する研究機関は、合理的な安全基準の策定や事故防止など交通安全技術の開発、地震予知をはじめとする自然災害対策など、行政各部局や実施部門と相互に密接な関係をもち、一体的な組織運営や人事交流が行なわれています。
たとえば、気象研究所で開発された各種の数値モデル(台風、気候、海洋など)や地震活動解析システムなどは、気象庁の業務としてとり入れられ、日常の業務に役立てられています。
こうした成果は、人事交流もふくめた研究部門と実施部門との一体性から生み出されたものが多く、引き続き、現在のシステムを維持すべきと考えます。
(2)基礎的な研究が軽視されるおそれがあります。
政府(人事院も含めて)は、科学技術基本法制定や研究員調整手当の規則化など、国立試験研究機関における研究の活性化を求めています。しかし、このなかでは一部の先端的な分野の研究が重要視され、長期的な研究や基礎的な研究は軽視されています。
交通運輸、気象業務にかかわる研究は、事故防止、交通公害の防止、地震予知、火山噴火予知、気候変動、地球温暖化など、長期の視野で研究するものが多く、こうした基礎研究が軽視される恐れがあります。
5.「行革」に伴う公務員の雇用・労働条件について
行政改革に伴う国家公務員の身分、雇用関係の変更には、当該労働者と労働組合との協議と合意が必要です。
【理由】
中央省庁の再編、エージェンシー化や民営化など、現在、貴会議で検討されている行政改革は、現に働いている国家公務員の身分雇用、労働条件に重大な影響を与えるものです。これは公務員労働者の基本的人権にかかわる重大な問題です。
行政改革にともなって、現に働いている国家公務員労働者の身分雇用、労働条件が変更される場合には、当該労働者と労働組合との協議と合意が必要であると考えます。
以 上
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